ジェロ of Groovin2009

ARTIST PICK UP

ジェロ

女心のせつなさと凛々しさをクールに描いた別れ唄「えいさ」。
母への想いを率直に歌へと託した「晴れ舞台」。期待の新星が放つ2ndシングル。
00年代最後の年、ジェロの手で演歌はまた更新される。

(初出『Groovin'』2009年1月25日号)

ジェロ-A.jpg 近年稀にみる外国人演歌歌手としてデビューするやいなや、シングル「海雪」はオリコン初登場4位を記録。続く演歌・歌謡曲のカヴァー集『COVERS』もヒット。その礼儀正しさ、人懐っこさも手伝って、演歌のブライテスト・ホープは、もはやお茶の間の顔にもなりつつある。年末には念願の紅白歌合戦初出場を果たし、各新人賞を総なめにするという快挙を成し遂げた2008年のジェロ。その2枚目のジンクス、話題性を超えた歌い手としての本質が求められる初めての正念場、勝負作といえるのが本作「えいさ」である。
 まずタイトルが意表を突く表題曲は、繊細なストリングスに琴、尺八、二胡の音色が絡んでくる、Jポップ的にいうなら"和テイスト"を盛り込んだイントロが印象的なモダン歌謡。エレガントな中にある軽妙なテンポ感が、いわゆる土着的なそれとは一線を画す現代的な仕上がりに。別離を悟った女が未練を残しながらも報われぬ恋に自ら幕を引く。そんな心情を歌った曲だが、どこか諦観めいた風情を感じさせ、情念まみれにならないのが、聴く者に感情移入の隙を与えるジェロ歌唱のよさだといえる。おばあちゃんの影響で演歌歌手を志した彼が本当に歌いたいのは果たしてこんな洒落た曲なのか?とも思うが、ある一定層のみを視野に入れたのではない「演歌にして演歌にあらず」な方向性はもちろん、表面的にはベタなものを嫌う傾向にある世代にも手にとりやすい、クールさもポイントだ。作詞はかの一青 窈。演歌歌手に詞を提供するのは初、とのことだが、「金魚すくい」「江戸ポルカ」など、一青アナザー・サイドと呼べる曲を思えばそれほど不思議なことでもないだろう。一青自身がカヴァーしても十分に成立する。曲中、もっとも印象的なフレーズ「えええ…えいさ」は、「さらさ らいや」「ええいああ」などと同様、彼女独特の言い回しがここでも生かされている。
 一方、カップリングの「晴れ舞台」は、ドラマの導入部のようなニュアンスをもったイントロ〜歌いだしからナチュラルな移行をみせる"歌謡ブルース"。「海雪」での宇崎竜童起用も同様だが、かつて小椋 佳が梅沢富美男に、大瀧詠一が小林 旭に、吉田拓郎が森 進一にといった具合に、ニューミュージック系のシンガー・ソングライターが演歌歌手に書き下ろした曲のもつ意外性と垢抜け感、そこにどうしようもなく滲んでしまうドメスティック感がうまく機能。「アメリカで暮らす母親に、歌で感謝の気持ちを伝えたい」と、ジェロが直接、中村 中に依頼。中村が詞・曲を手掛けたというエピソードをもつ、ジェロの半生を描いた自伝的な1曲だ。ありがちなマイナー調の"母子唄"で湿っぽくせず、"いつか"を感じさせる明るい仕上がりになっているのが救いでもある。心優しく気丈な母ちゃんと、親思いの孝行息子。そんな理想の母子像を古めかしいと思うか、美しいと思うかで、聴き手にもたらす印象が大きく変わってくるであろうこの曲。親子の在り方も多様化してきた今の日本の現実を痛感しつつ、日々の生活から派生したブルース本来の意味を考え、また黒人の血を引く彼が新しいブルースをこの日本で歌っていることに、作為ではない感慨をおぼえた。

Text by 篠原美江

『えいさ』
ジェロ-J.jpg ビクターエンタテインメント
1月28日発売
Maxi Single
[CD]
VICL-36488
[カセット]
VISL-36488
各¥1,200(税込)
セールス30万枚超えのデビュー曲「海雪」に続く2ndシングル。作詞に一青 窈を起用し、"超・演歌"な女唄に仕上がった表題曲に加え、カップリングにはジェロの半生を中村 中が渾身の筆で描いた「晴れ舞台」を収録。斬新なジェロ演歌を堪能できる1枚だ。

【ジェロオフィシャルウェブサイト】http://www.jero.jp/pc/

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