#72 山下達郎 PART 2 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

山下達郎

オリジナル・アルバムとしては『コージー』以来実に7年ぶりとなる『ソノリテ』が遂にリリース!そこで山下達郎さんにインタビューさせて頂きました。昔と今とのレコーディング手法の違いから、変わったことと変わらないこと、そして音楽を通じた新たな交流まで、『Groovin'』ならではの内容でお届け致します!

(初出『Groovin'』2005年9月25日号)

PART 2

山下達郎-A#72.jpg−−:ケツメイシのRYOさんとのコラボは、どういった経緯で実現したんですか?
山下:松尾潔さんからの紹介で実現したんですけど、松尾くんとは以前からの知り合いで、元々は80年代から90年代にかけてのブラック・ミュージックやヒップ・ホップのエキスパートとしての彼の優れた原稿を目にしてて、その後知り合いになってからは、ブラック・ミュージックを通じての飲み仲間だったんですよ。彼はR&Bが本当に好きで詳しくて、かつ現代の日本のR&Bシーンにも精通している。それで今回誰とやろうかと考えた時に彼に相談したら、即答で「それだったら絶対にケツメイシのRYO君だ」って言ったんですよ。何故かって尋ねたら、ラップというのは基本的に「ストリート・ワイズ」が重要だけど、日本の場合にはそこに「ワイズ」もないといけない。そこで「ストリート・ワイズ」と「ワイズ」のバランスが一番僕に合っているのがRYO君だと言われましてね。不思議なことに、実際にやってみるとRYO君と僕とは声も似てるんですよ。流石に松尾くんと思いましたね。RYO君は僕と20歳違うんだけど、世代の差とか不思議に全然感じなかった。呼ぶものがあるんです。いい人を紹介してもらいましたね。若い人のエネルギーは本当にいいですよ。すごく刺激になる。もっと若い人と一緒にやってみたいなって思いましたよ。
−−:そういう意味ではこの曲も次に繋がる作品になりましたよね。
山下:そうですね。逆に絶対にやりたくないのは、昔の曲をリアレンジしてセルフ・カヴァーするっていう…。他人への提供曲は別ですけどね。ただ、提供曲を自分用にどうアレンジするかっていうのは、実はすごく難しいんですよ。「KISSからはじまるミステリー」はKinKi Kidsへの提供曲ですけど、元々は僕が歌うために作った曲だったんです。オケも本当は自分用だった。曲だけ書いて自分で編曲してない作品だったら比較的楽なんですけど、自分で編曲したものをもう一度編曲し直すのが一番難しい。特にこの曲は自分で歌うことを想定して元々作ってるわけだから、それを壊して違うテイストで再構築するにはどうしようかと思って…。そんな時、データを切り貼りする今どきの手法が助けてくれましたね。だからKinKi Kidsのものとは違うアレンジが出来ました。
−−:あと今作では、「フェニックス」がリミックスされていますが…。
山下:これは元々(ハード・ディスク・レコーダーではなく)磁気テープで録音した曲で、ミックスでのトータル・コンプがちょっときつめだったので、少しスッキリさせてみました。あと「忘れないで」も「フォーエバー・マイン」も、歌のコンプの感じがシングルでは気に入らなかったので、カラオケは元のままですけど、歌はコンプを減らして歌の抑揚を変えました。こういう作業がプロツールスだと簡単に出来るんです。あとリバーブを減らしたりして音像が変わったので、詞の雰囲気もそれでだいぶ変わりましたね。例えば「白いアンブレラ」なんか、「なんちゃってバカラック」って言ってるんですけど、あれも元々もっとリバーブ多めの計画で、今のああいう音像は想定していなかった。でも今だとあの方がいいから、すると音世界が少しコンパクトになるんですよ。
−−:ということは、手順としては曲を書いてアレンジしてそれから詞を書くと。
山下:いつもほとんどその順番ですね。音の世界がある程度構築されてから、それに合う詞を書くんです。「フォーエバー・マイン」とか予めテーマが決まっているものは違う場合もありますけど、基本はそうですね。
−−:今作の中で自分の理想に近いものを挙げるとすれば、どの曲になりますか?
山下:やはり「フォーエバー・マイン」と「マイダス・タッチ」ですかね。「マイダス・タッチ」はサックスの間奏のところを当初はラップにしようと思ってたんですけどね、締め切りで時間がなかったのでああなった。SEのノイズも、最初はどこかのパブで大騒ぎしている感じにしたくて、六本木のパブに行ってテレコで録ってきたんですけどね、うるさすぎて使い物にならなかった(笑)。
