#47 松本隆/風待レコード of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

松本隆/風待レコード

今回は、ご自身で「風待レコード」を立ち上げられた松本隆さんへのスペシャル・インタヴューをお送りいたします。この「風待レコード」では昨年からオーディションを実施し、8月にはキャプテンストライダム、9月にはneuma、そして来年にはノラオンナなど続々リリースが決定しております。個性的なアーティストの発掘と、さらに既存のアーティストやレーベルとのコラボレーションによって音楽シーンに新たな風を吹き込む「風待レコード」について、松本さんご自身と「風待レコード」のA&Rである堀越信哉さんにお話をお伺いしました。では最後までごゆっくりお付き合い下さい。

(初出『Groovin'』2003年10月25日号)

PART 1

松本隆-A#47.jpgーー:まずは今回「風待レコード」を立ち上げられて「風待フラッグ」というライヴ・イヴェントも実施されていますけど、これらを始められての率直なご感想からお伺いしたいのですが…。
松本:(イヴェントは)まだ、実感がないですね(笑)。
ーー:(イヴェントは)現時点で4回やりましたよね。
松本:そうですね、4回やって。
ーー:でもその4回も、キャプテンストライダムが出た渋谷ラ・ママでの2回目と、それ以外の南青山のMANDALAでの3回とでは、客層も全然違いましたよね。
松本:そう、子供と大人っていう感じ(笑)。(「風待フラッグ」Vol.4に出演した)クミコに関しては、3年ぐらい前に『AURA』っていうアルバムを作ったときに、「大人のポップス」って言って…。どっちにしろ段々と子供は少なくなる訳じゃないですか。いつまでも子供ばかりを相手にしてビジネスだけをしていると袋小路に入りますよって、僕は昔から言ってるんですよ。だから少しずつ年齢層を上にスライドさせる音楽があってもいいんじゃないかなっていうことで、クミコの作品をまず作って。「風待レコード」の中に、(上の年齢層に向けた)ノラオンナっていうアーティストを入れた理由は、そこなんです。
ーー:それは完全に上の年齢層に向けて、ということですね。
松本:そうですね。だからMANDALAに来るお客さんは年齢層が高くてもいいんですけど、でもちょっと高すぎるかな(笑)。僕はライヴが終わった後、クミコにそう言ったんだけど(笑)。
ーー:明らかに僕よりかなり上だろうと思われる方が…(笑)。
松本:そう。でもあれはあれでいいんですけどね。50代、60代の方まで来られてますからね。でも、そういう年齢層の人達は今までライヴで音楽聴かなかった訳だから、逆に言うと新しい文化なのかも知れない。そういうところで、年齢層の幅がグラデーションになっていくと思うんですよ。だから青山はちょっと大人向けで、渋谷でのイヴェントはもっと年齢層が低いところでっていう感じでやってますけど。
ーー:しかし、今のお話にあったかなり上の年齢層の方々が、わざわざライヴ・ハウスにまで足を運ばれるっていうのが、今まではほとんどあり得なかったことですよね。
松本:画期的なことですね。それだけでも、僕にとってはニュースだけどね。
ーー:さて「風待レコード」ですが、そもそもこのレーベルを立ち上げようというそのきっかけになった出来事は、何かあったんですか?
松本:やっぱり不景気で、メジャー(なレコード会社)の力が弱ってるんですね。だからものすごく力がある時には、(メジャーなレコード会社の)言うことを聞いてもいいかなって思うんですけど、力のないメーカーって存在意義があるのかなっていうのがまずあって(笑)、簡単に言ってしまうとね。メジャーで扱ってもイニシャル(編集部註:イニシャルとは音楽業界の用語では、簡単に言えばメーカーがCDショップなどから受注した初回オーダーの合計数のこと)が3000枚を割ってしまう…例えば1500枚とかだったら、それはないでしょうみたいな話ですよね。
ーー:最近、あるメジャーから出る新人で、イニシャル360枚っていうのがあったっていう話を聞きましたよ。
松本:それだったら出さない方がいいと思うし、ただそれがもし本当に良い音楽だったら、かえってメジャーから出す必要はないんじゃないかな。だから今までは資本社会で生きてきたんだけど、やっぱり構造改革を進めなくてはいけないと思うんですね。そういう意味でも音楽は常に最先端だからね。はっぴいえんどの時にかなりの構造改革をしたと思うんですけど、でもあれはほとんどわがままで、自分たちの好きなことをやってたら結果的にそういうことになったっていうだけなんだけど(笑)。だからそんなに意図してはなかったんですけど、でも結果的にはそうなったと思うんですね。それが例えば他の業界に比べるとかなり早くやったっていう感じで、映画界になるとまだまだちゃんと回復できていないんじゃないかっていう感じもするし、そういう意味で業界全体の構造を変えてしまうみたいなことができるのが音楽だと思うし、だから今やらないと駄目だなっていうのもありましたね。で、当然そういうことをやると摩擦も起きるから、それは覚悟の上で。
