Sotte Bosse

i-depから飛び出した2人組！爽やかなカフェ・ミュージックを届けるSotte Bosse。
3rdアルバム『moment』では今井美樹の「瞳がほほえむから」などをカヴァー。
詞の世界観を深く理解したヴォーカルCanaが丁寧に歌いかける…。

（初出『Groovin'』2007年9月25日号）

　お洒落なカフェや雑貨屋さんのBGMとして頻繁に流れているところから、今ジワジワと人気を獲得中の2人組、Sotte Bosse（ソット・ボッセ）。J-POPの名曲をカフェ・ミュージック風にアレンジした安らぎサウンドが、お店で耳にしたお客さんの心の琴線に触れ、そのハートをグッと掴んでいる。アレンジはラウンジ系音楽でカリスマ的活躍を見せるクラブ・ジャズ・バンドi-depの司令塔ナカムラヒロシ。おそらく、Sotte Bosseのアルバムから自然と湧き出てくる、音を鳴らすのが楽しくてしょうがない！という空気の仕掛け人はこの方。そしてヴォーカルは同じくi-depのCana。つまり、Sotte Bosseとはi-depから飛び出した別プロジェクトのユニットなのだ。過去の作品を振り返れば、Sotte Bosseといえばほとんどがカヴァー曲。誰もが知っている馴染みの歌謡曲をCanaの粘り気のあるヴォーカルでボサ・ノヴァ風に響かせるマジックは実に華麗である。
　そのアレンジの鮮やかさは3rdアルバム『moment』にも健在だ。今井美樹の「瞳がほほえむから」はCanaの無邪気で軽やかなヴォーカルが心弾む明るいテイストに、米米CLUBの「君がいるだけで」は楽曲の持つポップ感を壊さないままに女性らしいカラフルな色へと変身させている。原曲の雰囲気から劇的な変化を遂げているのはMr.Childrenの「Replay」、そしてスピッツの「楓」。かなりテンポを落としたスローなアレンジでじっくりと時間かけてメロディを届けてくれる。特に「楓」のテクノ＆クラシック・アレンジからは、いかに彼らが丁寧に原曲に向かい合っているかが分かる。スピッツでは絶対に鳴らさない音なのに、不思議にスピッツらしい透明感や奔放さは消えていないのだ。ちなみに今回のカヴァー楽曲のセレクトはファンによるWeb投票を参考に決定しているという。名曲であればあるほどに、そこに手を加えることは躊躇われるような気もするが、原曲への尊敬と感謝を忘れないからこそ、Sotte Bosseの2人はこんなにも果敢にカヴァー・アレンジができるのかもしれない。
　もったいぶって最後に明かそう。今作の最大の魅力…それはSotte Bosseのオリジナル楽曲がなんと6曲も収録されていることだ。スーッと自然に体に溶け込んでくる絶妙のメロディはカヴァー・ワークの巧みさとは一味違う出会いを感じるはず。「ひとひら」で披露される安定感のある切ないメロディはむしろBGMとして聴き流すには粒が大きすぎて、お店で流れていたらつい聴き入ってしまう吸引力がある。「太陽のキス」は、常夏の海を思わせる伸びやかなポップ・ソングで、初めて聴いたはずなのに、あれ？これも誰かのカヴァー？と思うくらいの掴みがあった。中でもCanaの声の魅力を最大限に感じたのは「マンダリンパスタ」や「Take Me Away」といったアンニュイでガーリーなラヴ・ソング。独特の倦怠感がたまらない。ディズニー・ソング「アンダー・ザ・シー」を彷彿とさせる軽快なサンバ調の1曲「グッバイ」や、ジャズっぽい緩やかなレゲエ・サウンド「breathing Space」など、i-dep好きの触手を刺激するヴァラエティに富んだ音の融合は心躍るものばかりだ。またオリジナルとカヴァーを問わず、Sotte Bosseの楽曲はラヴ・ソングの収録が多い。その1つの答えが今回のオリジナル楽曲「Take Me Away」のワン・フレーズ「あのラブ・ソングは　ただずっとずっとここにあるから」という表現の中に見えた気がする。ハッピーなラヴ・ソングも悲しい恋の歌も…私たちの気持ちを代弁するようなたくさんのラヴ・ソングが世の中には溢れていて、そのうちのほんの数曲だけがきっと自分だけのラヴ・ソングとして生涯、心に根付いていくんだと思う。そういう曲と出会える喜びを大切にするからこそ、Sotte Bosseが創造し、また選曲するラヴ・ソングは自然と超個人的な想いを率直に表現したものへと集約されていくのだろう。アルバムを通してオリジナル曲と名曲のカヴァーを並列に聴いても、なんの違和感もなく受け入れられる理由も、Sotte Bosseの根底にあるラヴ・ソングへの向き合い方にあるように思う。

Text by 秦 理絵（編集部）