#118 奥 華子 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

奥 華子

6月3日にリリースされたシングル『笑って笑って』に続き、4枚目のオリジナル・アルバム『BIRTHDAY』を完成させた奥 華子。これまでに3枚のアルバムを丁寧に作りあげ、経験を積んだからこそ完成することができたという本作には、日常と寄り添い、時に日常に疑問を抱きながらも歌い、表現し続ける奥 華子の全てが詰まっている。そんな奥 華子へのアルバム・インタヴュー!ブログでは完全版をお届けします。

(初出『Groovin'』2009年7月25日号)

奥華子-A.jpgーー:いろいろなタイプの音楽があるアルバムになりましたね。
奥 華子:そうですね。ものすごくポップなものから、弾き語りのシンプルなものまで、あとはすごく明るい歌詞だったり、暗い歌詞だったり、その幅が今までで一番広がったアルバムになったと思います。
アレンジも含めて自分でやったことが多かったり、自然体で作った曲ばかりなので、作ったっていう実感があるアルバムですね。
ーー:自然体になれた理由は何かあるんですか?
奥:3枚アルバムを出して、試行錯誤していったうえで、こういう時はこういう風にしたら良いんだなとか、こういう曲は自分でアレンジした方が良いかもなっていう、そういう判断が自分でできたっていうのが、大きいかもしれません。前作のアルバム『恋手紙』では、こういう風にしたいっていうのを、自分である程度アレンジ・デモを作ってから、アレンジャーさんにイメージをお伝えしていたんですけど、今回は自分で作ったままをCDに入れた曲がすごく多いんですね。頭にあるものを、自分で表現したっていう。前まではその勇気がなかったんです。アレンジを勉強したわけでもないし、ストリングスの入れ方とかが理論的には間違ってるかもしれない。でも「笑って笑って」で自分がアレンジしたものを、シングルで出したことで、ちょっと自信がついたっていうのもあるし、あんまり細かいことは良いかって思うようになりました。
ーー:今回はシングル3枚から5曲も入っていますね。
奥:シングルが3つ入ると濃くなる感じはありますね。(みんなが)知ってくれている曲とか、シングルっていうのがある意味「奥 華子で〜す!」っていう"看板"だとすると、その中に入ってみて初めていろんな曲があった、みたいな。そういう看板が3つあるっていうのは、このアルバムにとってものすごく良いことだと思います。
でも、5曲以外は本当に新曲なんですよ。ライヴでも歌ったことのない新曲をこんなに入れるのは初めてなので、シングル3曲入ったっていうよりも、新曲が9曲入ってるいう、誰も聴いたことのない曲が9曲入ってることのドキドキの方が大きいです。
ーー:アルバムの中で弾き語り曲とアレンジ曲とのバランスは工夫されていますか?
奥:基本的にはそんなに意識してなかったんですけど…でも、弾き語りっていうのは、ライヴでずっとやってる大事な部分だし、必ずアルバムでも弾き語りを入れようと思っているんです。どんどん曲を自分で作っていると、けっこうアレンジしちゃってるな?ってなってきて、「最後の恋」「アネモネ」と「蛍火」は、意識的に弾き語りにしようと思って。あと「あなたに好きと言われたい」はピアノ弾き語りver.にしました。シングルではすごく派手なアレンジなんですけど、アルバム全体のバランスとしては、ピアノ弾き語りはもう1曲あっても良いし、グランド・ピアノと同時録音したので、そんなライヴ感を聴いてもらえたら良いなと思っています。
ーー:アレンジしたものを、改めて弾き語りで収録する難しさはありますか?
奥:もとがピアノ弾き語りでアレンジしてもらっているので、弾き語りにすることは、それが一番自然な状態なんですね。弾き語りっていうのは、(それ自体に)いろんな要素が入っていて、ドラムの役目をしていたり、リズムを刻んで、ベースもあるしっていう。ある意味、弾き語りだけで完結できちゃうものなんです。だから、逆にアレンジをするっていうことの方が難しくて。アレンジャーさんも、いつも頭を抱えています。どこで何をしたいの?っていう。それを今まで何度も経験して、自分でやるようになると自然に弾き語りに近いアレンジになるんですね。隙間を埋めるというか。自分が聴かせたい音っていうのが明確にあるので、それを自分では邪魔しないんですよね。だから、すごい奥 華子色が強くなるのかなと思いますね。
