井上陽水

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井上陽水

井上陽水、約4年ぶりのニュー・アルバム!
30年以上も異彩を放ち続ける孤高の天才は、
今回も複雑で難解な言葉で愛の世界を紡ぎ出す!

(初出『Groovin'』2006年6月25日号)

井上陽水-A.jpg ベテランのアーティストにとって、アルバムのリリースというものは、ある種、その人の"今"を確認するツールとしての役割があると思う。その"今"というのは、アーティストが自分の今までの路線の延長線上にあるのか、流行の音楽に興味を持っているのか、創作意欲に溢れているのか、ネタ切れなのか…などを含めてのことである。たとえば、大物アーティストで、突然ジャンルの違う若手のプロデューサーを起用したり、「ダンス・ミュージックと融合してですねぇ…」などと言い出したりすることがある。時として聴く側は「え、何かあったの?」と思ったりする。そして我々はその人の音楽性に対し、勝手にあれこれとあらぬ想像を掻き立てたりもする。
 そういう意味において、2002年の『カシス』以来、4年ぶりとなるこのアルバムの井上陽水は、全く揺ぎ無いマイペースの中で、井上陽水的世界観から少しもずれることなく歩いていることを確信できる。本年でも陽水はご壮健でいらっしゃる、ということである。
 今年3月に先行シングル『新しい恋』をリリース、これは陽水自身が出演する"ザ・サントリーオールド"CMソングである。ちなみにこの曲は陽水自身の歌詞ではなく、ミュージシャンであり作家の町田 康が手がけている。またアレンジには、元はっぴいえんどの鈴木 茂を起用している。しかし聴けば分かるが、どっからどう切っても「陽水そのもの」という出来栄えである。これは、矢沢永吉の歌詞を誰が書いても、矢沢の歌詞になるのと同じ理屈であり、それだけ陽水的世界の揺るぎなさを証明しているものである。
 そしてそこから3ヶ月、いよいよアルバムのリリースという運びである。M-5の「架空の星座」の作曲が矢野顕子であることを除き、殆どの楽曲の作詞・作曲を手掛ける陽水であるが(一部共作有り)、アレンジにはお馴染みの星勝や佐藤 準、後藤次利などが参加し、曲としてはヴァリエーションのある仕上がりとなっている。言葉の響きから何かを察するしかないような、奇怪な表現が乱立している陽水ならではの詞の世界も全くもって健在であり、もはや孤高の芸術の域に達しているようにも感じる。M-2の「サイケデリック・ラブレター」(サイケデリックと言いつつレゲエ調)における"ヒスパニックなエスティシャン" "ヒステリックなプロバイダー" "レイキャビックでバドワイザー"の一連の流れるような曲の運びは、PUFFYの楽曲でもお馴染みの「アジアの純真」の1フレーズ"イラン・アフガン・きかせてバラライカ"に通じる、意味はわからないがニュアンスは伝わるという陽水の真骨頂であり、左脳は機能停止だが右脳はなぜか爽快だったりする瞬間である。それは、およそ真面目に歌詞のつじつまを合わせて、韻を踏んでいるHIP HOP系のアーティストをせせら笑うようにすら見えてくる。
 井上陽水は今年で58歳になるが、感性はいまだ鋭利である。そのことは今作11曲を聴いた誰もが確認でき得ることと思う。もし、ピンとこなければ、自分の感性が枯渇していることを疑うべき…。本作はあるいはそういうツールとしても有用かもしれない。

Text by 松本真一(小田原なるだ店)

『LOVE COMPLEX』
井上陽水-J.jpg




フォーライフ
6月28日発売
CD
FLCF-4143
¥3,059(税込)

約4年ぶりにオリジナル・アルバムをリリース。星勝、鈴木 茂、後藤次利、佐藤 準などのアレンジャーが参加し彩りを添えています。ジャケットには、クリエイティブ集団「TUGBOAT」を起用し、高感度なグラフィックを展開しています。

【井上陽水 オフィシャルサイト】http://www.y-inoue.com/

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