Salyu

SPECIAL INTERVIEW

Salyu

『TERMINAL』から3年。小林武史プロデュースによる制作とは異なるアプローチで取り組んだ最新アルバム『MAIDEN VOYAGE』について、Salyuに話を聞いた。インタヴューの際、言葉の端々に滲み出る歌への愛情、共同制作者への尊敬の気持ち。そんな彼女の新しい船出に心からの祝福を…。

(初出『Groovin'』2010年3月25日号)

Salyu-Aメイン.jpgーー:『TERMINAL』以降は、ベスト・アルバムやツアー、シングル5枚のリリースもあったりと、あっと言う間に過ぎた印象でしたか?
Salyu:そうでもないですね。つまずいたら、つまずきっぱなしだったし。新しいこともたくさんあったので、自分の弱さと向き合う時間も長かったし、ただただそれとの葛藤だったんじゃないかって。前向きな意味で、ですけどね。もっと円滑に楽しむには、どうしたら良いんだろう?っていう時に、どうしても自分の弱さにぶつかりましたね。ちょっと長かった感じがするかもしれない。よく考えてみると。
ーー:今回のアルバムを作ろうと思われたのはいつ頃だったんですか?
Salyu:『TERMINAL』の次のシングル「LIBERTY」の制作段階からヴィジョンはありました。でも、もっと違ったアルバムでしたね。サウンド・プロデュースに渡辺善太郎さんに入っていただいたり、楽曲をいただく方も増えたりとか(制作の)スタンスが変わって、そういうところで自分の将来的な節目の意味が明かされるのは1枚目のシングル(「LIBERTY」)だと思ってた。アルバムはそこから始まってはいるんだけど、例えばベスト盤のリリースが入ってきたりとか、「コルテオ」っていうシルク・ドゥ・ソレイユの舞台のイメージ・ソングや「HALFWAY」ができたりとか、いろいろなことがあってアルバムのイメージが変わってきたところもあります。最終的に1番良いテーマを見出せて、良かったと思いますね。
ーー:その中で見出せたテーマが「MAIDEN VOYAGE」?
Salyu:さっき自分の弱さと向き合う期間が長かった、みたいなことを言ったんですけど、憂鬱だったりとか喜びだったりとか、そういうものに刹那的に翻弄される自分がいて、疲れることもあったし。でも、もっと丈夫な、自分を信頼できる〈船〉を造れたら、船って自分の心だと思うんですけど。〈海〉を日々の中で生まれるあらゆる状況に例えるとしたら、どんな状況でも天気でも渡っていける丈夫な〈船〉を造りたいなっていう気持ちが今回の「MAIDEN VOYAGE」のテーマなんです。〈旅〉っていうのが(シングルを通して)一貫したテーマになってたと思うんですよね。海って自分ではコントロールできないものじゃないですか。状況もそうだと思うんですよね。支配できていそうで、できていない。その状況にうまく乗る、すごく強くないとできないことだと思うんです。
ーー:「LIBERTY」以降から始まった国府達矢さんとの制作はいかがでしたか?
Salyu:ストロングなんですね、国府さん。人間性も音楽も訴えてることも。内側から発光してる色彩がすごくエッジーなんですよ。だから、最初はあの〈恐竜〉をうまく使えなくて、私は恐竜使いにならないといけないと思ったりしたことがあった。彼はプロデューサーじゃなくてアーティストで、小林(武史)さんはプロデューサーだから、やっぱり向き合い方が違うんですね。ただ、国府さんも小林さんも、私の歌の愛してくれる部分はすごく似ていましたね。
ーー:2人が愛しているのはSalyuさんの歌のどの部分でしょう?
Salyu:何も考えないで歌っている感じが良いって言うんですね。適当が良いって。私はそう言われるのは超きらいなの。でもあの2人はそうやって言う。その野蛮さが良い、みたいな。
ーー:たしかにSalyuさんは歌を上手に聴かせようというところではない、エモーショナルなところからの歌のように感じますね。
Salyu:まさにあの2人から求められていることは、エモとユニーク。この2つじゃないですかね。エモーショナルなだけじゃダメなんですよね。チャーミングでユニークなものがそこに潜んでいるっていうシルエットを2人とも見てると思う。だから、私としてはガラッと変わったっていうところはなく。ただね、向き合うエネルギーはそれぞれ違う色ですね。
ーー:国府さんの参加に伴ってSalyuさんが作詞をされた曲が増えましたが、ご自分で作詞したものを歌うのと、今回のアルバムにもある「messenger」「イナヅマ」など小林さんが作詞した曲を歌うのは違いますか?
Salyu:うん、全然違います。どっちも楽しいですね。でも、自分で歌詞を書くようになって、いただくことのありがたさが分かった。それに読み解いていく楽しさもできた。今回は小林さんにも北川(悦吏子)さんにも(歌詞を)いただいたし、『TERMINAL』の時よりも有意義に詞を味わって、噛みしめて歌っていけたかなと思いますね。自分で(詞を)書くと尊敬が増しますよね。小林さんはさすがの情念。自分からは絶対に出てこないものだから、そこからアプローチしていくことは面白いです。自分にはないテンションをもらう感じですね。
