松任谷由実

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松任谷由実

デビュー34年、34作目となるオリジナル・アルバムのテーマは"海"。
過ぎ去っていく時の「儚さ」「切なさ」を描いた、12編からなる短編小説集。
『acacia』から5年、ユーミンがまた夏に帰ってきた。

(初出『Groovin'』2006年5月25日号)

松任谷由実-A.jpg 未だ記憶に新しい、昨年の愛・地球博『Love The Earth Final』のテーマ・ソング「Smile again」でユーミンは初のNHK紅白歌合戦出場を果たし、2006年に入ってからも各種タイアップ曲が頻繁にテレビ、ラジオから流れ、この3月には元ちとせのシングル「春のかたみ」の作詞・作曲を担当。4月にはクレイジーキャッツ&YUMING名義のコラボレート・シングル「Still Crazy For You」をリリースするなど、去年から今年にかけ精力的な活動を続けるユーミンである。
 そんな中、彼女とはまったく別のところで飛び込んできた小さなニュース。"70年代から80年代にかけて若者の人気を集めたスポーツ・カー「セリカ」の生産と販売を近く打ち切る方針"…。1980年夏のアルバム『時のないホテル』に収録されていた「よそゆき顔で」に登場するクルマだ。まだそのクルマが存在していたことこそ知らなかったものの、なんとも言えない寂しさが胸をよぎった。ドアのへこんだ白いセリカ。ユーミンのチョイスする小道具はいつだって強烈に印象に残る。あれは確か夏の歌。あれから26年も経ったとは思えないほど、いつもユーミンの曲は歳月を超えて胸や耳や記憶のどこかで鳴り続けている。
 34作目となるこのアルバムのテーマはずばり"海"。どちらかといえば彼女の作品は冬の風物詩として捉えられることが多く、作品そのものが夏にリリースされることはあまり多くないもののいずれも名盤である。先述の「よそゆき顔で」を筆頭に、サマー・ナンバーの名曲も枚挙にいとまがない。だからこそタイトルに"SUMMER"とついた以上、はやる心を抑えずにはいられない。
 やっぱり彼女の曲は、瞬時にどこかへ連れて行ってくれる。潮風の匂い、湿った空気、海に落ちる夕陽…1曲ごとに違う景色が見え、1曲ごとに匂いが変わる。絶妙なテンポ感が容赦なくリゾート気分を盛り上げる躍動感たっぷりの「Blue Planet」から一転、潮風の中の寂寥感を感じさせる「海に来て」。さりげない回想の中にささやかな切なさをギュッと閉じ込めた「あなたに届くように」。そして近未来の大海原を感じさせるラストの「時空のダンス」まで全12曲。言葉やメロディ、アレンジのそこかしこに"ユーミンらしさ"の香りが息づいていて、その度に鼻の奥がツンとなるのだが、今のユーミン・ソングがオシャレなひとときのBGMにならないのは、背景を描きドラマを盛り込みながらも、現代の抱える闇を作品に投影させているから。キャリア34年を数える今のユーミンだから歌えるメッセージ、年を重ねたからこその視点を、さりげなく作品に表出させているからである。当たり前に変わる世の中。それにともない変わる心。それでも変わらない心。そんなものをこの夏の短編小説12編の中でユーミンは歌っている。
 キャリアを重ねてなお、旺盛な創作意欲と不変の少女性を保ちつづけることに感心するだけでなく、これからも手の届くところに置いておきたいユーミンの作品がまた1枚増えた。そのことが単純に嬉しくて仕方がない。

Text by 篠原美江

★好評発売中!
クレイジーキャッツ&YUMING
『Still Crazy For You』
松任谷由美-J シングル.jpg
東芝EMI
発売中
Maxi Single
TOCT-4983
¥1,000(税込)

『A GIRL IN SUMMER』
松任谷由実-J.jpg



東芝EMI
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CD
TOCT-25920
¥3,000(税込)

久しぶりの夏のアルバムとなる34枚目のオリジナル作品。大型タイアップ楽曲&話題曲満載の1枚。ボーナス・トラックとして、昨年末の紅白で歌われた愛・地球博『Love The Earth Final』テーマ・ソング「Smile again」を新たにユーミン・ヴァージョンで収録!

【松任谷由実 オフィシャルサイト】http://yuming.co.jp/

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