一青 窈

ARTIST PICK UP

一青 窈

デビューから5周年を迎える2006年、第1期一青 窈の集大成となる
ベスト・アルバムがリリース。これまでの軌跡をなぞらえ、感じ、
更には次なる一青 窈へと繋がる16曲を収録した、彼女の分岐点となる重要作品。

(初出『Groovin'』2006年11月25日号)

 「もらい泣き」という歌がテレビから流れてきた時のことを今でも鮮明に覚えている。懐かしいような、でも斬新な響き。幼子の夏着のような赤いワンピース姿に素足で歌うその人の、「ひととよう」という希有な名前。「ええいああ」なる不思議な節回し。独特の佇まいや、少し特異なプロフィールも手伝って、どうにも耳に残るその曲は、あちこちで話題になりヒットした。それから丸4年。デビュー5周年の始まりにキャリア初のベスト・アルバムがリリースされる。BESTとYOをくっつけて"べすちょ"と読ませるセンスはいかにも彼女らしい。
 ここに収められているのは、これまでに発表されたすべてのシングル表題曲のほか、シングルのカップリングとして収録されていた隠れた名曲、アルバム収録曲などを含めた文字通りベストな16曲。デビュー曲で鮮烈な印象を残した彼女はその後、「大家」「アリガ十々」で家族を回想、「金魚すくい」「江戸ポルカ」では大胆かつ実験的とも呼べる作風にチャレンジ。"癒し系歌姫"という括りをひょいと飛び越えて見せたりもした。2004年には彼女の代表曲となる「ハナミズキ」を発表。9.11のテロ事件をモチーフに書かれたとはいえ、頭でっかちな"反戦歌"には到底ならず、"君と好きな人が百年続きますように"という、なんとも無垢な願いが綴られた彼女ならではのバラードだ。初主演映画『珈琲時光』の主題歌となった「一思案」では、彼女の尊敬する井上陽水が曲を提供している。
一青窈-A.jpg                     多彩な作風の中一貫しているのは、彼女が手がけた詞がすべてノンフィクションに限りなく近いものであること、そしてすべてが自分の身に起こった小さな出来事、それに対するささやかな思いからスタートしていることだ。独特の筆致で綴られる、家族、恋人、友達、世界のこと。時に世界観は大きくなり、また時にはあなたと私の小さな物語に収束する。女性として人間として、生きていればこその裏表に光を当て、それを叙情的にも小悪魔的にも奔放に表現してきた希有な存在である。またキャリアを重ねてもなお、余計な装飾がつかない歌唱も特筆すべきものだ。
 その彼女がひとつのターニング・ポイントを迎えたのは昨年、今年と2年連続で出演を果たした「ap bank fes」、そのプロデューサーである小林武史との出会いだろう。本人曰く「一青 窈という型にはまっていた」彼女は解放され、生身をさらしはじめ、より自分本位になることで表現者として変貌を遂げつつある。このアルバムにはそのキッカケとなった「指切り」と、今年のフェスで披露された小林プロデュースの最新曲「てんとう虫」も収録。このアルバムは彼女の軌跡を振り返るベスト作品集、名曲集という意味合いだけでなく、今までの一青 窈とこれからの一青 窈の架け橋となる重要な1枚になると思う。
 「後ろめたいことは何もしてないのに なんでなのかわからなくて 何もかもを見せることがまだできないの」。彼女自身が音源化を切望していたという「てんとう虫」にあるそんな一節に、5年目の一青 窈を思う。

Text by 篠原美江

『BESTYO』
一青窈-J(初回).jpg 一青窈-J(通常盤).jpg



コロムビアミュージックエンタテインメント
11月29日発売
CD
COCP-34052
¥3,150(税込)

デビュー曲「もらい泣き」、代表曲「ハナミズキ」他、全シングル表題曲とタイアップ曲、アルバム収録の人気曲までを網羅した初のベスト・アルバム。今年夏の「ap bank fes'06」他で披露され、音源化を熱望されていた新曲「てんとう虫」も収録。初回限定パッケージ仕様。

※写真は左が[初回盤]、右が[通常盤]のジャケットです。

【一青 窈 OFFICIAL SITE】http://www.hitotoyo.ne.jp/

inserted by FC2 system