#114 吉井和哉 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

吉井和哉

「自分の氷河期は自分のマグマで、自分のヴォルテージで溶かす」
レコーディングを重ねるごとに深めてきたアメリカ人ミュージシャンとの信頼関係と、自らの資質、本能が、確固たる作品としていよいよ結実。ソロ5作目にして辿りついた吉井和哉のロック、その境地とは。会心のニュー・アルバム『VOLT』インタヴュー。

(初出:『Groovin'』2009年3月25日号)

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ーー:ジャケットの富士山の絵は、吉井さんが小学生の頃に描かれたものだそうですね。
吉井和哉:これは「SNOW」って曲に通じるんですけど、制作中、アルバムのテーマがなんとなく自分の中で見えてきたとき、あるテレビを観たんですね。地球が凍っていた時期があって、それはスノー・アースボールと言うんだけど、その氷を溶かしたのは地球のマグマだって言うんですよ。そのマグマが噴火して氷を溶かしたと。その話を知って、これはきっと地球も人間も一緒なんじゃないかと思ったんですね。と同時に、自分の氷河期は自分のマグマで、自分のヴォルテージで溶かさないといけないんじゃないかって思って。それであるとき、ビルとビルの間に富士山が見えた気がしたんです。東京から見えるわけないのに。そこでなんとなく、ジャケットに富士山の写真を使いたいなあと思っていたところに、子供の頃に描いた富士山の絵のことを思い出して。富士山もいつか噴火することもあるかもしれないしね。
ーー:「ビルマニア」という曲も富士山も、吉井和哉という人の成り立ちを象徴するものではありますよね。
吉井:「ビルマニア」は、静岡から上京するときの気持ちを歌ってたりしますしね。なぜそういう曲になったのかは自分でも分からないんですけど、ただ「ビルマニア」のリフができたときにはもう、プロモーション・ビデオを作るなら俳優の山田孝之くんに出てもらいたい、とは思ってたんですよ。彼は今25歳で、僕がデビューした頃と同じ歳なんです。そこからどんどんイメージが広がっていって、すっかり山田くんを主人公にして曲を書いてました。
ーー:アルバムのヴィジョンは当初からあったのですか。
吉井:"ダサくない駄作"を作ろうっていうのがまずあって(笑)。どこか勢いで作りたかった、というのもあります。それって不真面目なのかもしれないけど、そこで出てくる潜在能力ってきっとあるだろうなと思ってたんですよね。それを信じてみようと。ジョー・バレシに、一緒にプロデュースしてもらおうということも最初から考えていました。あまり自分であれこれやらず、彼に乗っかってしまってもいいんじゃないかと思ってましたね。
ーー:そもそも、ジョーを共同プロデューサーに立てようと思われたのは?
吉井:前作『Hummingbird in Forest of Space』のミックスを彼がやってくれたんですけど、自分のことをすごく分かってくれてるなあと思ったんです、その音を聴いて。彼は僕の2つ上で、2人ともルーツが似てるんですよ。80年代のヘヴィメタとかね。当時のヘヴィメタって、あまりいい音じゃなかったんだけど「その中でもいい音のレコードない?」って彼に聞いたら、僕が思ってるのと同じレコードだったんです、なぜか。これは面白そうだなあと思ったんですよ。彼はアメリカのスタジオの音を熟知してるし、こちらからはイメージだけを伝えて。サウンド面に関して、ジョーの存在はかなり大きいですね。
ーー:アメリカでレコーディングを重ねてきて、今回はいよいよ実現したかった音に到達したっていう実感があるのではないですか。
吉井:そうですね。パトリック(from ウィルコ)っていうキーボーディストは今回が初参加なんですけど、彼が加わったことによってよりバンドらしくなったというか。彼がいなかったら、こういうアルバムにはなっていなかったかもしれない。それくらい彼は僕の欲しい音、僕の欲しいフレーズがわかってくれていたので…幸せでしたね。
ーー:とはいえ、吉井さんの本質が全開になってこそ、のアルバムだと思うんですよね。
吉井:「名作にしなくちゃいけない」とか、「新しいことをやらなくちゃいけない」とか、どうしてもそういうものに振り回されてしまうことがあったんですよ。でも今回は、そういうことを考えるのを一切やめた。吉井和哉が得意なことをやろうと思ったんですよね。まず自分にとって最も大切なものといえばライヴ。だったらライヴで盛り上がれる曲を作ろうっていうのが大前提としてあったんですね。その代わり音にこだわったアルバムになればいいんじゃないかと。曲も今回はすごくシンプルにしてるんですよ。そういう規制を与えることによって、飛び抜けてくる部分があると思った。それが今回は功を奏した、ってことだと思うんですね。
ーー:ソロ以降、その吉井さんの得意なことを封印していた部分もありましたよね。吉井和哉-Aタテ.jpg
吉井:それがバンド(THE YELLOW MONKEY)をやめてしまった理由だと思うんですね。THE YELLOW MONKEYでやっていたことは自分の得意なことだったわけですよ。でも、それじゃダメだと思って旅に出たわけですからね。ソロの1st『at the BLACK HOLE』は、自分がやりたかったことなんですよ。でも、やり方が分からなかった。そこでさまよって、いつしか得意なことが何なのかも分からなくなってしまって。それがツアーを重ねたり、いろんなことから解放されたりしていくうちに、徐々に感覚が戻ってきた。今はそういう状態なんですよね。今回いちばんビックリしたのは、「ウォーキングマン」のミックスが終わったとき。仕上がった音を聴いてたら「あれ?これ、どこかで聴いたことあるなあ」と思ったんですよ。「あ、THE YELLOW MONKEYの僕だ」って。THE YELLOW MONKEYっぽいというのではなくて、THE YELLOW MONKEYの僕がいたんですよね。恐らくそれは、自分が今、新しいバンドの中にいて、ホットな状況でいられてこそ感じられた匂いなんだろうなって思ったんです。「何かに怯えたり、何かに遠慮して歌ってる僕じゃないぞ、これは」っていうのを、そのとき感じましたね。
ーー:ライヴでバンド時代の曲を演奏するようになったこと、特に昨年の武道館で「NAI」と「天国旅行」が演奏されたことと、この『VOLT』というアルバムがどこか繋がっているような気もしています。
吉井:今回、CDの初回特典で年末のライヴDVDが付きますけど、『VOLT』を先に聴いていただいて、その後DVDを観ていただけると多分わかると思いますよ、あの2曲をやった意味が。


