Mr.Children

SPECIAL SELECTION

Mr.Children

人生の無意味も憂いも諍いも、生ある限り抗うことのできない
終末までもを超えて、なお人を信じたいと願う気持ち。
Mr.Childrenの最新作、すべてはあらゆる"君"に向けて。

(初出『Groovin'』2008年11月25日号)

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 「終わりなき旅」という曲が世に出てから、ちょうど10年が経った。どういう思いで桜井があの曲を書いたのか、といった類のことは作者の思惑、当時の心理状態などと関係なく歌は1人歩きし、多くの人の心を打ち続けてきた。それは桜井とMr.Childrenのものであったはずの歌が、聴く人それぞれの自分の歌になったということにほかならない。だから近年、桜井がことあるごとに口にしている「自分が音楽から受けた恩恵に対しての"恩返し"となる音楽を作っていきたい」云々という言葉には、個人的には「そんなことまで…」と思った一方で、彼の律儀な性格を改めて痛感した。あまたのリスナーが勝手に聴いて、勝手に泣き、勝手に励まされ、勝手に笑い、勝手に自分のことを歌っていると思う。モンスター・バンド、Mr.Childrenの音楽はそういう存在だったはずだからだ。
 だが彼は心底真面目に発言を貫いた。ソングライター、ミュージシャン、そしてバンドのフロント・マンとしての桜井の今の在り方は、アルバムの序盤に置かれた「終末のコンフィデンスソング」「エソラ」、ラストの「花の匂い」により鮮明に表出しているが、総じてニュー・アルバム『SUPERMARKET FANTASY』は、圧倒的に前向きで、紛うことなき"人のための"作品となった。
 それが好きだから音楽を作り、歌いたいことがあるから歌うという、前作『HOME』から続くフラットな姿勢は、目にしたもの、それに伴う感情をそのまま書いたような、細やかな叙情と叙景から成り立つ詞からも窺うことができる。そこからさらに視野を広げ、世の中に、人間に、グッと寄った楽曲が目立つ。ホームからスーパー・マーケットへ。なるほど、上手い事言ったものだと感心しているのも束の間、本作では悟りに近い、ひとつの境地に達した感がある。痛みも悩みも誰にでもあって当然であり、そこを打破しようとするための手助けや、治療、癒しという役割はすでに超えてしまった。現実を俯瞰し、それを踏まえた上で、今を楽しく乗り越える術を解いているように思える。疑問、諦観、答え、それがNOになったときの、さらに新しい答えまで用意されているあたりに、現代社会の閉塞感や疑心暗鬼が見えるようだし、「口がすべって」という曲では"人それぞれの価値観"という無関心を装った名の自己防御すら乗り越えようとする強い意志が感じられる。
 対象である"君"は、愛しく、時に手を焼く目の前の君であり、日常に寄り添うその人であり、見果てぬ誰かであり、いつかまた会えそうな、もしくはもう二度と会えない追憶の存在であったりするのだが、すべての"君"には、親バカという言葉のニュアンスに近い"人間バカ"とも呼べるほどの親愛が注がれている。そこに伴う歌は、軽やかさ、柔らかさを纏いながら、時に切実。もっといえば歌の範疇を逸脱した語りや叫びに近いものに変貌する瞬間が何度もある。肩の力が抜けたメロディ、贅を尽くし技術を駆使したゴージャスかつファンタジックなサウンドの中で、言葉と声はいっそう人間臭い輝きを放っている。

Text by 篠原美江

★『SUPERMARKET FANTASY』収録曲

01. 終末のコンフィデンスソング 02. HANABI 03. エソラ 04. 声 05. 少年 06. 旅立ちの唄 07. 口がすべって 08. 水上バス 09. 東京 10. ロックンロール 11. 羊、吠える 12. 風と星とメビウスの輪 13. GIFT 14. 花の匂い

『SUPERMARKET FANTASY』
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トイズファクトリー
12月10日発売
CD
[初回限定盤]DVD付 TFCC-86291 ¥3,359(税込)
[通常盤]TFCC-86292 ¥3,059(税込)

NHK北京オリンピック放送テーマ・ソング「GIFT」、フジテレビ系ドラマ『コード・ブルー 〜ドクターヘリ緊急救命〜』主題歌「HANABI」、配信限定でリリースされた「花の匂い」ほか、全14曲収録の15thアルバム。初回限定盤は特典映像を含むMUSIC CLIPを収録したDVD付き。

【Mr. Children 公式サイト】http://www.mrchildren.jp/

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