ARTIST PICK UP
ボブ・ディラン
およそ3年ぶりとなるスタジオ録音33作目!
映画への楽曲提供をキッカケにインスパイアされ、
ブルースを基調とした南部情緒漂うロマンティックな新作。
(初出『Groovin'』2009年5月25日号)
アルバムを何枚もリリースしているアーティスト(キャリアの長いアーティスト)には、やはりそれだけの作品を作り続けている偉大さを改めて感じる瞬間がある。どちらかと言うと苦手だったアーティストの音がふとしたキッカケで急に刺さる。そして、それが自分の中での探求ブーム、再評価ブームに繋がる。それはキャリアの長いアーティストや名盤でよく起こる現象で、これまで聴かなかったことを後悔する瞬間でもある。実際にこのようなことってボクだけではなくて意外と多くの人が経験していると思うのだが、どうだろうか?
ボクにとって、このような経緯で興味をもったアーティストのひとりがボブ・ディランである。代表曲をちゃんと聴いたことはないが知識として知っていた程度のボクにとっては、どうしても名盤『追憶のハイウェイ61』等のジャケットのイメージと歌声を一致させることができなかった。その後、ジョン・レノンと共にポピーとハーモニカを吹くボブ・ディランが登場する、みうらじゅんの漫画『アイデン&ティティ』や、みうらじゅんの語るボブ・ディランへのユーモアと愛情たっぷりでありながら熱い想いに接し、ラジオから流れてきた「ライク・ア・ローリング・ストーン」でノックアウトされ傾倒していくことになる…って余談はこれぐらいにして。
さて本作は、2006年『モダン・タイムズ』以来、およそ3年ぶりとなる33枚目のスタジオ録音作である。3年ぶりとはいえ、2007年はデビュー45周年のアニヴァーサリー・イヤーということもあり、ベスト盤『ディラン』のリリースや、ボブ・ディランの半生を6人の俳優たちが演じる伝記映画『アイム・ノット・ゼア』の劇場公開があり、2008年には同映画のDVDがリリース。毎年何かしらのアイテムがリリースされたり話題になっていたので、それほど久しぶりの感じがはせず、「待望」というより「早くも」が似合う新作の登場である。
本作は当初、2009年の秋に発売が予定されていた。しかし、オリヴィエ・ダアン監督(『クリムゾン・リバー2』『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』)の新作映画『My Own Love Song』への楽曲提供をキッカケにインスパイアされて一気にアルバムを完成させたという。映画がアメリカ南部に向けて旅をするという設定でもあり、本作は南部情緒漂うロマンティックな内容となっている。ブルースを基調にアコーディオンとヴァイオリンをフィーチャーしていることが本作のサウンド面の大きな特徴で、それが独特の懐かしさを演出している。映画『My Own Love Song』のエンディングとして使われる「ライフ・イズ・ハード」は、このアルバムの方向性を決定付けたと言ってもいいマンドリンとスティール・ギターが印象的なスロー・バラード。「アイ・フィール・ア・チェンジ・カミング・オン」は、ゆったりとしたグルーヴが気持ちいいブルース・ナンバーでアルバムの中でも1、2を争う傑作。ブギウギ・スタイルの「イッツ・オール・グッド」、骨太ブルースの「マイ・ワイフズ・ホーム・タウン」なども収録され、全編を通して自由に音楽を楽しんでいるような雰囲気に包まれた作品だ。このアルバムがボブ・ディランの世界との出逢いになればと願いつつ、ボクは更にボブ・ディランの探求を続けたいと思う。
Text by 常盤安信
『トゥゲザー・スルー・ライフ』
SMJI
5月27日発売
CD
SICP-2237
¥2,520(税込)
3年ぶりのスタジオ録音の新作。映画への楽曲提供をキッカケにインスパイアされ、ブルースを基調とした南部情緒漂うロマンティックな内容に。
【ボブ・ディラン メーカーサイト】http://ns.spf.sme.co.jp/Music/International/Arch/SR/BobDylan/