宇多田ヒカル

ARTIST PICK UP

宇多田ヒカル

「1人にしないで」ではなく「1人にさせない」。
「そばにいてね」ではなく「見捨てない」。
こぼれ落ちるフレーズに心撃ち抜かれる、真骨頂のバラード・ナンバー。

(初出『Groovin'』2008年5月25日号)

宇多田ヒカル-A.jpg

 今年はデビュー10周年。「Automatic」の衝撃からも、800万人が手にしたアルバム『First Love』からも、もうそんな長い年月が経った。あの頃、彼女を取り巻いた熱狂ぶりも懐かしく、今はしみじみと振り返ることができる。そんな気持ちになったのは、この節目の年にリリースされた最新作『HEART STATION』を聴いたからだろう。そのとき限りの流行りモノとして宇多田ヒカルを選ぶ人々が去り、ワイドショーの煽り文句とも、セールスを計る数字とも、高尚な分析とも別のところで、ただ彼女の音楽に期待し、作品を愛する人だけが残った今、最新の宇多田ヒカルの音楽『HEART STATION』の柔らかさ、シンプルさ、ポップさは大きなトピックのひとつだったと思うからだ。作品ごとに宇多田ヒカルとして新しい、宇多田ヒカルならではのポップ・ミュージックに取り組んでいる彼女だが、そのニュー・アルバムの中でもひときわウエットな質感で異彩を放っていたのが、今回シングル・カットされる「Prisoner Of Love」である。
 憂いを含んだ旋律、心の中の闇も欲も、いじらしいほどの想いも臆面もなくさらけ出した言葉、無防備なまでに訴えかけるセンシティヴな歌声に胸がざわつく。宇多田ヒカルの曲から感じる、この感覚は久しぶりだ。彼女曰く、<長く封印していた王道の楽曲>だそうで、そのクリエイティヴな姿勢には頭も下がり、大きく納得もするものの、聴く側の本能としてはこんな楽曲を待ち望んでいたというのも正直なところだ。作者の思惑はどうあれ、ただ耳にした楽曲に否応なく心奪われる。その興奮にも似たざわめきが、この「Prisoner Of Love」という曲からもたらされた。それほど訴求力の強い楽曲。これが彼女自身の最新の"真骨頂"なのだろう。カップリングには表題曲のQuiet Versionを収録。鍵盤とストリングスのみ、という必要最小限の音の中でたゆたう歌、そのしっとりとした感傷に思わず息をのむ。

Text by 篠原美江

『Prisoner Of Love』
宇多田ヒカル-J.jpg




EMIミュージック・ジャパン
発売中
Maxi Single+DVD
TOCT-40220
¥1,500(税込)

ニュー・アルバム『HEART STATION』から話題の楽曲をシングル・カット!ドラマ『ラスト・フレンズ』主題歌となったタイトル曲に加え、劇中に流れる同曲のQuiet Versionも収録。Video Clipを収めたDVD、8Pブックレット付き。

【Hikki's WEBSITE】http://www.emimusic.jp/hikki/
【U3MUSIC.INC】http://www.u3music.com/

inserted by FC2 system