椎名林檎

ARTIST PICK UP

椎名林檎

椎名林檎、縦横無尽の10年、熱狂の10年、茨の10年をコンパイル。
シングル・タイトル曲にも劣らない、濃密で軽やか、
かつ華麗な世界観を堪能できる充実の企画盤。

(初出『Groovin'』2008年6月25日号)

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 この5月27日にデビュー満10年を迎えた椎名林檎。そのアニヴァーサリー・イヤー記念企画の第1弾となるのが本作だ。シングル・カップリング曲を中心に、全22曲を収録した2枚組。裏ベスト、B面集といった趣からは微妙に外れているあたりに、ついニヤリとさせられる。"アルバム未収録曲集"とでも言えばいいだろうか。
 彼女がデビューしてからの10年は、人も世の中も日本の音楽シーンも、他と同調することをよしとする傾向がますます顕著になった10年であり、没個性であればあるほど生きやすいという悪しき結果を生んできたように思う。たとえそれが刹那なものであっても、だ。リアル、等身大、(薄い)仲間意識、感謝と回顧のオンパレードにシフトしていく中で、椎名林檎は圧倒的に孤独であり、個性的であり続けた。虚構の中の真実、またはその逆を行き来しながら、ひとつひとつのアイディアにこだわり、緻密に作戦を練り上げ、どこか特定のジャンルに寄るでもなく、作品ごと、ライヴごとにセンセーションを巻き起こしてきた彼女のような存在と音楽はもう生まれてこないかもしれないとすら思う。だから今、敢えて椎名林檎の10年を振り返ることは、"お祝い"とは別の意味でシーンにとっても有益であるに違いない。カウンター再び、である。
 と、大仰なことを書いてみたものの、これまでにないフラットな気持ちで彼女のアルバムを聴けたことにまず驚いた。椎名林檎という人の音楽に接するとき、図らずも求められる深い理解、一種の強迫観念のようなものをまったく感じずに済んだのは、彼女が初めて発表する"単なる作品集"だからだろう。ほぼ時系列に並べられた多彩な22曲からは、楽曲の背景にあるもの、それぞれのこだわりや仕掛けを、情報ではなく音楽のみから感じ取ることができる。いずれもポップで、いずれも高い完成度を誇るが、ストレンジな曲であれ、ノスタルジックな曲であれ、カップリング曲であったがゆえの存在感は、アルバムというひとつの括りの中で、また新たな個性を放っている。
 さらには、ノン・コンセプトだからこそ味わえるその奔放ぶりも面白い。声色と旋律、アレンジを駆使しながら色と心象のある情景を描いてみせたかと思えば、音像のみでイマジネーションの世界に引き込み、また時には容赦なくこちらの脳内を引っ掻き回す。切なく揺らぐ歌声に手を差し伸べれば、ノイジーなサウンドに突き放される。弛緩と緊張の狭間へ、すました顔で飛び込んでくるカヴァー曲…椎名林檎の醍醐味は、ここにも息づいていた。

Text by 篠原美江

『私と放電』
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EMIミュージック・ジャパン
7月2日発売
CD(2枚組)
[初回限定盤]TOCT-26574〜5 
¥3,800(税込)
[通常盤]TOCT-26576〜7 
¥3,600(税込)

カップリングに名曲あり!と誉れ高い椎名林檎の待望のアイテム。商品化のリクエストが最も高いアルバム未収録曲やシングル・カップリング曲を収録した充実のCD2枚組22曲収録。初回限定盤のみダブル紙ジャケット仕様、スペシャル・ライヴのチケット先行抽選予約チラシとロゴ・ステッカー封入。

『私の発電』
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EMIミュージック・ジャパン
7月2日発売
DVD
TOBF-5577
¥3,400(税込)

デビュー・シングル「幸福論」から、最新シングル「この世の限り」まで、椎名林檎10年の軌跡を全シングルのミュージック・クリップで綴る贅沢な映像作品。撮り下ろしの新作クリップ「メロウ」は初収録となる。初回生産分のみスリーブ・ケース仕様、10周年記念ライヴのチケット先行抽選予約チラシとロゴ・ステッカー封入。

【椎名林檎 公式サイト「SR 猫柳本線」】http://www.kronekodow.com/

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