#119 松本 蘭 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

松本 蘭

話題の才色兼備なヴァイオリニスト、松本 蘭がソロ・デビュー!高嶋ちさ子プロデュース"12人のヴァイオリニスト"等の様々な活動を経て、彼女が放つ初ソロ作品について伺うべく、本誌初のクラシック・インタヴューを敢行!ヴァイオリンを始めた意外な理由や、ミス日本応募に至る経緯までを収録した完全版を公開!

(初出『Groovin'』2009年8月25日号)

松本蘭-A.jpg■ヴァイオリンとの出逢い
−−:はじめに、松本さんとヴァイオリンとの出逢いからお伺いします。
松本 蘭:私が3歳くらいの頃に流行っていた「三井のリハウス」のCMに、女優の宮沢りえさんが楽器を持って出ていたみたいなんですね。それを見た母が「可愛いから、うちの娘にも持たせたい」って言い出したのがきっかけなんです。当初は遊びの感じで弾いていたんですけど、小学校に入るか入らないかくらいの時に、母に連れられて行った前橋汀子さんのコンサートを観て、凄く衝撃を受けたんです。とても美しいし、幼いながらに心惹かれる何かがあって、「こういう風になりたい!」って思って。それからはヴァイオリニストになることを目標に、より頑張れるようになって…どんどんのめり込んでいって、今に至ってます。
−−:ヴァイオリン以外の楽器に浮気することは無かったんですか?
松本:小学校1年生のときにピアノを始めました。凄く厳しい先生に教わっていて、手の甲の上に10円玉載せられて「落とさないように弾きなさい!」とか。「どうやったら落ちないんだろう?」と思いながら頑張って練習したり、割と熱心にやっていて、ピアノも上達したんです。でも、「ピアニストとしてやっていきたい」とは思わなかったですね。やっぱりヴァイオリンでしたね。他にもちろん魅力的な楽器は沢山ありますけど、幼い頃から自分のことを表現するにはヴァイオリンしかないという感覚は有りましたね。

■高嶋ちさ子プロデュース"12人のヴァイオリニスト"
−−:松本さんといえば、2006年から"12人のヴァイオリニスト"いうユニットに参加されていますが、参加しようと思われたきっかけを教えてください。
松本:元々、(発案者である)高嶋ちさ子さんと同じ師匠に教わっていて。徳永二男先生という、N響のコンサート・マスターをされていた方なんですが。その先生から、ちさ子さんのコンサートに出演できる女性ヴァイオリニストを探しているっていうのを伺ったんです。「君出てみたら?」って勧められて、それでご一緒したのがちさ子さんとの出逢いでした。その共演を機に、ちさ子さんのコンサートにご一緒させていただく機会が増えて、その流れで「今度"12人のヴァイオリニスト"っていう企画を立ち上げるんだけども、オーディションを受けてみない?」と誘っていただいて、ごくごく自然な流れでオーディションを受けたんです。
−−:このユニットではサブ・リーダーとして活躍されていたと思うんですが、その活動の中で得られた経験や、学んだ事があれば教えてください。
松本:凄く沢山ありますね。大学を卒業したてで、社会にこれから踏み出そうとしているタイミングだったんですけど…。学生時代には「どうやってこの作品を自分らしく弾くか」とか、「どういう風に技術的に進歩するか」とかそういう勉強をしていたんですが、いざ社会に出たら、自分の音楽をより沢山の人に聴いて貰うのにはどうしたらいいかとか、どうしたらお客様が喜んでくれるのかっていうことを考えないといけなくて。でも、その辺はもちろん学校では教えてくれないわけですよ。で、このユニットで活動させて頂いた3年間っていうのは、音楽業界で生きて行く為のノウハウを学んだ様な…もちろん、理論として教えて貰ったわけではないんですが。例えば、自分が弾きたい曲と、お客様が弾いてほしい曲をどう両立させてプログラムに組み込むかというバランス感覚っていうのは、やっぱり経験を積みながら得られるものなんじゃないかなと思うんですよ。お客様が喜ぶからといって、媚びた演奏をしてしまうとお客様もそれを感じてしまうし。ちさ子さんは本当に素晴らしいバランス感覚を持っていらっしゃるので、その感覚に近づこうという努力は凄くしましたね。


