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第102回
鈴木啓太(TSUTAYAすみや静岡平和町店)

(初出『Groovin'』2008年9月25日号)

 人並みの、いたって真っ当な暮らしをしていたって、、原油高が身に染みる。つい先日もガソリン・スタンドに行ったが、メーターの満タンラインがこんなにもいとおしいものになるとは…。数年前、免許を取得してホッコリホクホク舞い上がっていた僕は夢にも思わなかった。
 あれは総理大臣が安倍晋三に替わる秒読み段階だった一昨年の9月中頃、浜松市は浜名湖畔の自動車学校でのこと。大学の夏期休暇を利用し、僕は免許合宿に参加した。免許合宿というのは所謂ツメコミ日程で、初日からエンスト連発をしでかせば、更に帯同した友人もいないときた僕は、早々に心がガス欠してしまい、危うく湖に御年二十歳の身を投げてしまうところだった。
 ポータブルCDプレイヤーと数枚のCDを持参した僕だったが、感傷的になったメンタルや、周りのこれでもかというくらい豊か過ぎる水や木々といった自然のせいだろうか、湯川潮音の1stアルバム『湯川潮音』ばかり聴いていた。
 合宿所の朝は早い。AM6時には教員の拳が寮の個室のドアを叩いて廻り、嫌味のように残暑をお見舞いしてくれる強烈な日差しの下でハンドルを握り、路上のルールに耳を傾ければ眠気は最高潮に達することを怠らない。湯川潮音の声は、ハナレグミこと永積タカシ、くるりの岸田 繁が天使の声と賞賛するように、透明で、儚くも強い。朝は辺りの自然を讃えるように、夜は静かに豆電球の灯りを落すように、すっと心に瑞々しい何かが宿るような歌声である。
 そんなささやかな癒しもあり、すっかりドライバーの僕だけど、排気ガスを巻き上げるのはそこそこにしてもっと地球に優しく出来たらと、ふとそんな気になってしまう。天使の歌声に耳を奪われながら。

*なお次回は、富田和樹氏(TSUTAYAすみや静岡平和町店)が登場します。お楽しみに。

湯川潮音
『湯川潮音』
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EMIミュージック・ジャパン
発売中
CD
TOCT-25889
¥2,500(税込)


湯川潮音
『灰色とわたし』
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EMIミュージック・ジャパン
発売中
CD
TOCT-26518
¥2,800(税込)

1stアルバムはセルフ・タイトル。サウンド・プロデューサー陣の豪華さもさることながら、彼女のSSWとしての世界観は揺るぎなく全編に渡って感じとれる。今夏発売された2ndアルバム『灰色とわたし』も秀逸。季節の移ろいを天使の歌声とともに。

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