ーー:逆に「明日咲く花」はシングルのままのアレンジだったり…。
奥:この曲は本当にアレンジがあって成立するというか、弾き語りにしようとは思ってなかったんですね。ものすごく世界が広がるし、アレンジの意味を教えてくれた曲です。
ーー:今作には「Birthday」という曲が収録されていますが、アルバム・タイトルが『BIRTHDAY』になった経緯は?
奥:曲を全部作ってからアルバム名を『BIRTHDAY』にしたんですけど、全14曲作った時に、前向きだなぁと思ったんですよ、意外に。キーワードとして"笑顔"だったり、"明日"とか"光"っていうものが浮かんできて、何かそれを象徴する言葉はないかなぁって考えていました。「Birthday」っていう曲でも言っている通り、ここに生きていること、あなたが存在していることが奇跡だと思うし、毎日、当たり前に繰り返している、なんでもない日を特別に思えたら良いのにとか、このアルバムを聴いた人が少しでも前向きになれるとか、自分がここに生まれてきた、生きていることが特別なんだって思ってもらいたいなっていうことで、『BIRTHDAY』にしたんです。
ーー:「Birtyday」という曲には誕生日を祝うバースデー・ソングとして以外の意味も込められていますか?
奥:そうですね。最近すごく思うのが…自分の名前を知ってくれている人がどれぐらいいるんだろうとか、自分が名前を知っている人がどれぐらいいるんだろうとか、その中で誕生日を知っている人はどのぐらいだろう、「誕生日おめでとう」ってメールを送る人や好きな食べ物まで知っている人なんてそんなにいないし、ましてや一緒に暮らす人なんてすごい特別だなって考えていくと、本当にちょっとした出逢いが大切で毎日が誕生日ってだなって思って。人だけじゃなくても、新しい発見、あたらしいモノに出会ったり、全ての出逢いによって人生が変わっていくじゃないですか。だから、1人の人間が生きていることがすごいことだなって考えるようになったっていうのはありますね。
ーー:それに、アルバムの1曲目が「笑って笑って」から始まるのが斬新でしたね。
奥:そうですね。シングル曲を1曲目にって今までになかったんですけど、やっぱり「笑って笑って」をシングルで出して、今のこの流れ…このアルバムができたっていう、やっぱり初めの扉というか、最初の一歩って感じがするので、1曲目にしようと思いました。
ーー:その「笑って笑って」のカップリング曲が3曲とも収録されていますね。
奥:そうなんですよ。本当はそれもどうかな?と思っていたんですけど、でも必要に感じてきたんです。やっぱりカップリングよりも、アルバムに入る方がより多くの人に聴いてもらえると思ったし。そういう意味では、普通入れないよねとか、普通こうしないよねとかは関係なく、入れたいから入れるって感じですかね。だから「Hppay days」もアルバムver.って言っても、最後のラララが増えただけなんです。
ーー:フェード・インしてくるラララの声にはちょっとジーンときちゃいますね。
奥:私もあそこにくると感動するんですよね。自分の曲では全然泣かないですけど。みんなの声が聞こえてくると涙が出てきて…。感動しますね。
ーー:「最後の恋」や「青い部屋」はどちらも弾き語り曲ですが、印象が違いますよね。どういう風に作ら
れたんですか?
奥:「最後の恋」は、ファンレターとかで、恋愛のお悩みじゃないですけど、若い子からよくあるのが、忘れられないっていうのが多いんですよ、なぜか。「あ、そうなんだ」みたいな。女の子ってけっこう、次!次!ってイメージがあって、男の方が引きずるっていうじゃないですか。でも、意外にひきずっている人が多いんだって思って、それで忘れられない恋の歌を作ろうと思って、作った曲ですね。だから、ものすごい分かりやすいっていうか、あ、そうそうって思ってもらえる曲にしたいなと思って作った曲なんです。「青い部屋」は、シチュエーションを想像しながら、部屋の中に2人がいるのを想像しながら作ったから、作り方が全然違うのかもしれませんね。
ーー:「青い部屋」はすごく詩的なタイトルだなと思います。