ーー:今までの考え方で新人を出したりレーベルを作るって言うと、まずはメジャーに売り込んで、メジャーと組むっていう発想ありきでしたけど、それを敢えて松本さんがこの時期に見直して、インディーズでという方向性を打ち上げたことだけでも、意義あることだと思いますが。とはいうものの、最近はインディーズ業界自体も飽和状態になってきていて、また商品の流通もメジャーとあまり変わらないという状況が出来て、かなり変化してきましたよね。すると逆にインディーズ自体が持っていた独自性も薄まってきていて、中にはメジャーに行くための前段階だったり、メジャーがインディーズのレーベルを持っていたりということもありますから…。
松本:でも僕のレーベルでのやり方っていうのは、全然今までのインディーズのしきたりに合わせたりしないから…もちろんメジャーのやり方にも。どっちのやり方にも合わせないから。まあそのぐらいのわがままは、名前が許してくれるんじゃないかと自分では思ってるんですけどね。だからそういう意味では「インディーズではそうじゃなくて、こうですから」とか周りから言われても、「はい、そうですか」っていう感じにはならない(笑)。とは言っても僕の場合、喧嘩はしないですから。何とか接点を見つけて上手にやってきた訳だし、これからもやれると。だからメジャーともインディーズとも喧嘩しないで長くやれたら、多分何らかの構造は変えられると思う。やっぱり変わらないと、サヴァイヴァルできないんだよね。今日本で問題になってるのは、全て古い機構が残っていることで、それはバブルの時までは成立していたんだけど、バブルがはじけでお金が無くなった後でも垂れ流しでお金を使うような、そういうシステムは成り立たなくなっているじゃないですか。だから今はお金をなるべく使わずに、小回りが利いて、自由に好きなことをやれる場をまず作らないと、滅亡しちゃうんだよね。コピー・コントロールCDってあるじゃない。僕の友達はあれに反対している人もいるけどね、僕自身はね、実はどうでもいいと思うんですよ。昔からコピーはあるわけで、真似する人たちは真似するんだろうけど、僕はしないっていう考えで。でもやっぱり、コピーしてる人たちには罪悪感もあると思う。後ろめたさが、自分の中にね。そういうものを許容できるかできないか。それは大衆の倫理に関わっている問題で、そういうものに反対も賛成でもない訳でね。ただ倫理っていうのは、突き詰めると「詩」になる。いらないものを切り捨てていく、それから愛とか、生と死とかと関わってくるんだよね。「詩」っていうのはDeathの「死」でもある訳ですし。
ーー:それではこういった問題は、メーカー側がどうするかより、むしろ受け手側がどう捉えるかということですかね?
松本:まあイタチごっこにはなると思うけどね、メーカー側も利潤を上げなくちゃならないから。ただカセット時代からずっとコピーはある訳で、だからCDが売れないっていうことにはならないと思う。それより実際、音楽がつまらない。面白い音楽が少なすぎる。それも1つのレーベルを立ち上げた理由かな。
ーー:実際に今、レーベルも動き始めて、ライヴ・イヴェントも行われてますけど、例えばそういったイヴェントに来られた方や音源をラジオなどで先に聴かれた方からの反響は、いかがですか?
堀越:最初の反響は、実はまだ「風待レコード」の実体が出来る前に、松本さんがNHK FMの番組で1ヶ月間パーソナリティを担当された時に、1日だけ松本さんが選んだインディーズのアーティストの楽曲をオン・エアーする回があったんですね。そのラジオの反響がかなりありましたね。その頃松本さんはちょうど「風待レコード」用に色々な新人のアーティストのライヴを見にライヴ・ハウスに足を運んでいる時で、このうちのどれを「風待レコード」から出すかって決まっていない段階で、選んでデモ・テープの音源とかをかけちゃったんですね、フルでNHKで(笑)。それで広がっていったり、段々とバンドとも深くなっていったり、最初のきっかけはそんな感じでしたね。キャプテンストライダムとかはかなり反響がありましたね。
ーー:その反響は、やはり若い方からが多かったんですか?
堀越:メールなんかで反響が来るので、あまり年齢はその時は分からなかったんですが。あと松本さんのホーム・ページへの書き込みも色々ありましたし、中には「ビートルズ以来の衝撃」っていう誉めすぎのものも(笑)。
ーー:でもそこまでの反響があるっていうのは、嬉しいですよね。
堀越:そうですね。あとミュージシャンの反響というか…それは「風待フラッグ」っていうイヴェントをやることによって、ゲストでハナレグミの永積タカシさんが出てくれて、そこでneumaのドラマーと永積さんが共演して、実はこれが縁でこの夏のハナレグミの野外ツアーにはneumaのドラマーが参加するとか、そういうコラボレーションも生まれたりとか。内外問わず、業界内からも勿論「風待レコード」が始まるということで色々なプレゼンが来ましたし、特にプロダクションからは。
松本:ただ、そんなに数は出せないから、少数精鋭になってきますけどね。
ーー:最初にデモ・テープを募集した際は、一般からがほとんどでしたか?
松本:一般もあったけど、名前のある人もいましたね。2000通。
ーー:2000通ですか!そこから今の3組ですよね。すごい確率ですね。ライヴもその時期に見に行かれたんですね。
松本:やっぱりめぼしいバンドは実際見に行って、聴かないと分からないからね。録音された音源だと、分からないですよね。
ーー:今は宅録で作り込むことができますからね。
松本:そうですね。下手したら、楽器弾けない人が応募することも可能だし。実際、そういう人もいるしね(笑)。

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