いきものがかり of Groovin2009

SPECIAL INTERVIEW

いきものがかり

全国ツアーで幕をあけ、怒濤のシングル4作隔月連続リリースと多忙を極めた、いきものがかりの2009年。その締めくくりとなるのは、4thアルバム『ハジマリノウタ』。その内容について伺ったインタヴューの完全版を、大公開!

(初出『Groovin'』2009年12月25日号)

いきものがかり-Aメイン.jpg−−:さて、2009年はどんな年でしたか?
水野良樹:デビュー3周年を迎えて、いろんなことがしっかり見えてきた感じですね。前半はツアーで、後半はリリースとしっかり分けて着実にやれたなと思っていて。今までの3年間に比べたら、ひとつひとつ、より丁寧にできたかな、と思います。
−−:今まで以上にまとまりのある内容になっていた印象のニュー・アルバム『ハジマリノウタ』ですが、最初にコンセプトを決めてから制作されていったのでしょうか?
水野:そうではないですね。毎回アルバムを作るときは、それまでに出したシングル曲を軸にして、それだけでは見せられていないところを補うバランスを考えながら、候補曲の中からアルバム曲を選曲していくんです。そこから、選んだ全部の曲の共通点を探してアルバム・タイトルをつけるっていう場合が多いんですよね。今回もアルバム・タイトルを考えるときに、収録曲をズラーってホワイト・ボードに書いたんですよ。そうしたらディレクターが「てのひらの音」っていう曲を何故か「はじまりの音」って間違えて書いたんです。いつもはアルバム・タイトルを考えるのに凄く時間がかかるんですが、その間違ったタイトルを見て、「それ、いいんじゃないっすか?!」ってなって(笑)。
山下穂尊:「はじまりの音」っていう、その響きだったり、意味合いがなんか見えるような気がして。で、ただ「てのひらの音」っていう曲が実際に収録されるので、被らないように「ハジマリノウタ」で行きましょう、って事になって。
吉岡聖恵:今までで一番短い時間で決まって。でもこのタイトルになったことで、なんかこう気持ちがスッキリしたというか。急にアルバムがまとまりだした感じがしたんですよね。
水野:それで、タイトルが決まってから、曲順を決めていったんですよ。もともと「遠い空澄んで」っていう壮大な感じの曲があって、最初の僕らのイメージではアルバムの終盤に持ってこようかなと思っていたんですけど、歌詞の内容や曲が持っている雰囲気が「ハジマリノウタ」っていうタイトルに1番合っていて、これを1曲目に持ってくるといいんじゃないか、ということになって。
山下:僕らの作品の中で、こういう曲から始まるものは今までになかったので、ある意味冒険だったんです。でも、このタイトルが決まった時点ですごく良いなと思って。元々のタイトル「遠い空澄んで」っていうのをサブタイトルにして「ハジマリノウタ〜遠い空澄んで〜」という曲名にしたんです。結果的に凄く色んな良い意味合いが出てきて、アルバム・タイトルとしての「ハジマリノウタ」っていうのがすごくしっくりきたと思います。
−−:製作期間はどの位かかりましたか?
水野:シングル曲も含めると、1年くらいだと思います。アルバム曲自体は2ヶ月半くらい。
吉岡:けっこうぎゅっとまとめて今回作ったんですが、たとえば「てのひらの音」は学生時代に水野と山下が2人で学校の文化祭でやっていた曲なんですけど、そのときは完璧にアコースティック・ギターとハーモニカだけだったんです。それを今回は思いっきりバンド・サウンドにしようということになって。2人が本当に割り切ってたんですね。そんな風に自分たちもスタッフも、今まで一緒にやってきてくれたアレンジャーさんたちも、収録曲それぞれが持っている個性を一緒に分かってくれてたから、アレンジの段階ですごく大きく戸惑うってことがなくて、すんなりいったかなって感じでした。
−−:そんな新作『ハジマリノウタ』の中から3人それぞれの"推し曲"をお伺いしたいんですが…。
吉岡:全曲、みんな前にでたがっちゃってますからねえ(笑)。
水野:みんなフォワードになろうって曲ばっかりだけど…。やっぱり個人的には「じょいふる」がすごく好きな曲ですね。
−−:過去のアルバム曲で言えば「東京猿物語」とか「プギウギ」とかあるじゃないですか。その流れで一番突き抜けたという印象ですね(笑)。
水野:そうですね。今回は「Pokey」CM曲のお話を頂いて、(クライアントの方に)「聴いたら踊り出したくなるような曲にしてほしい」って言って頂いた経緯があったので、思う存分突き抜けることが出来たんです。で、例えば「YELL」や「ハジマリノウタ〜遠い空澄んで〜」「真昼の月」のように全然カラーの違う曲の中に、こういう曲もちゃんと居るということが僕ららしいなあと思うんです。いろんなタイプの曲があるっていう。そういう意味では凄く特徴的な1曲だと思います。