■"ミス日本 ミス着物"受賞までの経緯
−−:そのユニットの活動と同時期に"ミス日本"にも応募されたということですが、その経緯を教えて下さい。
松本:これは、母が私に内緒で勝手に応募して。それで、「一次が通ったみたいだから、次、面接に行ってくれる?」って言われたんです。実は19歳のときにも同じ様な事があったんですが、そのときは興味がまったく無かったので棄権したんですけど…。今回の"ミス日本"に関しては、母に「親孝行だと思って、ここはまあひとつ受けてよ」っていう風に説得されて。悩んだんですが、私は"12人のヴァイオリニスト"っていうグループにも居ましたし、コンサートのMCのときのちょっとしたネタになるかなって…(笑)。軽い気持ちで受けたんですよ。そしたらもう、思いのほか最後まで行ってしまって、結果的に賞を頂く事になったんですけど。
−−:"ミス日本 ミス着物"に選ばれた訳ですが、その経験の中で学ばれたことは有りましたか?
松本:ミス日本は本大会の前に、半年間くらい勉強期間があるんです。そこで同年代のミス日本に参加している女の子達に会うことが、私にとっては凄く刺激的でした。というのも、私は小学校の頃から音大の付属校に通っていたので、音楽の世界しか知らなくて。でも、そのミス日本に参加してる子っていうのは、弁護士や医者を目指していたり、将来自分のお店を持ちたいとか、本当に色んな夢を持っている子が集まっていて、「ミス日本」っていう1つの目標にも頑張ってたんですよね。そういう音楽に関わること以外の夢や目標をもった子に出逢うことが私のこれまでの人生でなかったので、凄く刺激を貰いましたね。私もヴァイオリンをもっと頑張らなきゃと思いましたし、そこで学んだ事っていうのはとても多かったですね。…あとは、ミスコンの舞台に立つという事と、ヴァイオリンを持ってステージに立つ事というのは、自分を表現するっていう意味では直結してるなと思ったので、そういう意味でもとても勉強になりました。
−−:ミス「着物」としてのお仕事も既にされているんですか?
松本:はい。ミス日本のお仕事では、日本の伝統文化である着物をより多くの人に知ってもらうという内容のものがよくあるんですが、私がヴァイオリニストってことで、着物を着て演奏をして下さいますか?というオファーをいただくことも多くなりましたね。
−−:そういう演奏は、もうお披露目されているんですか?
松本:そうですね、少しずつやらせて頂いてます。
−−:袖が大変な事になりそうですね。
松本:そうなんです、正直大変です。ヴァイオリンを弾くときは足は肩幅くらいに広げて演奏しているんですが、着物の場合あんまり仁王立ちで弾く訳にもいかないので、そのへんはちょっと気を使いながら演奏しています。


■ソロ・デビュー・アルバム『蘭ing』について
−−:さて、『蘭ing』が完成しての率直な感想をお聞かせ下さい。
松本:素直に嬉しいですね。"12人のヴァイオリニスト"でも6枚のCDを制作して、CDが作られる現場に居たことは居たんですけど、自分のソロの作品が出来上がるとなったときに改めて、色々な人の色々な想いや愛情が詰まって1枚の作品が出来るんだって事を実感したんですよね。本当に我が子…っていうと言い過ぎかもしれないですが、凄くいとおしいモノというか…。感慨深いです。
−−:では、このタイトル…『蘭ing』に決まった経緯を教えてください。
松本:『蘭ing』は、現在進行形で、これからも前へ進んでいく、ということなんですが…。このタイトルは事務所の社長が思いつきでポロッと言った言葉なんですね。私はもっとステキなタイトルが良かったんですよ(笑)。なんかちょっとお洒落な横文字の…そういうのがいいと思っていたんですね。でも、一度『蘭ing』って言われてしまうとインパクトが強すぎて、他が全く出てこなくなってしまって。でも、それだけインパクトが有るっていうことは、人に覚えて貰えるんじゃないかなって思って。…気に入ってますよ、今は(笑)。
−−:では、本作のコンセプトを教えてください。
松本:「好きなようにやってください」ってことだったんで、最初は逆に困ってしまったのですが(笑)。まず、自分の好きな曲をリストアップして、その中で絶対これは入れたいと思ったのが、ヴュータン作曲の「アメリカの思い出」なんです。この曲を中心に、自分の好きな曲をどういう風に散りばめたらいいかなって考えて、リストアップした曲を見直してみると、どこか懐かしい気持ちになる曲が多かったんですよね。それで「アメリカの思い出」の"思い出"をキーワードに、誰かを思いやるような、懐かしくなるような1枚にしようと思い、いろいろと厳選してこの収録曲になりました。結果的にはいろんな国の作曲家の曲が入っているし、いろんなテイストの曲も入っているし、なおかつ耳馴染みのある曲も多いし、凄くヴァラエティに富んだ1枚になったんじゃないかなと思います。
−−:そうですね。私は正直、普段はあまりクラシックを聴かないんですが、クラシックの超メジャーな曲は入っていないけれども、どこかで聴いたことあるなっていう曲が多くて、記憶の中を探りながら、楽しく聴けたんですよね。
松本:そうなんですよ!そういう風にしたかったんですよ、私。その曲のタイトルだけでは気づかなくても、実際聴いてみたら「ああ!知ってる知ってる!」っていう。実際、普段生活している中で…例えば、お店で流れている曲とか、テレビで流れている曲もそうだけど、本当にクラシックって耳にする機会が多いですよね。そのぐらい、クラシック音楽は人々の心や記憶の深いところに有ると思ったんですよ。なので、ちょっとマニアックだけれども耳馴染みのある曲を中心に入れました。
−−:本当に聴き馴染みやすい作品だなって思いました。
松本:ありがとうございます!どんどん人に勧めてください(笑)!
−−:構成でこだわったところはありますか?
松本:曲順に関しては随分こだわりました。収録曲を選曲しているときも、頭の中ではかなりイメージは出来ていたのですが、その理想にかなり近い形になったと思います。色々な国の作曲家が入っていて、一見すると一貫性が無いように思われるかもしれないですけど、最初から最後まで聴くと、違和感無く、さりげなく聴ける内容になってるんじゃないかなと思います。
−−:後半に民族色が強い曲を集めているのは、なにか意図があったんでしょうか?
松本:特に意図はなかったんですけど…ただ、CDの最大収録時間の74分って結構長いと思うんですね。その長い時間を、どうやって飽きさせずに聴いて貰うかっていうのが私の中での課題だったんですよ。1曲目聴いて、「…はい次!…ああ、もういいや!」っていうふうになっちゃうと、凄く悲しいので。まずは全部聴いて貰いたいっていう気持ちがあったので、最後に行けば行くほど飽きないようにはしました。
−−:3曲目の「うまれゆく、風 〜Caprice Fantastique〜」は本作唯一のオリジナル曲ですが、作曲をされた加藤昌則さんへ、松本さんから何かリクエストはされたんですか?
松本:この曲は元々、私をイメージして作曲して下さるという事だったのですが、私からは、日本的な香りがして、ロマンティックで、切なくて、クリスタルな響きがあり、疾走感があって、それでいて技術的に難しい所があって…とか、一貫性のないリクエストをしました(笑)。でも、出来上がった曲を演奏して驚いたのが、そのリクエストが全て盛り込まれていたんです!加藤さんの才能の素晴らしさに感激しました。うまく言えませんが、演奏家って、演奏を聴くとその人の事が分かるというか、そういう感性が有るんですね。今回のCDのための音合わせをしたときに、加藤さんもきっと私がどういう音楽が好きだとか、どういう作品を求めているとかを、私の演奏から瞬時にキャッチして、曲に書いて下さったんだろうなって思います。本当に嬉しくて、凄く気に入っているので、色々な所で演奏していきたいなと思っています。


