本田美奈子.

ARTIST PICK UP

本田美奈子.

昨年11月、急性骨髄性白血病により38才という若さでこの世を去った本田美奈子.。
生前に録音されながら未発表となっていた音源が10年の時を経て製品化された。
追悼盤『優しい世界』、リリース。

(初出『Groovin'』2006年12月25日号)

本田美奈子.-A.jpg 朝晩乗る地下鉄。ふと斜め上を見上げると、揺れる中吊りの中に見覚えのある笑顔。ピンクのドレスに身を包んだ彼女の右手にはマイク。細く伸びた左腕の先には、しっかりと握られた拳。広告の中、骨髄移植を呼びかけるのは、白血病に倒れ、だが最後まで歌うことを諦めずに生涯を全うした本田美奈子.、その人である。あれから1年が経った。
 今回リリースされるニュー・アルバムは、彼女の生前にレコーディングされていながら世にでることのなかった5曲(うち1曲はリミックス・ヴァージョン)に、シングルとしてリリースされた1曲のリミックス・ヴァージョンをひとつにまとめた、いわば未発表曲集。レコーディングは1996年。当時は本田美奈子.がポップス・シンガーからミュージカル女優へと活路を見出し始めていた、いわば過渡期であり、そのために発表を見送ったという経緯があるようだ。その上、本盤に収録されている唯一のシングル既発曲「shining eyes」以降の3年間、本田美奈子.作品のリリースが途絶えてしまったという事実は、彼女の20年にわたる音楽人生が方向性の模索も含め、決して順風満帆なものではなく、紆余曲折あったことを如実に物語っている。このアルバムはその過程の、ほんのひとコマに過ぎないかもしれない。だが、彼女のシンガーとしての経歴、その抜け落ちた部分が今回補填されることは、ファンにとっても、また長きに渡って"歌"に全情熱を注いでいた本田美奈子.自身にとっても大きな喜びであるに違いない。
 90年代的デジタル・サウンドをベースに、ダンス・ミュージック的アプローチあり、他作ながら彼女の意志が投影されたと思しき、ポジティヴなナンバーあり、ヴァージョン違いで2パターン収録されたエレガントなミドル曲「Sweet Dreams」ありと、全6曲30分弱というミニ・アルバムながら変化に富んだ1作。詞・曲ともに本人が手がけた「満月の夜に迎えに来て」は、元々彼女が持っていた小悪魔的な魅力が満載。シングル化された「shining eyes」も自身の作曲によるものだ。80年代半ばにデビュー、数々の職業作家によって与えられた佳曲から学んだ経験を、同時代的な解釈で自作曲に還元した彼女のメロディ・メイカーとしての気概が伝わる1曲だ。デビュー当時から晩年まで一貫していた、はっきりとした発音の朗々とした歌声はここでもまったく変わらずである。
 かくしてシンガー、本田美奈子.の年表は、未発表曲集のリリースという形で上書きされ、ここへきてさらに整うこととなった。その死により、"以降"が書き込まれることはなくなってしまったが、彼女の作品と歌う姿は、この先も人々の心に残りつづけるはずだ。
 1年が経ち、時折彼女を思い出しながら、人々は当たり前に変わり始めている。明日の朝、そして夕方、わたしはまた中吊りの中で、歌う彼女の変わらない姿を見ることができるだろうか。

Text by 篠原美江

『優しい世界』
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日本クラウン
発売中
CD
[初回生産限定盤]DVD付 CRCP-40164 ¥2,400(税込)
[通常盤]CRCP-40165 ¥2,100(税込)

急逝から1年。本田美奈子.がポップス・シンガーとして生き、歌っていた時代の未発表音源集がリリース。初回生産限定盤には、圧巻のスキャットで聴かせる隠れた名曲「impressions」+生前の貴重なオフショット映像を収録したDVD付き。

※写真は左が[初回生産限定盤]、右が[通常盤]のジャケットです。

【本田美奈子. オフィシャルサイト】http://www.minako-channel.com/

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