#49 竹内まりや of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

竹内まりや

かねてからの念願であったという、60年代の米・英・伊・仏の名曲を集めたカヴァー・アルバム『Longtime Favorites』を完成させた、竹内まりや。アメリカン・ポップスからカンツォーネ、ボサ・ノヴァまで幅広く網羅し、彼女のルーツに触れられる興味深い内容の1枚です。そしてこれを記念して、彼女へのスペシャル・インタヴューが実現!『Longtime Favorites』を通して彼女が感じたこととは…?それでは最後までごゆっくりと、お楽しみ下さい。

(初出『Groovin'』2003年10月25日号)

PART 1

竹内まりや-A#49.jpgーー:ルーツとなる60年代ポップスのカヴァーを、この時期に発表したというのには理由があるんですか。
竹内まりや:この時期であるという必然性があったのかどうかは分からないのですが、山下達郎や服部克久先生のスケジュール調整などを含め、いろいろな要素が上手い具合に合ったということなんです。デビュー・アルバムの中に「すてきなヒットソング」というオールド・ポップスを讃えるオリジナル曲を書いた時から、自分のルーツを歌うというこの企画自体はやりたかったことのひとつで、だけどずっとやれないでいた企画でもあったんです。
ーー:それが実現したわけですね。
竹内:そうです。本当に長い間の念願がやっと叶いました。先程も言いましたが、いろいろな条件がたまたま整ってできた訳です。5、6、7、8月と賞味4ヶ月のレコーディングですから、私としては速いペースで作り上げた作品ですね。前作の『ボナペティ!』は9年かかっていますから(笑)、それを考えると、とても早い。
ーー:武道館ライヴ、前作のアルバム『ボナペティ!』、そして今回の『Longtime Favorites』と、ここのところコンスタントな音楽活動をされているという印象を受けるのですが、何かありましたか。
竹内:綿密な計画を立ててやっているわけではないんです。常に私のアルバム作りは(山下)達郎の体が空いている時間を使ってという感じなので、彼のスケジュール如何なんですよね。ここにきて、子育てが少し一段落したという部分は大きいと思いますけど…。
ーー:子育てが落ち着いてくると、もう一度自分自身を見つめ直す時間などできますよね。
竹内:それは多分、自分の年齢的なところも大きいと思うんですよ。20代だったら振り返る歴史も、そんなにないですからね。それに今年でデビュー25年だったりとか、子供が大学生になったりと、節目になることもたくさんあったので、振り返ってみるという時間は、おのずと出てきたりします。それを意識的にやったのかは分かりませんが、たぶん歌手をやってなかったとしても、振り返ることが多くなる、そういう年齢なのではないでしょうか。
ーー:40代という年齢は、確かにそうですよね。しかも音楽と関わった仕事などをしていると、60年代、70年代の音楽、ポップスという存在と、その時代の音楽の力強さというものに、今だからこそ気づかされるところがありますよね。
竹内:今、自分は何故ここにいて、こういう音楽の仕事をしているのだろうと思った時に、その要素はその時代、60、70年代に確実に育っていたということに、いまさらながら気づくんですよね。意識しているいないに関わらず、自分の血となり肉となっているものが、60年代、70年代に培われたのだということを…。例えば自分でオリジナル曲を書くときも、そういった60年代のオールドスタンダードの要素がおのずと出ているということは、自分にとって密度の濃い時代であり、無関係ではいられないものだというね。
ーー:そういえば前作のアルバムのときに、オールドスタンダードという言葉を使われていたのですが、それ以前には、その言葉は出ていなかったと思うのですが…。