−−:逆に難産だったのはどの曲ですか?
山下:「太陽のえくぼ」ですね。詞曲ではなくて録音が。80年代風のこういうリズム構成の曲は、今は難儀しますね。今後の課題です。「ラッキー・ガールに花束を」も、本当は自分でドラム叩いて一人多重サーフィン&ホット・ロッドみたいな感じでやろうと思ったんですけど、なかなか思った感じにならなかったんでドラムマシンにしたんです。今のデジタル録音は、そういう昔の感じだとうまく再現してくれないんですよ。だから大滝(詠一)さんのようなナイアガラのウォール・オブ・サウンドみたいな音を今作るのが、一番難しいんじゃないかな。ちょっと前までと違って、80年代型のエフェクター、ディメンションとか逆相で音を拡げるタイプのものも、今のシステムではいい効果を生まないんで、そういうものを排除したため、ある意味70年代に戻った感じもありますね。
−−:機材は最新でありながら、昔に戻った部分があると。
山下:そうですね。でもこういうことってやって試してみないと分からないですからね。今までデジタル・レコーディングやプロツールスのデメリットの部分を色々言ってきましたけど、もちろんいい部分もあります。とにかく音がいいんです。音さえ作り込んでしまえば、ミックスの時にEQも要らないし。あとはちゃんとバランスを取るだけ。だからアウトボードは使わないので再現性が抜群なんですよ。ノウハウさえ掴んでしまえば、手直しに時間がかからない。
−−:『ソノリテ』の聴き所とは、ズバリどのあたりですか?
山下:変わったところと、変わらないところ、そのコントラストですかね。あとオーディオ的には、今の時代の音をしていると思います。だけど音楽的にはいつものようにトレンドにはあまり寄っていないから、10年後でも通用する音を目指したつもりです。オリジナルとしては12枚目、通算21作目で、今年デビュー30周年ですけど、『ソノリテ』は後ろ向きなところがなくて作れたのが良かったと思いますね。今回の先行シングルも、オファーを受けた時にゼロから作り始めた書き下ろしばかりなんです。だから曲作りのモチベーションやパッションという意味では、『コージー』の頃より上がっています。曲が出来ない時期は、昔からのストック曲の助けを借りることもあるんですけど、今回はそういうのがなかった。
−−:今後特にやりたいことは?
山下:ライヴ・アルバム『JOY 2』を作りたいですね。あとライヴもやらないといけないですし、カンツォーネのアルバムも作りたい(笑)。『オン・ザ・ストリート・コーナー 4』を作ってっていう要望もありますけど、これも今のシステムで出来るのか、研究するのが大変ですよ。技術や機材は変わるもので、でもその時に出来る限りのベストを尽くして研究してそのノウハウを培っておけば、作品を作るときの力になりますからね。あとギタリストで良かったと思いましたね。ギターだけはサンプリングとか他のもので代用出来ないですから、ほとんど全部自分で弾いてますよ。
−−:それでは最後に『Groovin'』の読者へのメッセージをお願い致します。
山下:爆発するとか発散するとか、そういう音楽を作るのが割と難しい時代なので、内省的にコンパクトに、綺麗に繊細に『ソノリテ』は作りました。出来れば夜にヘッドフォンで1人で聴いてみて下さい。そうすれば今作の制作意図が分かってもらえるかなと思います。
−−:今日はどうもありがとうございました。
山下:ありがとうございました。

(2005年8月5日 東京・丸の内にて)
インタヴュー&構成:土橋一夫(編集部)

『ソノリテ』
山下達郎-J#72.jpg



ワーナーミュージック・ジャパン
発売中
CD
[初回限定盤]WPCL-10228
[通常盤]WPCL-10229
¥3,059(税込)

オリジナルとしては7年ぶりとなるアルバムは、KinKi Kidsに提供した「KISSからはじまるミステリー」〈feat. RYO(fromケツメイシ)〉から、映画「東京タワー」でもお馴染みの「FOREVER MINE」、そして「めざましテレビ」テーマソングの「太陽のえくぼ」まで、ヴァラエティに富んだ13曲を収録。新たなレコーディング・システムとの試行錯誤の結果生み出された、21世紀の新たな達郎サウンドがここに完成!

※初回限定盤は豪華紙ジャケット仕様です。

【山下達郎 公式サイト】www.smile-co.jp/tats/

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