槇原敬之

ARTIST PICK UP

槇原敬之

あらゆる角度から人々を見つめ、みっともないほど
正直に自分自身を振り返る。"人それぞれ"を隠れみのにしない、
その人それぞれの、その日1日のためのアルバム。

(初出『Groovin'』2008年10月25日号)

槇原敬之-A.jpg 槇原敬之の新作が出る。ラヴからライフへとテーマが移行しつつある彼の近年の作品は、いわゆるメッセージ・ソングとしての役割を果たすようになった。だが、掃いて捨てるほどあるポジティヴ・メッセージの中で槇原の音楽が多くの人に愛され、またいつも心のどこかに引っかかっているのはなぜか。それは彼の言葉が詩という読み物ではないこと、普遍性のあるメロディと曲に即した必要十分のアレンジで、歌になり音楽になっていること、これに尽きる。「極上、良質、珠玉」と、敢えて形容する必要もないほど、大衆に向けたポップスの作り手としての存在感は、本作でもさりげないが濃厚だ。一編一編から立ち上る、いつも見ているような景色、ひとりの人間としての感情の機微。感動を強要するような熱唱もなく、泣かせる術ももたず、うまいことを言ってやろうという野心も感じさせずとも、それらは音楽として自然に心の奥底に忍び込み、乾いた細胞にうるおいを与えていく。そして同時に何かを喚起させる。さらに彼はもはや、揶揄や反論や批判を恐れてはいない。「そこまで言わなくても」ということに嫌悪を示すようになった現代人に向け、時として辛らつな、耳に痛い言葉を投げかける。それは嫌われないように、疎ましがられないように、空気を読んだ、いわば除菌された歌ではなく、汚れは汚れと認める"ほんとうのこと"に貫かれている。だから人は彼の音楽を選んでしまうのだと思う。
 友達のように気軽で、きわめて個人的な『Personal Soundtracks』が、誰かのサウンド・トラックになることを信じてやまないであろう槇原敬之。この作品は、詩人、メッセンジャー、さらにはアーティスト=芸術家であること以前に、彼が市井に暮らす一介の人間であることを、改めて証明してみせた。
 感謝だ思いやりだとメッセージ・ソングは溢れているのに、ちっともよくならない、ささやかな日常。"誰かのせい"を盾に、トゲトゲしくなる人々。日々の至るところで音楽は無力だと痛感しながら、でももう一度、槇原敬之の歌を聴く。

Text by 篠原美江

『Personal Soundtracks』
槇原敬之-J初回.jpg槇原敬之-J通常盤.jpg




J-more
11月19日発売
CD
YICD-70054
¥3,150(税込)

通算16枚目のオリジナル作。シングル2曲のほか、クレモンティーヌに書き下ろした「Chocolats et Sweets」と、M & THE RADIODOGS「僕の今いる夜は」の槇原敬之歌唱ヴァージョンも収録。初回盤にはボーナス・トラック1曲を含む全12曲収録。

※写真は左が[初回限定盤]、右が[通常盤]のジャケットです。

【槇原敬之 公式サイト】http://www.makiharanoriyuki.com/

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