■今後の活動について
−−:今後の活動についてお伺いしたいのですが、ソロや弦楽重奏、オーケストラなど色々な演奏形態があると思うんですが、今後チャレンジしたい形態、もしくは挑戦したいジャンルなどはありますか?
松本:今はソロでまさに飛び立とうとしているところなので、ソロに集中したいですね。ただ、"12人のヴァイオリニスト"というユニットに居たっていうこともありますし、学生時代はオーケストラの音楽祭に参加していたっていうのもありますし、誰かと一緒に演奏するのは凄く好きなんです。なのでいろんな方と共演して、いろんな方から音楽的な刺激をもらい、自分の演奏スタイルを確立させたいと思っています。ジャンルについても、クラシックしか弾きませんという訳でもなくて、ジャズやタンゴなどの他のジャンルの音楽も好きでなんで、さまざまなジャンルの方々との共演やコラボレーションはしてみたいなと思ってます。あくまでヴァイオリンのアコースティックな響きっていうのは大切にしたいとは思っているんですが、いろんな可能性が秘められている楽器だと思うので、ジャンルの線引きをせずにいろんな事にチャレンジしたいなと思います。
−−:次の目標は、やっぱりコンサートの開催ですか?
松本:そうですね。作品を作ることは凄く大事なことですが、やっぱり私は生の演奏を聴いていただきたいという気持ちが凄く強いので、コンサート活動を充実させていきたいと思っています。今までの様々な活動で学んだことをきちんと糧にして、生かしていきたいので。いろんな人にクラシックの良さを広めて、もっともっとクラシックってこんなに良いんだよ、楽しいんだよ、ということを知って貰えるようなコンサートを開催していきたいと思っています。
−−:最後に『Groovin'』読者に一言お願いします。
松本:私の義理の姉が浜松出身なんですよね。なので、静岡って私の中で勝手に親しみのある県なんですよ!だから、今回凄く嬉しいです。まず、CDを手に取って、聴いてもらって。で、繰り返し聴けば聴くほど味が出てくる選曲にできたと思っていますし、封入されているブックレットもかなり充実したものに仕上がっているので、トータルで楽しんで頂けると思います。それで、良い作品だと思われた際には、いろんな人に広めて欲しいです(笑)。もちろんコンサートにも足を運んで頂きたいなと思います。

(2009年7月22日/所属事務所にて)
インタヴュー&構成:宮城 宙(編集部)

『蘭ing』
松本蘭-J.jpg
ワーナーミュージック・ジャパン
8月26日発売
CD
WPCS-12340
¥3,000(税込)
ミス日本「ミス着物」に選ばれるほどの美貌や、クラシックに囚われない幅広い音楽性も持ち併せる新進ヴァイオリニストの1stアルバム。美しいメロディが躍動するオリジナル曲「うまれゆく、風 〜Caprice Fantastique〜」は圧巻の一言!初回生産分には、自筆コメント&サイン入りの"特製フォトカード"封入。

【松本 蘭 公式サイト】http://wmg.jp/matsumotoran/

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