吉岡:私は「How to make it」っていう曲ですね。今回のアルバムの中でフックになるような…パッと弾けるような曲を入れようということで、アレンジャーにBEAT CRUSADERSのヒダカトオルさんの名前が挙がってきて。「じょいふる」っていう激しい曲が有りつつ、それとはまたちょっとカラーの違う曲なのかなって思っていて。ものすごくコンプ(=コンプレッサー)をかけていて、いつもより声がプリっとしているし、後半で目立ってくるハモリや、英語の歌詞が入るんです。今までに無い感じの曲なので、これは是非聴いてほしいなって思います。
山下:僕は…「真昼の月」。この曲はアレンジを本間昭光さんにお願いしたんですが、琴を入れてみたり、古語を使ってみたりしていて。これまでのどの曲よりも飛び抜けて"和"っぽい曲に仕上がっているんですよ。やりきった感じです。これもいきものがかりなんだよっていうのを言いたいし、知ってほしい気持ちはありますね。
−−:初顔合わせのアレンジャーの方も複数いらっしゃいますが、特に印象に残っている方はどなたですか?
水野:やっぱり、(「YELL」での)松任谷正隆さんは印象的でしたね。初めてお会いしたときにも緊張したし。でも、音楽に対してビックリするくらいフラットな方で。分かんなかったら分かんないって言っちゃう人なんですよね。僕らからすると何でも分かるように思えちゃうじゃないですか。だけど、「この音とこの音の違いは僕は分かんないけど、君らはどう思う?」とか言って下さって。でも判断をするときは凄く早くて。思いついたパターンを全部試してみるんだけど、自分が違うと思ったら「じゃあこれは無しで行こう」っていう。そこら辺の真っ直ぐさみたいな部分は凄く勉強になったし、ご一緒させて頂いて良かったなと思いました。
吉岡:自分たちのおぼつかない意見を、「それってどういうことなの?」って1つ1つ確認しながら噛み砕いていって、こっち側も、松任谷さん側も理解しながら、いろんな事をクリアにして進んでいくっていう作業をしたんです。松任谷さんに迷いが無いから、どんどんぽんぽん進んでいるように見えるんだけど、時間的にはいつも通りかけていたので、やっていることが凄く濃い感じがしましたね。オケをレコーディングしている時の松任谷さんの迷いのなさが、自分が歌入れしている時まで影響してきているような感じもして、凄く助けられた気がします。
−−:その「YELL」は、NHK合唱コンクールの中学生の部の課題曲でしたが、作られる際に気をつけたことはありますか?
水野:まずは、中学生の思い出になる曲だというところに凄くプレッシャーを感じました。合唱部の子たちは、約1年間に渡ってずっとその曲だけを練習するわけで、たとえ僕らが変な曲を作ったとしても、10年経っても20年経っても、聴くと当時を思い出すっていう彼らには大切な曲になってしまうな、と思ったんです。なので、とにかく中学生に対して誠実なモノになるように、今の彼らにとってリアルなものになるようにっていう所には凄い注意しながら作りました。ただ夢や希望を歌うだけにはならないように、思春期の中学生が持っているような混沌とした感じというか。そこら辺はちゃんと反映された曲にさせたいなと思いながら書いていきましたね。
−−:実際に参加される合唱部の方々に会いに行かれたんですよね。そこでもやはり刺激を受けましたか?
吉岡:「YELL」をレコーディングする前に、色んな合唱部の「YELL」を聴かせてもらったんですけど、自分が歌う前に誰かが完璧にしているいきものがかりの曲っていうのが生まれて初めてだったんですよ。それが凄く刺激になって。合唱部のみんなが、いきものがかりに「YELL」を聴かせようって歌ってくれるときに、こっちを見るわけでもなく、ただ真っ直ぐ前を向いて、隣の人とも目を合わせないけど、でも呼吸は合っているっていう。もちろん誰かに聴かせるっていうのもあるんだろうけども、まずその歌が好きっていうシンプルな気持ちを強く感じたんですよね。本当に目の前に真っ直ぐ向かっていくだけの「YELL」を聴けた気がして。「あ、何か忘れてたかも」というか…自分がライヴでみんなの前に立って歌うときって、どうしても聴いてくれる人の目を見たりとか、聴いてくれる人に何かを訴えかけようとしちゃう変な肩の力みたいなのが入っていたんだなって思って。自分が歌入れするときに、ちょっとプレッシャーになるかなって思ったんですよ。でも、それぞれの合唱部によって強弱の付け方も違うし、練習のポイントも違ったし、1つの曲に対して色んな歌い方だったり、色んな表現があるんだなって思って。じゃあ、私の歌う「YELL」は、私の歌い方でいいんだなって、ちょっと励まされたっていうか。なので、合唱部のみんなに会えた事は良かったですね。ほかの2人も凄く刺激を受けたと思います。
−−:歌入れの話が出たのでお伺いしたいのですが、水野さんと山下さんの作った曲を歌う際に感じる違いとかってありますか?
吉岡:そうですねー。今回のアルバムで言うと、それぞれ凄く楽しかったんですけど、どれも手強かったなっていう印象ですね。…でもね、やっぱり水野の方は、曲とメロディをまず作ってきて、そのあとメロディに対して、何回も言葉の当て嵌め方を練って練って持ってくるっていう印象が強くて。結構シングル曲が多いせいか、結構かっちりしている印象が有るんですね。
