竹内まりや

ARTIST PICK UP

竹内まりや

変わらずポップであり続けること。
そしてポップな中にロックな心を持ち続けること。
このバランス感覚は、竹内まりやだからこそ実現できるもの。

(初出『Groovin'』2006年11月25日号)

竹内まりや-A.jpg 最近、流行の音楽を聴いていて思うことがある。それは圧倒的に作為的な香りのする作品が増えすぎてはいないか?ということ。この作為的という言葉には語弊がつきまとうかも知れないが、僕が言いたいのは「聴き手を最初から想定して、こういう作品を作ればこういう感じのリスナーが付き、こういう媒体が取り上げるだろう…」というような、本来アーティストが考えるべきではないある種の第三者的発想を、作り手側が自身の作品に反映させてしまうことが果たして作品として見た場合にどうなのか?ということだ。本来、作り手とは、例えば自分の中に湧く創作意欲と好きなアーティストや音楽、楽曲に対してのリスペクトがあり、それに近づこう、もしくはそれを超えようと切磋琢磨していく中で優れた楽曲を生み出していくものだと思うのだが、いい作品を作ろうとすればするほど、純粋に音楽的なことのみに必然的に集中することとなる。つまりそれ以外の余計な所に神経を使う余裕など、本当はないはずだ。そしてその音楽に対する、いわば「無償の愛」的な姿勢は、必ずリスナーにも伝わるものだ。本当に感動できる音楽と出会った時、「この曲は一線を越えている」という感覚を僕等は抱くことがある。この感覚は自分の心の琴線に音楽が触れた時にだけ抱く特別なものなのだ。
 竹内まりやのニュー・シングル「スロー・ラヴ」とc/wの「Never Cry Butterfly」を聴いた時、僕はこの感覚を思い起こした。彼女の作品は新しい流行のフォーマットに則った最先端の音楽ではなく、むしろ従来からのスタイルを守る、あるいは本作などは特に昔に戻った感じさえ受けるものだ。しかしそれは決して後ろ向きな捉え方ではなく、あくまでも新しい作品でありながら、大切な部分、譲れない部分を大事にしている彼女だからこそのもの、と言う方が正解だろう。実際「スロー・ラヴ」を聴いた瞬間に、僕はかつて彼女の『VARIETY』を初めて聴いた学生時代の感覚を思い出し、年齢を経た今でも再びこの感覚を自分が抱けたことに喜びを感じた。この曲は現在フジテレビ系火曜9時に放送中のドラマ『役者魂!』(出演:松たか子、藤田まこと、森山未來、加藤ローサ、香川照之ほか)の挿入歌としてO.A.中なので既にお馴染みだが、山下達郎のプロデュース&アレンジで、演奏するのも山下達郎の他に、伊藤広規(EB)、佐橋佳幸(EG)、難波弘之(Key)といういつものメンバーで、流石と唸らせる熟練した演奏を聴かせてくれる。そしてこの中に感じられる、一見ポップでありながら実はロックな(それは精神的な面も含めて)一面と、好きなサウンドを追及してきた一途さが、この作品に「今の空気感」を吹き込んでいるのだ。
 そして見逃せないのがカップリングの「Never Cry Butterfly」…これは99年にリリースされたピカデリーサーカスの1stアルバム『Piccadilly Circus』収録曲のカヴァー。ピカデリーサーカスは、竹内まりやとは学生時代からのバンド仲間である杉真理、そして杉真理と多くの共作を生み出し、BOXなどのバンド仲間でもある松尾清憲、ポール・マッカートニーばりのVoで根強いファンを持つ伊豆田洋之、チューリップのドラマーである上田雅利、オールウェイズで活躍した風祭東、杉真理のバンドでギタリストとして活動してきた橋本哲によるバンドで、その名の通りビートルズを始めとするブリティッシュ・ビートの影響を独自に昇華させたサウンドで人気を誇る。かつて僕が竹内まりやにインタヴューした際にも「私がもし男だったら、絶対にピカデリーサーカスのメンバーになっていたと思う」という発言が飛び出すほど、彼女にとっても理想的なサウンドを奏でるバンドなのだ。そして今回、その夢は叶った。演奏とコーラスをピカデリーサーカスが担当し、そこにメインVoで竹内まりやが、そして山下達郎(AG)が加わった、夢のトラック。前作「シンクロニシティ」ではかつてデビューした頃に活動を共にしたセンチメンタル・シティ・ロマンスとの共演が話題となったが、「Never Cry Butterfly」のレコーディングもまさに彼女の音楽的ルーツを再確認する1つの大事な出来事だったに違いない。
 素晴らしい音楽や仲間は、時を経て再び繋がり、ループしていくもの。そのループを「新しさ」という言葉を武器にブッタ切ってしまうことが、音楽界の発展に繋がるとは僕には思えない。精神的にはフレッシュに、でも温故知新の心を忘れずに…そしてポップな中にロックな心を持ち続けること…このバランスこそが、竹内まりやの音楽に惹かれる最大の理由なのかも知れない。

Text by 土橋一夫(編集部)

『スロー・ラヴ』
竹内まりや-J.jpg



ワーナーミュージック・ジャパン
12月6日発売
Maxi Single
[初回盤] CD-EXTRA仕様 WPCL-10377
[通常盤]WPCL-10388
各¥1,000(税込)

フジテレビ系火曜9時ドラマ『役者魂!』挿入歌としてもお馴染みの「スロー・ラヴ」は、変わらぬ彼女の美メロと爽快感溢れるサウンドが心地よい名曲。c/wはピカデリーサーカスのカヴァー曲で、彼女にピッタリなバラード。なお初回盤はCD-EXTRA仕様で、「スロー・ラヴ」メイキング映像や「シンクロニシティ」ミュージック・ビデオを収録。

【竹内まりや オフィシャルサイト】http://www.smile-co.jp/mariya/

inserted by FC2 system