東京 CITY POP 70's

Fun! Fun! Fun! File 東京 CITY POP 70's

(初出『 Groovin'』2004年9月25日号)

 このところ70年代の音楽やファッションが、特に若い世代から新たな感覚を持って再評価され、脚光を浴びている。そんな動きと呼応するかのようにまず今年3月末には『はっぴいえんどBOX』が発売され、未発表音源を大量に含むこのBOXと詳細な資料を通して、70年代初頭のJ-POPS/ROCKシーンを代表する彼らの活動のほぼ全貌が明らかになった。これには衝撃を受けた方も多かったことと思う。さらに『風都市伝説 1970年代の街とロックの記憶から』が出版され、はっぴいえんどを中心とした当時の彼らを取り巻く状況を、当事者の証言と綿密な取材を通して知ることが出来るようになり、一層70年代シーンの再検証が進んだことは記憶に新しい。そしてこれを契機として70年代の日本の音楽を捉え直そうとするリスナーも、若い方から当時を知る世代にまでさらに増え、やっと日本のシーンを点ではなく、線上のものとして捉えようとする見方も定着しつつある。
 これを書いている私も、中学時代に耳にしたYMOや大滝詠一の名盤『ロング・バケイション』を切っ掛けとしてJ-POPSに大きな興味を抱き、80年代前半の高校時代にはそのルーツを辿る過程で初めてはっぴいえんどやティン・パン・アレーの音楽と出会い、傾倒していったという思い出がある。しかもそのルーツ探しの旅の中で、例えばユーミンの初期の演奏は当時YMOで一世風靡していた細野晴臣がかつて在籍したキャラメル・ママが担っていたという事実や、コーラスは吉田美奈子やシュガー・ベイブだったということ、そしてその向こうには、バッファロー・スプリングフィールドやプロコル・ハルムといった60〜70年代にかけての米英のシーンも見え隠れし、音楽の楽しみ方や聴き方の幅と、ルーツを辿る楽しさをそこから学ぶことが出来た。この時の体験は今でも自分の中でのいわば骨格になっており、歴史と伝統を知った上で音楽に接し楽しむ、しかも音楽を点として捉えるのではなく、現在まで続く線上に置くことでさらに立体的に見ることが出来る、その考え方や見方、聴き方を身につける原点になった。実はこういった聴き方が出来るかどうかが、音楽をより楽しめるかどうかの重要な分岐点にもなり、一度この聴き方を身につけてしまえば楽しさは倍増する。恐らく今の若い世代にとっては、目から鱗の連続となるような発見も沢山隠されているのだ。
 さてそんな中、70年代を中心としたいわばはっぴいえんどから"アフターはっぴいえんど"までもを網羅した充実の編集盤『東京 CITY POP 70's』発売された。本作はビクターのみならず、URC、ベルウッド、パナム、ワーナーなど10社に跨る音源を集めたもので、はっぴいえんど、大瀧詠一、はちみつぱい、大貫妙子、ティン・パン・アレー、あがた森魚、矢野顕子、吉田美奈子ら錚々たるアーティスト達による名曲を満載した、究極のベスト盤。昔から彼らの作品を追いかけてきたコアなファンには決して珍しい音源ばかりという訳ではないが、若い世代にとっての入門編としては格好の内容であり、また当時のシーンの流れを把握するにも最適な選曲だ。最近、はっぴいえんどやティン・パン・アレーに注目するようになったリスナーには、是非お聴き頂きたい。しかも解説は、シュガー・ベイブやティン・パン・アレーなどと共に当時から現場で活躍されてきた長門芳郎氏で、矢吹申彦氏によるジャケットも素敵。しかもボーナスとして、80年代録音からフランク永井の「WOMAN」(山下達郎作)と、森進一の「冬のリヴィエラ」(大瀧作)も収録されているなど、心憎い演出も。
 ただ単に懐古趣味に走るのではなく、常に新しい耳と感覚で昔の作品に接するとき、そこには新たな思いと発見と解釈が生まれる。昔からのファンはもちろんのこと、本作は是非若いリスナーにお薦めしたい。J-POPSの流れとそこに通じるミュージシャン達の志向が、きっと新鮮に響くはずだから。

Text by 土橋一夫

『東京 CITY POP 70's』収録曲目
【disc 1】
01:空色のくれよん/はっぴいえんど(71年) 02:それはぼくぢゃないよ/大瀧詠一(72年) 03:さよならアメリカ、さよならニッポン/はっぴいえんど(73年) 04:扉の冬/吉田美奈子(73年) 05:眠れぬ夜の小夜曲/南 佳孝(73年) 06:ぼくの倖せ/はちみつぱい(73年) 07:愛は幻 /大貫妙子(76年) 08:しらけちまうぜ/小坂 忠(75年) 09:ソバカスのある少女/ティン・パン・アレー(75年) 10:卒業写真/ハイ・ファイ・セット(75年) 11:スカイレストラン/ハイ・ファイ・セット(75年) 12:ハリケーン・ドロシー/細野晴臣(75年)  13:100ワットの恋人/鈴木 茂(75年)  14:冷たい雨 /ハイ・ファイ・セット(76年) 15:ひとり芝居 /石川セリ(76年) 16:火の玉ボーイ/鈴木慶一とムーンライダース(76年)

【disc 2】
01:蝶々-San/細野晴臣(76年) 02:ハイサイおじさん/久保田麻琴と夕焼け楽団(75年) 03:つめたく冷して/あがた森魚(76年) 04:気球にのって/矢野顕子(76年) 05:8分音符の詩/鈴木 茂(76年) 06:READY TO FLY(シングル・ヴァージョン)/高中正義 (77年) 07:恋のブギ・ウギ・トレイン/アン・ルイス(79年) 08:恋は流星〜Shooting Star Of Love/吉田美奈子(77年) 09:時よ/吉田美奈子(78年) 10:Midnight Love Call /石川セリ(77年) 11:日付変更線/南 佳孝(78年) 12:もう二度と/松任谷正隆(77年) 13:あの頃のまま/ブレッド&バター(79年) 14:はらいそ/細野晴臣 [Harry Hosono &The Yellow Magic Band](78年) 15:テクノポリス/イエロー・マジック・オーケストラ(79年) <特別収録> 16:WOMAN/フランク永井(82年)  17:冬のリヴィエラ/森 進一(82年)

V.A.
『東京 CITY POP 70's』
東京シティ・ポップ 70's-J.jpg




ビクターエンタテインメント
発売中
CD(2枚組)
VICL-61491〜2
¥3,400(税込)

70年代を中心としたはっぴいえんどから"アフターはっぴいえんど"までもを網羅した充実のコンピが登場!レコード会社10社に跨る音源を集め、はっぴいえんど、大貫妙子、ティン・パン・アレー、あがた森魚、矢野顕子ら錚々たるメンツによる名曲満載の究極のベスト。解説は長門芳郎氏、ジャケットは矢吹申彦氏。

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