Mr.Children

SPECIAL SELECTION

Mr.Children

『シフクノオト』から約1年半ぶりとなる最新作『I♥U』(アイ ラブ ユー)は
人へ、モノヘ、そして自分自身へ向けたさまざまな「♥」に溢れたアルバム。
今作もまたMr.Childrenならではと言えるほどの、とても大きな作品だ。

(初出『Groovin'』2005年9月25日号)

Mr.Children-A.jpg 『シフクノオト』からの約1年半の間に、シングル『Sign』と初4A面シングル『四次元 Four Dimensions』がリリースされた。「Sign」はドラマ主題歌としても話題を呼んだ壮大なナンバーであったし、『四次元 Four Dimensions』においてはミニ・アルバムと言ってもいいほどの内容だった。それからまだ3ヶ月ということもあってか、今回のアルバム・リリースは意外に早く思えた。そしてあまりにストレートな『I♥U』というタイトルと、さらに「LOVE」を言葉ではなく「♥」で表したことについても、あれこれ想像を巡らしてしまった。
 …いつもそうだ。彼らは常に私たちの想像をこれでもかとばかりにかき立てる。例えば今作のジャケットを見ても、なぜ原稿用紙が上下逆なのかとか、トマトに意味はあるのだろうか、とか…そんな風にいつも聴き手に"考えさせる"。そして毎回、見事なまでに私たちの予想を遙かに超えた作品を届けてくれて、ありふれた日常にさまざまな光を見い出させてくれるのだ。
 今回もまた逸る気持ちで中を覗いて、自分なりの「♥」をひとつひとつの曲から探してみたけれど、そこかしこから出てきた数々の「♥」は、またしても想像を絶するものばかりだった。
 幕開けにふさわしいまっすぐな音と、目の前のずっと先までも照らすような歌詞に力強さを感じた直後に、ガラッと場面が変わる。現実という曖昧な怪物と格闘して、それが自分自身であったことに傷ついて、改めて外側から自分の姿を見てみた。するとそこにはとてもシンプルな"思い"だけがあった。その思いを大切な人に伝えて、返ってきた笑顔で胸がいっぱいになった。そして気付いた。気持ちを切り替えるだけで、違う角度から臨むだけで、目の前の世界は"変えられる"。
 そんな前半部分を経て、現実を見据えた痛快なアップ・チューン「ランニングハイ」で自分自身と再び格闘する。試行錯誤して紆余曲折あった後の爽快な疲労感を「Sign」のゆったりとしたメロディが夕焼けのように優しく包んでくれる。やわらかな風に吹かれていると、なんだか日々いろんなことがあるけれど、でも"大丈夫"だと思えてくる。時には"今"も"情けない自分"も笑い飛ばしてみよう。でも諦めたり投げ出したりはしない。改めて助走をつけて、力をたくわえて…もっと高く跳べるはずだ。それでも自分ひとりでは生きていけないから、愛する人を思って、信じて、守っていきたい。傷ついたり傷つけたりを繰り返しながらでも……。
 実際に聴くまでにいろいろと想像を巡らしてみたけれど、やはり今回も白旗を掲げてしまった。爽快な敗北感で、またしても瞼が熱くなった。人へ、モノへ、そして自分自身へ。形も色もさまざまな、溢れんばかりの「♥」が、音の粒となって自分の中へ入り込んできた。ひとりの人間の中に生まれたひとつの「♥」も、さまざまな内外的要因によってその形状を変えていく。時にいびつになったり力を失ったりしながら、けれど確かに育っていく。結果誰かが喜んだり、悲しむことだってある。「♥」の形は心臓にも例えられる。一番大切な部分。核となる場所。心を込めて、愛を持って、いかなる対象にも向き合っていければいい。ただただそのことが、何より強く作品から伝わってくる。「I♥U」(アイ ラブ ユー)…それは生きていくことそのものであるということをも、今作は表しているのかもしれない。
 常に聴き手に課題を与え続けるMr.Childrenが届けてくれた最新作には、今までで最もストレートな名前が付けられた。彼らが私たちひとりひとりにそっと手渡してくれた「♥」を、どんな風に育てていけばいいだろう。そんなことを思いながらまたPLAYボタンを押す。聴く度ごとに違う発見があることを知っているから、私たちはこれからも彼らの音に耳を澄まし続ける。自分なりの「♥」を大事に育てていくために。そして何より、自分らしく生きていくために。

Text by 二宮万里(編集部)

『I♥U』
Mr.Children-J.jpg




トイズファクトリー
発売中
CD
TFCC-86200
¥3,059(税込)

『シフクノオト』から約1年半ぶりとなる最新アルバム。これまでで最もストレートなタイトルが付けられた今作には、あらゆる対象に向けられたさまざまな「♥」が溢れている。そして作品のあらゆる場所に、生身の人間らしさを見つけることができる。今作もまた、Mr.Childrenならではと言えるほどの、とても大きな作品だ。

【Mr.Children オフィシャルサイト】http://www.mrchildren.jp/

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