椎名林檎 of Groovin2009

ARTIST PICK UP

椎名林檎

作品や行動についてまわる仕掛けや理由や思惑をひとまず置き、
純粋に愉しみたい椎名林檎の音楽と11年目の"今"。
6年ぶりのオリジナル・アルバム、リリース。

(初出『Groovin'』2009年6月25日号)

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 椎名林檎が6年ぶりにアルバムを出した。そのニュースはちょっとした衝撃だった。昨年のデビュー10周年でもそれまでのキャリアを総括するような企画盤を次々と発表。バンド・東京事変の活動も継続している中での"椎名林檎の行く末"、オリジナル作3枚目以降の椎名林檎にどう期待していいものかという困惑もあったからだ。
 『三文ゴシップ』。まずそのタイトルに想像を掻き立てられ、翻弄される。『勝訴ストリップ』以来の漢字+カナで構成されたアルバム・タイトル、シンメトリーな曲の配置、直近のシングル「ありあまる富」を収録しないというこだわり…何かありそうな予感は相変わらずだったが、作品を聴いてまず驚いたのはその解放感だ。唯一無比の個性をもった人であるがゆえに、否が応でもこちらが身構えてしまうといった窮屈さを感じてしまうことがこれまでも度々あったが、本作はさにあらず。理屈や分析抜きに、ただ音楽を聴くという素直な行為の中で、心や耳のフックに引っかかってきた言葉や音を味わう。そうすることによって見えてくるものを確認する。それが許されるポップで自由なアルバムだ。軽く流れてはいかないが、繰り返し聴きたくなるという意味では、キャリア中もっとも理想的な作品でもある。
 斎藤ネコ、服部隆之、SOIL&"PIMP"SESSIONS、J.A.M、池田貴史、中山信彦、名越由貴夫、coba、ヒイズミマサユ機、浮雲といった個性的なクリエイターとタッグを組んだ縦横無尽かつ多彩な楽曲の中で、ときにコケティッシュに、あるときは無機質に、ときに無防備なまでに歌声で主人公を演じ分ける椎名。シリアスな世相を映し出すものから、純粋な女としての在り方を綴ったものまで、歌の中に浮かび上がってくる"生きる"というキーワードに、成熟した彼女の今を見る。
 ともあれ、この作品は先入観抜きに愉しみたい。かのデビュー作『無罪モラトリアム』でそうしたように。

Text by 篠原美江

『三文ゴシップ』
椎名林檎-J.jpg

EMIミュージック・ジャパン
発売中
CD
TOCT-26840
¥3,059(税込)
シングル『ありあまる富』に続く、ソロ名義としては約6年ぶりとなる待望のニュー・アルバム。配信のみでリリースされた「カリソメ乙女 DEATH JAZZ ver.」や新録の「丸の内サディスティック(EXPO Ver.)」を含む全14曲を収録。

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