−−:確かに、水野さんの作る曲には職人気質な印象を受けました。
吉岡:そうかもしれないですね。(最近では)そこにどう乗っかって歌うか、っていうのを掴めてきたような気がしますね。結構、水野の曲の方が緻密な感じで歌っているかもしれなくて。で、山下の方は気持ちでフワーッって作ってきて、出来ちゃった、ていうような感じの人なんで、その感じが歌にも出るっていうか、独特な揺らぎ感が有る感じがしますね。…でも、ライヴだけでやっているCD未収録の曲を聴いた方から「これ、よっちゃん(水野)の曲でしょ?」って言われるけど、実は山下の曲だったりすることもあったりして。そういう曲もあるので、お互いこう…相手に良いところがあったら、それを自分もやってみようと思うし、相手と全然違う曲を作ってみようとも思っていると思うし。分からない時もありますね。
−−:お互い意識して、あえてテイストの違う事をやったりもするんですね。
山下:そうですね。水野がこういうの作ってきたから、自分も作ってみようって時もあれば、その逆をやってみようかなとか。
水野:右行ったり左行ったりと車線を入れ替わりながら、併走しているような感じがしますね。お互いに、曲を作り始めた頃には刺激しあえる相手が居たので、それは幸運だったなと思っています。
−−:今回のアルバムは若い女の子が主人公の曲がほとんど無くて、性別や年齢を超えて誰でも口ずさめるような…3人が好きな歌謡曲的な部分が全面に出ている作品に仕上がっているなと感じましたが…。
水野:デビューしてから頭でっかちになって、聴いてもらう人を絞った曲を書いていた時期もあったんです。でも最近は自分たちがインディーズの頃に好きで作っていた時の感覚に近い形で作る曲も増えてきて。好きなことをやっていくと、それこそ歌謡曲っぽいというか、どの世代の人にもすんなり聴いてもらえるような曲に近づくのかなと思っています。
山下:昔の音楽を聴いてみると良い曲はいっぱいあって。みんな、歌謡曲や日本の歌心的なものが好きなはずって思っている所もあるんですよね。だから自分たちで歌謡曲的な曲を作れたらいいなとは思ってます。また、それとは違うポップさもあるし。どちらも自分たちの良さだとは思ってますね。
−−:さて、2010年の目標は?
水野:なんといっても半年間かけて廻る、47都道府県で58公演の全県ツアーがあるんですよ。僕らは夢とか目標とか言ってこなかったんですけど、47都道府県を廻ってライヴを見せていきたいって事はずーっと公言してきたんです。やっと、それを叶えるチャンスが訪れたんで、2010年はそれが一番大きな目標になっていくのかなと。東京では武道館3daysもあるんですが…人来るのかよ!っていう不安も若干あるんですけども(笑)。
吉岡:ここで呼びかけたいよね。「みんな待ってるよ」って。
水野:是非静岡から来ていただいて。
−−:全県ツアーでは静岡公演も予定されていますが、静岡のお客さんの印象は?
水野:あのー…静岡好きだからっていう説もあるんですが、優しく見えるんですよね。上品な印象があります。勝手なイメージですけど(笑)。
吉岡:私と水野は静岡生まれだっていう事をライヴの際に必ず言ってきたんですが、静岡のお客さんは、それで急に「なんだ、静岡に居たんじゃん!」っていう感じになるんです(笑)。いきものがかり-Aサブ.jpgで、私たちは帰って来たんだっていう感覚になりますね。それだけで距離が縮まっている気がします。
−−:最後に、『Groovin'』読者に一言ずつお願いします。
水野:今のいきものがかりでのベストなアルバムが出来ましたんで、まずはCDを聴いてもらって。でもライヴで聴いてもらうのが一番良いと思うので、是非ライヴを見に来てほしいなと思います。
吉岡:静岡生まれなので、(ライヴには)里帰りするつもりで行きます。是非一緒に楽しみましょう。
山下:そうですね。僕は静岡生まれではないんですが…すみやさんて、僕らがインディーズで初めて(作品を)出したときに、店舗に置いて下さったんですよ。それが印象的だったんですけど…それ以来のお付き合いなんですよね。…まあでも、本当にいいアルバムが出来たと思っているし、初回限定特典のブックレットには自分たちの10年間のいろんな歴史が詰まっていたりとか、ライヴDVDも初めて付いていたり、かなり盛り沢山の内容なので是非観て欲しいなあと思ってます。これからもよろしくお願いします。

インタヴュー&構成:宮城 宙(編集部)
(2009年11月19日/ソニー・ミュージックにて)

『ハジマリノウタ』
いきものがかり-J.jpg

Epic Records
発売中
CD
ESCL-3356
¥3,059(税込)

2009年にリリースしたシングル・タイトル曲全5曲を軸に、色とりどりの世界を繰り広げる4thアルバムが到着。1つの到達点に達したような印象さえ受ける本作。歌謡曲〜J-POP好きは必聴!


【いきものがかり オフィシャルサイト】http://www.ikimonogakari.com/

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