salyu-Aサブ.jpgーー:例えば1曲目の「messenger」という曲、はじめはタイトルの意味が分からずに聴いていたんですけど、最後に「メッセンジャー」っていう言葉が出てきて分かったような分からないような感じがしたんです。Salyuさんはどんな風に読みとったんですか?
Salyu:正直な意見ですね(笑)。普通の女の子が木訥と純粋な想いを心の中で語ってるっていう、それによって誰も喜んだりしない、葛藤ばっかりかもしれない、そんな1番2番があって、それで間奏があっていきなり熱情が膨らんでいって、結論めいたところにポッといくんですけど。私はその「メッセンジャー」っていうテーマがすごくはまったんです。最後のフレーズを歌う時にね、グッとくるんです。〈誰もがメッセンジャーだ〉ってことを長い文章で表現しなかったことが、小林さん、すごいなと思って。あー、重たい気持ち…とか葛藤している女の子がいて、だけど最後に脚本的に第三者が出てくるんじゃないかな。なんてことのない人生を見せた後で、でもさ、みたいな定義。私も一瞬歌詞を見た時に迷ったんですよ。歌ってみて意味が分かったって感じですかね。
ーー:今回は「L.A.F.S.」という曲で初めて作曲もされたんですね。
Salyu:なぜ作曲をしたかっていうとね、私、今回のアルバムはゴールを先に作ってたの。こういうアルバムにします。1曲目はこうです、2曲目はこうです、3曲目はこうです…みたいなゴールを定めて。ただ、そんな予定調和なことが起こるわけないじゃん。実は一番精神的には波乱になりそうな、そういう作り方をしちゃったんです。そうじゃなきゃできなかったと思うし、良かったと思いますけど。それで、それぞれにオーダーをした人から曲がいっぱいできてくるじゃないですか。できあがっていくうちに、マイナーなアルペジオみたいな曲が前半の締めくくりに絶対に必要だぞ、マイナーが入ったら良くなると思ったんです。小林さんには当初3曲お願いしてて、そのうち「emergency sign」に思い出話があって。本当はワルツをお願いしていたんですよ。小林さんってオトンみたいな人だから、自分はこういうアルバムを想定してるって全貌も語れる。でも、小林さんもワルツじゃなくて、アルペジオの「emergency sign」で(作って)きた。「L.A.F.S.」(アルペジオの曲)は、もう頼めないの?じゃあ、(自分で)作るしかない。そんな作り方でできた曲なんです。で、どうしよう?と思ったんですけど、(2曲)並べちゃいました。
ーー:そして、最後の「VOYAGE CALL」。この歌詞のない曲で、過去作品からも続くSalyuさんの一貫した世界みたいなものが繋がってくる終わり方だと思うんです。
Salyu:それはね、世界観の合流っていうのは今回の秘めてた目的ですね。感じていただけたんだ。わざわざ自分で主張することではないですけど、思ってもらえたら嬉しいです。「VOYAGE CALL」はテーマだからね。今回の(アルバムの)心象風景を持つ曲を必ず1曲(入れたい)と思っていて。歌詞をちょっと入れるか、入れないかはずっと迷ってた。響きってやっぱり音楽の原点なんですよね。言葉がなくても、私は音で感動することがあったしね。Lily Chou-Chouの『呼吸』っていうアルバムの「回復する傷」もそうですね。今回は絶対に入れた方が良いと思って。「VOYAGE CALL」は〈航海に呼びかける〉って意味です。航海の風景だったり、それはインナー・スペースでも良いし、本当に船の上で聴いてもらっても良いし。聴いてくれた人の旅立ちへのはなむけに、って感じはありますね。
ーー:アルバムのリリース後にはツアーが始まりますね。
Salyu:ツアーは4月からですね。まだ考えてないことがいっぱいあるんですけど…。私の場合はCDとライヴは全く違うもので。CDっていうのは過程も見えないしね、実験的なことを提示してみたりするのも1つ、アーティストの役割かなと思っていて。ライヴは普遍的なものでありたい、演奏とヴォーカルのクオリティができるだけ高いもの、音楽の素晴らしさみたいなものを味わっていただけるようなスタンダードなステージを作っていきます。それだけが見えてます。〈旅〉をテーマにしたツアーにはなりますね。「MAIDEN VOYAGE」っていうタイトル、それが今の私のタスキみたいなものだから。ツアーに来ていただいた方に音楽を聴きに行くって良いなって思ってもらえることが、私の毎回の目標ですね。

(2010年2月22日/OORONG-SHAにて)
インタヴュー&構成:秦 理絵(編集部)

『MAIDEN VOYAGE』
salyu-J初回.jpgsalyu-J通常.jpg




トイズファクトリー
発売中
CD
[初回盤]DVD付 TFCC-86323 ¥3,990(税込)
[通常盤]TFCC-86324 ¥3,000(税込)

Salyu、3年ぶりのニュー・アルバム!初回盤は昨年2月に行われた日本武道館でのライヴの模様を完全収録(MC、アンコールも含む全26曲)したDVD付き。3月10日リリースのシングル『新しいYES』と本作初回盤、「Salyu Tour 2010」ツアー・チケットとのトリプル購入者特典あり。

※写真は左が[初回盤]、右が[通常盤]のジャケットです。

【Salyu.jp】www.salyu.jp/

inserted by FC2 system