絢香 of Groovin2010

ARTIST PICK UP

絢香

あの日、母と観たジャネット・ジャクソン。
その同じステージに立った喜びと、自身が選んだ人生を観客とともに噛み締める。

(初出『Groovin'』2010年1月25日号)

絢香-A.jpg 2009年末をもって無期限の活動休止に入った絢香。その休止前最後の単独公演となるアコースティック・ライヴ「MTV Unplugged ayaka」の模様を収めた映像作品。
 同プログラムには海外の名だたるアーティストが出演していることで知られるが、MTVジャパン製作では過去に宇多田ヒカル、平井 堅、布袋寅泰らが参加。絢香で7人目となる。だが今回のようにアリーナ・クラスの会場での開催は異例で、しかも彼女にとっては、ミュージシャン人生における大きな区切りとなる重要なライヴでもある。さらに会場は東京ではなく彼女の出身地でもあり、彼女がかつてこの場所でジャネット・ジャクソンを観てシンガーを志したというゆかりの地・大阪城ホール。加えてこのライヴを観ることができたのは20万人の応募のうち、たった1万人と、あらゆるプレミアムを尽くしたイヴェントでもあった。
 しんとする会場に染み込んでゆく1本の歌声。そこに寄り添う優しいタッチのアコースティック・ギター。「Jewelry day」から静かにスタートしたライヴは、耳馴染みあるシングル・ヒット曲とアルバム収録曲の中でも人気の高いナンバーを中心に進むが、元々、ミドル〜バラードの多かった彼女だけに、楽曲と歌そのものを浮き彫りにするアンプラグド独特の雰囲気は真骨頂ともいうべきもの。1曲1曲を丁寧に歌い上げ、音の余韻までをも深く噛み締めるような絢香の表情をあらゆる角度から映し出してゆく映像も、奇を衒うことなく実に滑らかだ。張り詰めた空気を緩ませるのは、絢香の飾らないMCとそこに気軽に声を投げかける観客とのやりとり。そこは普段の彼女のライヴにある親密感と何ら変わらず、時々大写しになる会場全体のショットではじめてここが大会場であることを実感できるほどだ。
 ギターの八橋義幸、ピアノの鶴谷 崇ら、バンド・メンバーとの息もピッタリで、時折覗く彼女を見守るような視線には、単なるバック・バンドを超えた親愛の情すらも感じさせる。大らかな歌声と微笑みで主役を包み込んでいたのはコーラスの真城めぐみだ。この日、アンコールで披露された「WINDING ROAD」での掛け合いも素晴らしく、全員が主張し、それぞれがせめぎあっているような印象を受けた原曲とは異なる、押し引きが絶妙にコントロールされたそれからは、絢香自身も伸び伸びとセッションを楽しんでいる様子が窺えた。間違いなくこのライヴのハイライトであったと思う。
 たくさんの「ありがとう」と「大好き」を残し、ライヴは終了。終わってみれば各種のプレミアム感も、"ラスト"特有の寂寥感もない。一時の幕引きを選んだ彼女の潔さも手伝い、いつも以上に清々しいエンディング。それは<歌の大好きな女の子>から始まった絢香のシンガー・ソングライター道、その続きがあるからだろう。デビューからわずか3年。オリジナル・アルバムも映像作品も、この最新作を加えてもまだ2枚しか残していない彼女は、未だ発展途上であり、また志半ばでもあるだろう。その生き方同様、自己を貫き主張をもったまま、再び歌が大好きなひとりの女性としてシーンに復帰することを願っている。

Text by 篠原美江

『MTV Unplugged ayaka』
絢香-J.jpg
ワーナーミュージック・ジャパン
発売中
〈DVD〉
WPBL-90134
¥3,990(税込)
〈Blu-ray〉
WPXL-90001
¥5,000(税込)
2009年末をもって無期限の休業に入った絢香。2009年11月に大阪城ホールで行われた「活動休止前ラストワンマンライヴ」をハイビジョン撮影、5.1chサラウンドで収録した映像作品。

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