吉井和哉、その原点のひとつ…静岡・すみやについて語る!

■思い出深いすみやの店舗、当時の印象について
吉井:最も頻繁に出入りしていたのは、15歳ですね。上京する17歳後半まで、当時、(静岡市)呉服町の伊勢丹の向かいにお店(※)があったんです。すみやさんはねえ、何がいちばん良かったかというと、店員さんが良かったんです。店員が少年たちにも優しかったんですよ。1階にレコードを試聴できるカウンターがあったんですけど、普通は嫌がるところを何枚も聴かせてくれるんですよ。で、上(の階)に行けば、楽器売場の店員さんも、ものすごい優しくて。いろいろ詳しく教えてくれたりして、それで自分もどんどん楽器に入り込んでいけたんですよね。(※すみや静岡本店のこと。店舗はその後移転を経て、現在は再び同じ場所で営業中。)
■最初に買ったレコードは、もちろんすみやで!
吉井:初めて買ったレコードは、小学校1年生のときです。すみやさんで買ったんですよ。(西城)秀樹の「激しい恋」。当時のシングル盤を入れてくれる金色のビニール袋があって…ゴールドの。それがカッコよくて。ツルンとしたビニールに入ったレコードっていう商品が、ものすごい有難いもので。大事に開けて聴いてました。フィンガー5だの、ことあるごとに歌謡曲のドーナツ盤やEPをすみやさんで買ってたし、中学校に入って洋楽を聴き始めたときもすみやさんで買ってました。だからすみやさんがなかったら僕はミュージシャンになっていなかったです(笑)!どうだ!ここまで言ったら(オレのCDも)置いてくれるだろう!"すみやが生んだロック・ミュージシャン!"って。
■静岡での生活が与えた音楽的影響
吉井:まず静岡っていうところは暖かくて、高いビルがなくて、よくカリフォルニアみたいだって言う人がいるんですけど(笑)、それは確かにそうだなと思って。当時はいわゆるロンドンみたいなジメジメしたパンクとか聴く人はあまりいなくて、割とこう…サザン・ロックとかウエストコースト・サウンドとか、そういう音楽が聴きやすい街だったので、今、自分がアメリカに行っているひとつの理由は、ちょっと故郷に帰っている気分も…実際は全然違うんですけど(笑)。それと同時に唯一、静岡の中でジメジメした場所がありまして。そこは僕が喫茶店で知り合ったギタリストの平野くんっていう男の子の家なんですけど、その子がグラム・ロックをものすごく好きで。その彼の家でグラム・ロックの洗礼を浴びたんです。うまく言えないんですけど、今の自分にはその両方があると言うか。僕のヨーロッパは…平野くん家なんですよね(笑)。

(2009年2月18日/都内某所にて)
インタヴュー&構成:篠原美江/Groovin'編集部

『VOLT』
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EMIミュージック・ジャパン
発売中
CD
TOCT-26801
¥3,000(税込)
1年6ヶ月ぶり、吉井ソロ待望の5thアルバム。

【吉井和哉 オフィシャルウェブサイト】http://www.emimusic.jp/yoshiikazuya/

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