INOUE AKIRA & M.I.H.BAND 

ARTIST PICK UP

INOUE AKIRA & M.I.H.BAND 

歌姫、本田美奈子.の死から1年。彼女の生きる希望、歌への情熱を、
音楽家、井上 鑑と志を共にする福山雅治ほか日本を代表するミュージシャンが、
ひとつの楽曲として結実。ささやかな願いの歌『wish』、リリース。

(初出『Groovin'』2006年10月25日号)

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 2005年11月6日、歌手・本田美奈子.が急性骨髄性白血病で他界した。本田美奈子.のデビューは1985年。歌唱力が低くても許されたアイドルという立場にあってもそれに甘えず、カワイコちゃんであっても、ヘソを出しても圧倒的なヴォーカル力で自らの歌手道を切り拓いた人だ。後にロック・バンドを結成、果てはミュージカル、最後はクラシックに活路を見出す。アイドルでもロックでもミュージカルでもクラシックでも、とかく"コア"な人たちが、狭い選民意識の中で音楽を聴く中、そのメソッドに縛られるあまり、彼女を拒絶してきた向きも少なからずあったはず。だが彼女はチャレンジの度に湧き起こる賛否両論の中をただ"歌いたい"がために駆け抜け、結果を出してきた。敷居が高すぎて"その場所"に入れなかった人々を、歌手・本田美奈子.が伴って、招き入れた。風穴を開ける、ジャンルの枠を飛び越える。今となっては常套句にすらなっているチャレンジを、彼女は逆風を受けながら切り拓いてきた人である。年齢を重ねて衰える、もしくは枯れるどころか、いっそう張りのある、豊潤な歌唱を伴って…。
 その早すぎる死から1年。歌手復帰第1作となるはずだった曲がリリースされることになった。作曲は晩年の本田美奈子.の代表曲となった「AVE MARIA」や、アルバム『時』をプロデュースした井上 鑑。彼女の強い希望で新曲の準備していたという。詞は彼女が闘病生活の中で書き溜めていた言葉を一倉宏氏がまとめた。本田美奈子.の言葉が1年の時を経て、大きく呼吸を始めたのである。なお歌と演奏には、当時、井上がバンマスを務めていた福山雅治の全国ツアーに関わった錚々たるミュージシャンが参加している。コンセプトは"追悼"となっているものの、そこに堅苦しい雰囲気は微塵もない。故人を偲ぶ、というよりは、彼女と同じ音楽を生業とする者としての生命力溢れる演奏と歌、何より生きること、歌うことへの希望に満ちた曲調と詞が、楽曲を生き生きと浮かび上がらせている。
 「生きる意味は 生きること 生きる意味は 生きること」。このなんの変哲もない、だがこれ以上本質を突いた言葉は他に見当たらない。いわゆる職業作詞家の書く希望の歌、祈りの歌とは異なる、命あることの喜びを噛み締める人間の、ささやかな希望と強い意志がこの詞には宿っている。その真実の言葉が聴く者の心を打つ。若くして惜しまれつつも亡くなったひとりの女性シンガー。再び歌うことを強く信じ、その闘病生活の最中に書かれた詞。彼女の復帰を願うミュージシャン仲間たちの心からの賛同。その事実や楽曲が生まれた経緯がいつか忘れさられても、ささやかな幸せの本質を平易な言葉で綴ったこの歌は、いつの日もどんな時代にも色褪せることなく残っていくであろう。
 本田美奈子.が生きて歌うはずだった曲が、ここにこうしてひとつの作品として実を結んだ。だがやはりこの曲は本田美奈子.のための曲だ。録音に参加したミュージシャンたちも、きっとその想いを強くしたに違いない。井上 鑑のピアノをバックに、本田美奈子.の独唱する姿にふと思いを馳せた。叶わぬ願いと知りつつも。

Text by 篠原美江

『wish』
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ユニバーサル J
11月1日発売
Maxi Single
[初回限定盤]UUCH-9017 ¥1,000(税込)
[通常盤]DVD付 UUCH-5074 ¥1,200(税込)

昨年、惜しまれつつも他界した本田美奈子.の復帰作として予定されていた楽曲が、音楽プロデューサー井上 鑑と、その呼びかけに賛同した福山雅治をはじめとする日本を代表するミュージシャンの手により作品化。通常盤は「wish」の演奏シーンを収めたVideo Clipやメイキング映像を収録。

【INOUE AKIRA&M.I.H.BAND オフィシャルHP】http://www.universal-music.co.jp/wish/

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