鬼束ちひろ

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鬼束ちひろ

すべての光と影のために…。
前作『Sugar High』から4年10ヶ月ぶりとなる待望のオリジナル・アルバムがついに登場。
さまざまな葛藤を乗り越え、再び舞い降りた「女神」の新たなる旅路が始まる…。

(初出『Groovin'』2007年10月25日号)

鬼束ちひろ-A.jpg 衝撃の活動休止宣言から2年。彼女はついにシーンに復帰を果たした。そして前作から4年ぶりとなるオリジナル・アルバムがついに発売される。今、目の前にある作品は紛れもなく鬼束ちひろの作品だ。彼女の独特の世界観を再び味わえることに喜びを感じずにはいられない。「すべての光と影のために」というコピーが示すように、アルバム全体に不安と期待、絶望と希望という相反する2つの要素を絶妙に配しており、過去の作品に引けをとらない素晴らしい作品に仕上がっている。本作の全体を通してのテーマは「旅」。自身の第2章、新たなる旅立ちという位置づけともなる本作はカントリーやフォーク・ソングのエッセンスを感じさせる軽快な「Sweet Rosemary」で幕を開ける。しかし過去にとらわれず、自分の決めた道へとゆっくりと歩み始めた順風満帆な船出と見せかけて、2曲目に「bad trip」という絶望的な楽曲を持ってくるところがいかにも鬼束らしい。続く「蝋の翼」は有名なギリシア神話をモチーフにした楽曲。イントロから小林武史のお家芸的なPOPでポジティヴな雰囲気をもった楽曲で、肩の力の抜けた、軽い感じで歌っているのが印象的。4曲目は最新シングルである「僕等 バラ色の日々」。散りゆく薔薇のように儚い夢を追い求める人間の性を描いた、鬼束ちひろの真骨頂である、美しくも儚い世界観をもった名曲だ。そしてロック・テイストを盛り込んだハードなナンバー「amphibious」、「everyhome」のカップリング曲「MAGICAL WORLD」に続く7曲目には「A Horse and A Queen」を収録。2ndアルバムへの収録を見送られ、お蔵入りしていた曲だが、たびたびライヴでも披露されており、ファンの間では収録が待ち望まれていた名曲だ。この曲のために本作を購入するという人も少なくないはずである。8曲目の「Rainman」はあの「育つ雑草」のカップリング曲。どことなくカーペンターズを彷彿とさせる、シンプルな楽曲で、イントロから小林武史らしいアレンジが施され一層輝きを増している。続く「Angelina」は「私はまだ死んではいない」「私が愛さなくて誰が愛する?」といった活動休止から再びシーンに復帰するに至るまで、彼女が何を思い、何に迷い、そして何故再びこの場所に戻るのかを自問自答しているかのように、生々しい感情をストレートに表現した楽曲。シリアスな曲調とは裏腹に、力強く、そして前向きなメッセージが込められている。そしてこの「Angelina」とラストの間をつなぐ賛美歌「BRIGHTEN US」。この曲がこの場所に収録されているのも非常に興味深い。"再び前に歩みだす自分に正しき道を照らし、どうか見守っていて欲しい"という意識の表れだろうか。そしてその光に導かれ、復活第一弾シングルである「everyhome」へとつながっていく。鬼束の持つ強烈な個性を最大限に生かす手法として、ピアノのみというシンプルな構成で制作されたこの壮大なバラードは、やはり本作のラストを飾るにふさわしい名曲である。
 2年間の活動休止の影響は決してゼロではない。しかしさまざまな不安や葛藤を乗り越え、この場所に戻ってくれたことを素直に感謝したい。そしてゆっくりと自分のペースで正しい道を一歩づつ進んで欲しい。「人生は長いのだろう」。

Text by 矢部信之(市原白金通り店)

『LAS VEGAS』
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ユニバーサル シグマ/A&M
10月31日発売
CD
[初回盤]DVD付 UMCK-9188 ¥3,300(税込)
[通常盤]UMCK-1230 ¥3,000(税込)

小林武史プロデュースによって、ついに復帰を果たした鬼束ちひろの待望のニュー・アルバム。さまざまに姿を変えながら耳に入り込んでくる珠玉のメロディと、あの歌声に再び巡り逢えたことに感謝したい。初回盤は「everyhome」「僕等 バラ色の日々」ビデオ・クリップ等を収録したDVD付き。

※写真は左が[初回盤]、右が[通常盤]のジャケットです。

【鬼束ちひろ official homepage】http://www.onitsuka-chihiro.jp/

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