風味堂

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風味堂

風味堂、期待の3rdシングルは僕たちが失いかけたトラヴェリング・ハートを
蘇らせるようなナンバー。夢でも現実でも旅の目的地には、
やっぱ、楽園が広がっていて欲しいですよね。

(初出『Groovin'』2005年4月25日号)

 フウミドウ…。バンド名を聞いただけでも、一筋縄ではいかなそうな感じは読み取れるが、音を聴いてみると、やはり、というか案の定である。風味堂は、Vo&Pianoの渡和 久、Dr&Choの中富雄也(かつや)、B&Choの鳥口マサヤの3人編成である。3人という点だと、SING LIKE TALKINGやBEGIN、ギターレスという点だと、ベン・フォールズあたりが参考資料として浮かびそうだが、どうもそれとも違う。ロックはもとよりソウルやジャズ、ボサ・ノヴァなどあらゆるジャンルをPOPという概念で昇華させているスタンスは、ハイ・センスなたたずまいである。ただ、そういいながらも決してアーバンな印象は受けない。どちらかといえば、「下町」的な感じがする。人気アニメ"こち亀"の主題歌「葛飾ラプソティ」を彷彿とさせるような人の「情」的なものを歌っていうようにもみえる。
 2ndシングル「ナキムシのうた」を聴いたときの僕は、少なくともそうカテゴライズした。よくよく考えれば、このジャジーなピアノはニューオーリンズ風でもある(アメリカの下町はニューオーリンズだという認識が正しいのか分からんが…)。Dr.ジョンってたしかこういう雰囲気だったよな、とか中途半端な知識を総動員してみたり。まあ、それはいい。
 で、3rdシングル「楽園をめざして」である。ちょっと、イメージ変わったな(いや、根本的には変わってないのかも知れないが)。なんでも「2005 JAL CMソング」という新人としては異例の大型タイアップも決定し、この楽曲のクオリティの高さが早くも評価された形だ。"さあ!翼を広げ!" "知らない国まではばたくのさ"という、今までの割とご近所的なところで済ませていたシチュエーションが一気に広がった印象を受ける。この振り幅をどう解釈すればいい?実は、よく歌詞を見ると「夢の中で二人は鳥に…」と云っている。う〜ん、この「楽園をめざして」は観念の世界、もしくは理想の世界を描いているとすれば納得がいく。ドメスティックさは貫かれている。しかし、この下町的、庶民的なところから「楽園をめざして」という飛躍に何かがオーヴァーラップする。そうか!これは「ドラえもん」なのかも知れない。のび太が、タイムマシーンという夢の世界の扉を開けたとき、普段のドジでノロマなのび太から、一皮むけたような大活躍をみせる。観ている僕たちは感動と同時にある種のカタルシスを手に入れることができる。それと似た感触で夢の世界であっても、旅の本質を手に入れることができるということだ。
 ということは、逆にいえば本当の楽園に行けたとしても、満たされることのない場合だってあるかもしれない。要は"楽園"足りうる感触を手に入れることこそが重要なのだから。そんなトラヴェリング・ハートの根幹にふれるかのような今作である。世界中のどこへでも金さえあれば行ける今だからこそ、かつてハワイが庶民にとって「夢のハワイ旅行」だった頃の気持ちへの哀愁を感じたくもなるというものだ。ちなみに僕のここ数年の一番の遠出は名古屋です……。

Text by 松本真一(小田原なるだ店)

『楽園をめざして』
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ビクターエンタテインメント
4月27日発売
Maxi Single
VICL-35795
¥1,100(税込)

前作「ナキムシのうた」のメロウなテイストから一変、開放的でノリのよいアップ・テンポの曲に仕上がった風味堂の3rdシングル。「2005 JAL CMソング」にも決まった今作は、彼らのキャパシティの広さと、来るべきアルバムの好感触をも予感させる珠玉の1枚。

【風味堂 Official WEB SITE】http://www.fumido.jp/

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