上原ひろみ

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上原ひろみ

衝撃のデビューから2年。表現力が格段にアップした上原ひろみの3rdアルバムは、
充実のピアノ・トリオによるオーケストラ的なサウンドに取り組んだ意欲作。
全音楽ファン必聴!

(初出『Groovin'』2005年10月25日号)

上原ひろみ-A.jpg 上原ひろみの新作の原稿依頼を受けた時はまだ音源を聴いていなかった為、正直出来については期待と不安が半々であった。というのも、デビュー・アルバム『アナザー・マインド』を初めて聴いた時の衝撃があまりにも凄まじかったからである。これ以上の作品はそうそう出来ないのでは?と…。いきなりベースでアンソニー・ジャクソンが参加していた事を抜きにしても、トータル的にとてもデビュー作とは思えない完成度で、しばらくこのCDが私のカー・ステレオに居座る事となったのを覚えている。
 1979年に静岡県浜松に生まれ、6才よりピアノを始める。その後作曲も学んでいった彼女は何と17才でチック・コリアと共演し絶賛を浴びる。そして1998年に渡米し、翌年にはあのバークリー音楽院に入学。在学中に名門テラーク・レーベルと契約し、卒業を待たずに全米デビューを果たす。同年バークリーを主席で卒業。2004年には2ndアルバム『ブレイン』をリリースし、アメリカでニュースター賞を受賞し、今年1月には日本人女性初となるニューヨーク・ブルーノートで1週間連続公演を行い大成功を収める。そこには何と、あのポール・マッカートニーも来場するほど。その後日本国内においてもTV番組やCMにも出演し、大きな話題となった。
 と、彼女の紹介はこの位にして、新作の音源を早速聴いてみた。参加メンバーは2ndから引き続き、ベースにトニー・グレイ、ドラムにマーティン・ヴァリホラというトリオ。全体的な音数がかなり減り、以前の荒々しさは多少影を潜めた感があるが、ピアノ・トリオとしてのパワー、テクニック、コンビネーションはかなり充実しており、全体的にかなり完成度の高い作品に仕上がっている。オープニングは静かな哀愁さえ漂う「スパイラル」。遅いテンポの曲でも聴く者を飽きさせない表現力は、単に速弾きだけでないテクニックをしっかり備えているからこそ。1stアルバムのオープニング・チューン「XYZ」とは全く違った雰囲気でこのアルバムは始まる。M-3の「デジャブ」からテンポ・アップし、得意の変拍子も取り入れながら、徐々に彼女の魅力である「元気のでる」ピアノが展開されていく。そしてM-5の「エッジ」は、迫力のある彼女の強いタッチが印象的な前述の「XYZ」のような雰囲気を持つ曲で、途中のドラム・ソロもなかなかGOOD!M-8の「リターン・オブ・カンフー・ワールド・チャンピオン」は2ndアルバムの印象的なオープニング・チューン「カンフー・ワールド・チャンピオン」の続編。彼女はブルース・リー、ジャッキー・チェンを尊敬しているとか。ラストの「ビッグ・チル」(日本のみのボーナス・トラック)はオーソドックスなスロー・ナンバー。ちなみに「Chill」とはスラングでよく使われる「まったりする(くつろぐ)」といった意味。ぼーっとしている時に「何をしているのか?」と聞かれると「Just Chilling」という使い方をするそうだ。毎日忙しくしている現代人にたまには思いっきり「Chill」する事も必要、という気持ちを込めて作った曲である。私たちもこの新作を聴いてゆっくり「Chill」してみてはどうだろうか?
 11月からは日本でのツアーが決定しているが、9月に行われた東京、京都での日本公演にはテラークの大先輩でもあるジャズ・ピアニストのミシェル・カミロもゲストで参加。今後も更にワールド・ワイドに活躍する上原ひろみから、当分目が離せそうもない。

Text by 堀尾康弘(東川口店)

『スパイラル』
上原ひろみ-J.jpg




ユニバーサル ジャズ
発売中
[初回生産限定盤]DVD付 UCCT-9003
[通常盤]UCCT-1145
¥2,700(税込)

前作『ブレイン』と比べてもプレイに「深み」が増し、ピアノ・トリオによる完成度が更にアップした今作は、全曲彼女のオリジナルによる全9曲。3作目にして早くも貫禄すら感じさせる素晴らしい内容だ!日本先行リリース、初回生産限定盤は「カンフー・ワールド・チャンピオン」のライヴ映像を収録したDVD付。

※[初回生産限定盤]在庫終了次第、品番が自動的に[通常盤](CDのみ/UCCT-1145)に移行致します。

【上原ひろみ オフィシャルサイト】http://www.hiromiuehara.com/

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