SINGER SONGER

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SINGER SONGER

もう、日本ロック史の名盤に入れちゃっていいんじゃないですか?
奇跡的なバンド、SINGER SONGERの奇跡的作品ですから。
至高のばらいろ世界へと誘ってくれます。

(初出『Groovin'』2005年6月25日号)

SINGER SONGER-A.jpg 5月25日のデビュー・シングル『初花凜々』に続いて、矢継ぎ早で6月29日に1stアルバム『ばらいろポップ』を届けてくれる強者揃いのSINGER SONGER。メンバーは、岸田 繁(くるり)、佐藤征文(くるり)、くるりのサポート・メンバーである堀江博久、ダイ太郎、そして(心待ちにしていた人も多かったのではないでしょうか?)紅一点の歌姫、Coccoの5人だ。
 1997年にシングル「カウントダウン」でデビューしたCoccoは、しなやかな美しい声で、自身の傷や人間の残酷さを剥き出しの感情で歌ったかと思えば、血生臭ささえやすやすと飲み込んでしまうような慈愛に満ちた歌を祈るように歌っていた。彼女の作品からは、自分の感情に訴えかけるものがあった時、泣いたり笑ったりするのと同等の表現手段として、歌わずにはいられなかったのだろうということが切々と伝わってくる。歌うことによって痛みを和らげる自発的な衝動だったのだろう。彼女の表現者としての稀有な才能というのはそこにあるのかもしれない。彼女ほど愚直ともいえる真摯さで、(正しい道かはわからないけど)道を切り開いていたアーティストを他に知らない。
 本当はそこそこ、ってのいうのが一番楽に生きていけることを知ってしまっている私は、彼女が切り開いた先に見えるものを、彼女の背中から客観的に見せてもらっていた。しかし、120%の力で無理をして攻撃し続ければ、どんな事柄でも破綻してしまう事がある。デビューから続いていた彼女の快進撃に、私は彼女がおかしくなってしまうんじゃないかと(おせっかいだろうが)本気で心配していた。そして彼女が2000年のアルバム『ザングロース』で音楽活動を休止すると聞いて、残念に思うと同時にほっとしたのも正直な感想だ。活動を中止した後は、ゴミゼロ運動、2冊の絵本を出版するなど、マイペースに活動を再開してきた彼女が、SINGER SONGERのメンバーとして、大口開けて笑いながら帰ってきた。本当に良かった。
 さて今回のアルバムだが、M-1「SING A SONG」、M-10「初花凜々」は、くるりの緻密に計算されたポップ空間と甘い伸びやかなCoccoの歌声と、幸せ寄りの歌詞の世界が見事なさじ加減で融合されていて、SINGER SONGERの代表曲といって間違いないだろう。また、メルヘンちっくな歌かと思えば、結構ぎりぎりの甘い愛の歌M-2「ロマンチックモード」などもある。唯一岸田氏が作詞/作曲の「雨のララバイ」は、珍しくCoccoが他人の曲を歌っているが、このナンバーは彼女のとげとげしさを丸く磨いたように感じられて、新たな一面をそっと引き出している。そして、女神のような優しさで包んでくれるM-8「オアシス」も印象的。どの曲にも共通しているのは、5人の音楽に対する妥協を許さない個性が、ぶつかり合い過ぎず(これだけ個性が強いメンバーで構成されると、作品のクオリティーが相殺されてしまうことも…)、かといって溶け合いすぎず(5人の個性はちゃんと光っている)、奇跡のバランスの上で成り立っていることだろう。
 『初夏凜々』のジャケット写真からもわかるように、音楽に対し誠実な5人が、楽しくて楽しくてしょうがないという昂揚感を共有出来た喜びが本作には溢れている。『ばらいろポップ』というだけあって、ふんわりスカートが初夏の涼やかな風でひるがえるような爽やかな1枚だ。 

Text by 伊藤万裕(伊東店)

『ばらいろポップ』
SINGER SONGER-J.jpg




ビクターエンタテイメント
6月29日発売
CD
VICL-61651
¥3,045(税込)

Coccoとくるりのメンバー&くるりのサポート・メンバーによる奇跡のバンド、SINGER SONGERの1stアルバム。日本のロック&ポップ・ミュージックに一石を投じるであろう重要な1枚。スコーンと突き抜けながら無限の広がりをみせる、軽やかなポップ・チューン10曲を収録。

【SINGER SONGER】http://www.singersonger.com/

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