吉田拓郎 of Groovin2009

ARTIST PICK UP

吉田拓郎

電撃発表された"最後の全国ツアー"。レーベル移籍後に再始動した
吉田拓郎のニュー・アルバムは、6年ぶりの全曲書き下ろしによる意欲作。
ありのままの"今"を映した充実の1枚。

(初出『Groovin'』2009年4月25日号)

吉田拓郎-A.jpg年長者と話をしていて、若者が辟易することばのNo.1は、おそらく「俺たちの若い頃は…」と続く長い昔話だろう。しかし、そんな長い昔話のなかにも、なんだかんだ言ってもうらやましいエピソードは結構あったりする。個人的にはいわゆる70年代の安保闘争からくる学生運動。現代からすると青臭い理念によって熱く燃え上がっていたのかもしれないけれども、友人や同級生たちと本音を戦わせながらけんか腰で議論する(もちろん政治や世界情勢ばかりでなく、恋愛や、映画・音楽など)ような"熱い関係"というのが、だんだん失われた後の世代からすると、ストレートにうらやましいとは言わないけれど、実はちょっと憧れてたりしてる後輩は確実にいるのではないか。
 こと音楽(いわゆるポピュラー・ミュージック)において、前述のエピソードを当てはめるならば、息子が聴いている音楽に反応し、「おお、それなら俺はリアルタイムで聴いてたぞ…」的なくだりで始まる長話なんかも当てはまりそうだが、これはお父さん、落胆しないで大丈夫、実はこの時もけっこううらやましがられるもの。息子の頭の中ではやっぱり一番感度が良い、一番音楽が体に吸収される10代後半〜20代ぐらいに、あれをリアルタイムで聴けたらどんなにすばらしいだろう…なんてことを想像してたりするみたいだ。現在の過去の名盤再発は、その頃リアルタイムで聴いていたリスナーが昔を懐かしんでというパターンが多いけれども、未知のアーティストの新譜として聴いている若い世代も確実に存在している。
 英米のロック・ポップから始まって、日本のフォークやロック、歌謡曲の名盤もその例に漏れず、後追い世代にとって、あの時代への憧れや未知の新作としてなどさまざまな理由から多く聴かれ、再発が進んでいるが、メジャーなアーティストもアングラなアーティストも並列に聴き進める後追い世代に対して、リアルタイム世代の"拓郎は別格"度合いの意味が、最近ようやく飲み込めてきている。彼の活躍とともに形成された、それこそあまたある武勇伝の数々を知らなくとも、フォークと歌謡曲とその時代の若者の気分を一気に結びつけたあの楽曲の数々は、時を経ても色あせることはないのである。
 近年の体調不良などで、なかなか自分の満足がいくような活動ができない中で、レーベルを移籍〜活動再開〜届けられたニュー・アルバムは6年ぶりに全曲書き下ろされたオリジナル・アルバム。吉田拓郎が歌い始めてからもうすぐ40年、彼を取り巻く時代や環境、自身の老いや健康状態も含めてめまぐるしく移り変わる中で、その時々を切り取る彼のファインダーは少しもぶれていない。今回もまた、多くのリスナーが彼の詞に自らを投影して癒されるのだろう。そして発表された"最後の全国ツアー"。もちろんそれを鵜呑みにして元気な拓郎を目に焼き付けておこうというノスタルジックな向きもあるだろうが、これだけの充実したアルバムをリリースしてくれる限り、我々は気長に待っていればよいのである。しばらくは、厳しい現実の中で「ガンバラナイけどいいでしょう」を聴きながら、地に足をつけて、マイペースで自分の道を歩めばいいのである。

Text by 作山和教

『午前中に・・・』
吉田拓郎-J.jpg
avex trax
発売中
CD
AVCD-23840
¥3,150(税込)
6年ぶりの新作。自身の現在の心境や生活を切り取った歌詞は、何気ない日常に彩りを与えてくれる。マイペースでいることの大切さを説いた「ガンバラナイけどいいでしょう」は秀逸。

【吉田拓郎 avex official website】http://avexnet.or.jp/takuro/

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