竹内:もともと私は、人から提供していただいた楽曲を歌うという、ヴォーカリストとしてデビューしたわけですよね。そのスタンスで3年ぐらい活動をしていくうちに、だんだん芸能界寄りになっていく活動が自分には合わないと感じ、結婚を機に一度身を引きました。そのころ、本当の自分のオリジナリティーとは何か、自分で自分の言葉を探したい、メロディーを考えたいということを、ものすごく渇望していたんですよ。その時期というのは自分のルーツになっている音楽を再現してみたいというような欲望よりも、自分から生まれる何かを探したいという思いのほうが勝っていた。そういう時期を経て『ヴァラエティ』『リクエスト』『クワイエット・ライフ』を作り、武道館でライヴもやり、『ボナペティ!』も出して、今は自分の中で一区切りがついている時期なのかもしれないですね。だから今、ふと歌いたくなったものが、これ(60年代ポップス)だったのかもしれないですね。
ーー:そういう自分のルーツを再確認する時期が来た、ということですね。
竹内:プラス、直接的な動機づけになったのは、達郎のラジオ番組(「サンデー・ソングブック」)の余興として、洋楽カラオケで歌うコーナーを7〜8年前から始めたことです。一度は歌うことが苦しくなって離れたのに、こんなに歌が楽しい自分って、いったい何なんだろうと思ったんですよ。そういえば、そもそも自分はこういう60年代ポップスを歌うことが好きだったことから始まっていたんだ、ということをだんだん思い出していたんでしょうね。休業をはさんだあとはずっと自分で曲を書き、(山下)達郎にアレンジを頼んで、いろいろな作品を発表できたからこそ、もう一度ルーツに戻れたということは確かですね。それがなかったら今回のアルバムはなかったかもしれないですね。
ーー:今、ちょっとしたカヴァー・ブームになっていて、いろいろなカヴァー・アルバムが発表されているのですが、カヴァー作品というものは、オリジナルがしっかりしているだけに、その楽曲をリスペクトし、なおかつ今という時代に息づかせるということが、大切になってきますよね。
竹内:それは本当にとても難しいですね。やり方によってはただの懐古主義になってしまったり、自己満足で終わってしまったりという…。そうならないカヴァー・アルバムを作るのには最適のアレンジャー(山下達郎)がいたからこそ実現できた企画でもあるわけです。
ーー:ルーツ・ミュージックの60年代ポップス。大好きな歌はたくさんあると思うのですが、そんな中からこの14曲になったというのは、どうしてですか。
竹内:この14曲に至ったというのは、消去法なんですよ。70年代のも、80年代にも好きな曲はいっぱいあるけれど、まずは自分が物心ついて聴いた60年代のものだけに絞ろうと…。その中でも実際に自分が聴いて育ったものという風に絞って、しかもビートルズやバンドものは除外する。ヴォーカリストもので、しかもできるだけ女性ヴォーカリストが歌ったものという風に絞っていたんです。その上日本語ヴァージョンを聴いて育ったものに関しては日本語ヴァージョンで、なおかつ知る人ぞ知るマニアックなものよりも、できるだけ一般的に多くの人が知っている曲を選ぶ。後は歌ってみて、自分の声に合うか、合わないかということも含めて、トライ・アンド・エラーの末にセレクトした14曲なんです。
ーー:60年代にこだわった理由というのは、何ですか。
竹内:そこにやはり自分のすべてのルーツがありますから。まず歌を好きになったきっかけというのが、まさにこの時代のこういったポップスだったので…。もっと大きな衝撃を受けたのはビートルズだったけれど、ビートルズは音楽以上のものだったので…。歌としては、自分が歌詞カードを見ながら単純に歌うことが好きだった、一番最初のものがこれらの60年代ポップスだったという。自分のヴォーカル・スタイルの本当の原点。
ーー:バンドものを除いたという理由は?
竹内:それは自分が女性ヴォーカリストだから。もし自分が男だったら、きっとバンドをやっていただろうし、もしそうだったら、ベースを弾きながら歌ったりしたかったんですよ。だけど女性ヴォーカリストだから、自分の声質にナチュラルに合うものを選びました。ですから、今回のアルバムの曲は、スティーヴ・ローレンスの「悲しきあしおと」以外はすべて女性が歌っている曲なんです。

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