綾戸智恵

ARTIST PICK UP

綾戸智恵

デビュー10周年にして、50歳を迎えた綾戸智恵のニュー・アルバムの
タイトルはズバリ『fifty』。アーティストとしての10年、ひとりの女性としての50年。
これまで共に歩んできた人々への感謝に溢れた傑作!

(初出『Groovin'』2007年10月25日号)

綾戸智絵-A.jpg 1998年に発表された綾戸智恵のデビュー・アルバム『For All We Know』を分岐点に、日本のジャズ・シーンは大きく変わったのではないだろうか。身長150センチ・体重38キロという小さな身体から放たれるパワフルな歌声、多彩な楽曲を織り交ぜた自由奔放なステージ、しゃべり出すと止まらない"大阪のおばちゃん"ライクなマシンガン・トーク。17歳での単身渡米、アメリカ人ミュージシャンとの結婚と離婚、乳ガン闘病と、決して平坦ではないこれまでの人生の機微が詰まった歌は、老若男女問わずに幅広い支持を獲得し、それこそジャズに触れたことのなかった人さえも、ジャズの世界へ引き込んだ。1人対100人ではなく、リスナー1人1人に届けようとする真摯なスタンス。心を揺さぶる音楽にジャンルなんて関係ない…彼女の登場によって、多くの人々が気付いたのである。
 デビュー10周年となる今年、初のラヴ・バラード集『Ballads』の発表や、全国およそ100公演に及ぶ記念ツアーなど、アニヴァーサリー・イヤーを彩る活動が活発だ。そんな中、メイン・ディッシュとも言えるニュー・アルバムがリリースされた。前作『SEVEN』以来、約3年ぶりの新録アルバムとなる今作のタイトルは『fifty』。そう、10周年と共に、"50歳"という人生の大きな節目も飾る1枚なのである。綾戸曰く「何もせずに50歳を迎えていたら、アルバム・タイトルに『50』とは付けられなかった」。ただ歳をとるのではなく、大切な人々と一緒に歳を重ね、誰がつついても倒れない塔を築き上げた…そんな自負があるからこそのアルバム・タイトルなのだ。
 数十曲に及ぶ候補曲の中から厳選されたのは17曲。オープニングを飾るのは、伝記映画が公開されるなど、再評価の機運が高まっているシャンソン歌手、エディット・ピアフの名曲「愛の讃歌」。これまで様々な歌手が歌ってきたこの歌を、息づかいのひとつひとつがすぐそばで感じられるような渾身のアレンジで聴かせる。人生の喜びや悲しみを"一編の短いドラマ"として歌い上げるシャンソンと綾戸智恵…相性が悪いはずがない!また今作には、イヴ・モンタンの「セ・シ・ボン」、ジャック・ブレルの「行かないで」、ジルベール・ベコーの「そして今は」もピック・アップ。彼女が奏でるシャンソンの世界をたっぷりと味わって欲しい。その他、60年代を代表するガール・グループ、シュレルズのヒット曲としても有名なキャロル・キング作の「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ」、初のピアノ・インストによる「グリーンスリーヴス」(イギリス民謡)、ブンブン唸るベースが渋い「ハートブレイク・ホテル」(オリジナルはエルヴィス・プレスリー)といった多彩なナンバーに続き、ラストを締めるのは、誰もが一度は耳にしたことのあるドボルザークの名曲「家路」。静謐な中にも力強さを湛えたこの曲は、10年間の歩みへの想いと、その先に続く道を照らす1曲として、静かな余韻を残してくれる。
 「いい尽せない50歳、四捨五入すると100歳。1日でも長く生き、1曲でも多く歌い、ひとりでもたくさんの人に会う」…この新作を前にそう語る綾戸智恵。彼女なら、ひょっとして本当に100歳まで歌い続けてくれるんじゃないだろうか?今後も目が離せない。

Text by 池 佐和子

『fifty』
綾戸智絵-J.jpg



イーストハウス
発売中
CD
EHSA-1001
¥3,000(税込)

前作『SEVEN』以来、約3年ぶりとなる新録アルバム。エディット・ピアフの代表曲として知られる「愛の讃歌」を始め、キャロル・キング作による「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ」、ドボルザークの名曲「家路」ほか、全17曲。情感豊かな歌声をどうぞ!

【綾戸智恵 公式サイト】http://www.ayadochie.com/

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