井上陽水

ARTIST PICK UP

井上陽水

長いキャリア中、
もっとも多くの聴衆の耳に届いた名曲たちを選んだ
井上陽水究極のバラードベストアルバム、発売。

(初出『Groovin'』2008年11月25日号)

井上陽水-A.jpg 本当に多作な上に、駄作のない人である。60年代末から活動をはじめ、およそ40年間、第一線にいながら飄々と時代を生きて常に名曲を発表しつづけ支持を受け続けるアーティストは、今一体何人残っているのだろう。ほぼ、私自身の人生の長さとそっくりそのままリンクする活動期間に驚嘆の溜息が出るばかりである。
 おそらく奥田民生ら若手のアーティストとのコラボを通じて得たファンも含めれば3世代に渡るであろう。ここまで日本の聴衆を惹きつける理由はと自分なりに考えてみたのだけれど、井上陽水の詞、曲、声に必ず登場するある種の"脱力"の快感が、時代とか流行とかを超えた普遍性を持っているのではないだろうか。楽曲の提供ということでも膨大な数にのぼり、そのアーティストの代表曲となっている曲も多い中、ひとたび、それをセルフ・カヴァーして歌った途端、今度は一気に陽水の色に(前からオリジナルで歌っていたように)染められていくのである。もちろん自作の曲なんだから、と思われるかもしれないが、あの強烈な3つの個性(詞・曲・声)に、スパイス(脱力?)がまぶされたときの求心力が普遍性の要因ではないかと考えている。
 井上陽水のバラードベストアルバムは、多くの楽曲の中から彼の魅力を最大限に活かしたトラックを集めたものになっている。彼のスロー・ナンバーを中心に収録しており、本人以外ではもっともその魅力に近いものを備えているであろう、玉置浩二とのコラボレーション「恋の予感」「ワインレッドの心」はやはり秀逸だ。そしてもうひとつ、彼の魅力を表現するときに多く使われる"透明感"もこのアルバムを貫く重要な要素である。個々の楽曲の際立ちはもちろんあるが、通して聴いていくと全てがひとつの風景の中で流れていく…例えば真冬の朝に、雪の道路を車で走るときの外の景色が異様にクリアに映るようなあの感覚である。最終曲に夏休みを彷彿とさせる「少年時代」も収録されているが、それも今度は真冬のBGMとして聴いてみてほしい、絶対にはまるから。

Text by 作山和教(宇都宮FKDインターパーク店)

『BEST BALLADE』
井上陽水-J.jpg




フォーライフ ミュージックエンタテイメント
12月10日発売
CD
FLCF-4269
¥2,800(税込)

井上陽水の長きに渡るキャリアから、まさにその時代、風景がよみがえる絶品のバラードのみを集めたバラードベストアルバム。彼独特の歌詞・曲の魅力をスロー・ナンバーで味わえると共に、その圧倒的な歌唱力と存在感を堪能できる秀逸な1枚だ。

【井上陽水 オフィシャルサイト】http://www.y-inoue.com/

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