奥:人間一番寂しい、一番辛いのって何だろう?って思うと、やっぱり相手にされないのが、一番悲しいかなって思うんですね。怒ったりされる方が、まだ相手にされている。そこに感情があるから、動くから怒るんだと思うんですけど。「青い部屋」っていうのは、寂しい色をした、感情が見えない、自分を好きなのか、嫌いなのかも分からないっていう状態で、それはものすごく寂しいなと思って。好きだからこそ、無視されたり、相手にされないことが辛い。でも男の人は、感情を表すのが苦手な人が多いじゃないですか。今さら最後泣いても遅いんだよ、みたいな。そういうのを発信してても、気づかないんですよね。2人で一緒に部屋の中にいても、そういう心の中とか空気感は表れると思うんですよね。とにかく、寂しいイメージの曲です。
ーー:5曲目の「他人の涙」あたりから、アルバムの流れがガラッと変わりますね。
奥:そうですね、やっぱりラヴ・ソングだけじゃなくて、もうちょっと…"自分をさらけ出す系"ですかね。このテーマは、普段から思っていることなので2日間ぐらいでできた曲です。人の幸せを…例えば、誰かが結婚して「おめでとう」って言っても、多分、自分も幸せになりたいんじゃない?っていう。それは絶対だと思っていて。
みんな自分が大好きだし、自分が大事。だから、この世の中が成り立っていると思うんですね。人の方が大事だったら、誰も自分を守れない。だから、別にこの曲って誰も責めてないんです。自分もそうだから、みんなもそうなんだって。ある意味、「Birthday」に繋がるメッセージだと思ってて…。
ーー:「Birthday」とですか!?
奥:「Birthday」では、あなたは(私にとって)すごく大事だし、特別だよって歌っているんですけど、「他人の涙」は自分しか愛せない、自分が大事って言ってる。だけど、だからこそ、自分の命を捨てても守りたい人ができることって、例えば…子供とか、結婚する人、大切な人の存在って、ものすごいことだなと思うんですよ。こんなに"自分自分"の世の中なのに。そうなると、それはもう他人と呼ぶのじゃなくなるのかもしれないし、それは家族かもしれないし、子供にあたるのかも分からないんですけど。だからこそ、(大切なものができることが)スゴイなと思うんですよ。
ーー:ラスト・トラック「灯 -ともしび-」での締めくくりも印象的ですね。
奥:14曲そろって、曲順をどうしようかっていう時に、これは絶対に最後だな、と。本当は「Happy days」が最後かなとも思ったんですけど。でも、この曲って『BIRTHDAY』っていう作品を象徴しているというか…。そう思って作ったかは、自分でも分からないんですけど。灯火、命の光、生まれた命の光、炎がついて、それが燃えて、いつかは消えていくっていう、その感じですかね。すごい単純なことしか言ってないんですよ。でも最後にきたら良いかもなと思って。
ーー:アルバム全体を通して聴くと、これが一番良い曲順かもしれないですね。
奥:良かった!3日ぐらい悩みました。いろんな曲があって(感情の)浮き沈みが激しいので、どうしたら良いのか分からなくて。最終的には、こういう風に聴いてほしいってところで決めたので、良いところに落ち着いたような気がします。
ーー:奥さんが普段から考えているような、いろいろな矛盾が1枚の作品に入っていますね。
奥:生きていること全てそうだと思うんですけど、良い時もあるから、悪い時もあるっていう。「他人の涙」と「Birthday」「灯 -ともしび-」は逆のことを言っているんですけど、それが全てあるから、日常があるっていうか…両極端なものこそ、すごく必要だったんです。

(2009年6月18日/ポニーキャニオンにて)
インタヴュー&構成:秦 理絵(編集部)

『BIRTHDAY』
奥華子-J.jpg

ポニーキャニオン
発売中
CD
PCCA-02954
¥3,000(税込)
6月に発売された『笑って笑って』など3枚のシングルを含む、4枚目のオリジナル・アルバム。自身初の大ヴォリュームでお届けする全14曲は本作のための新曲をなんと9曲も収録。初回プレス分のみ封入特典あり、詳しくはオフィシャルHPをチェック!

【奥華子 OFFICIAL WEB SITE】http://www.okuhanako.com/

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