#23 竹内まりや PART 2 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

竹内まりや

ベスト盤『インプレッションズ』以来、7年ぶりのアルバム『Bon Appetit!(ボナペティ!)』をリリースした、竹内まりや。大ヒット曲「ロンリー・ウーマン」「カムフラージュ」など5曲のシングル・トラックに新曲を追加した、ベスト盤を超える大充実のオリジナル・アルバムです。そして遂にまりやさんご本人へのインタビューが実現!『Bon Appetit!』についてはもちろんのこと、昔のお話から最近の音楽活動まで、たっぷりと伺ってまいりました。『Groovin'』ならではのスペシャル・インタビュー、最後までごゆっくりお付き合い下さい。

(初出『Groovin'』2001年8月25日号)

PART 2

P2竹内まりや記事用.jpg−−:さて次の「ノスタルジア」、これは弦楽器が入ってますよね。
竹内:弦が入ってます。ベースとかドラムまでもが生になってしまうと、旧態依然としてしまうような曲調なので、基本リズムはシンセなどを使った打ち込みにして、そこに生のストリングスをいれてみよう、ということで。で、それなら服部(克久)先生にお願いしようということになりまして。この曲は98年頃に書いたと記憶してます。3〜4年前に書いてストックとしておいたもので、当時達郎が多少アレンジを施していながら中途で置いておいた曲です。今回あれを完成させよう、ということで引っぱり出してきました。
−−:続いて「Dream Seeker」ですが、これは…。
竹内:いわゆるバンド・サウンドというか…ビートルズの初期みたいな…音数が少なくてギター・サウンドで、なおかつイギリスっぽいコーラスを入れたいなって思って。それでじゃあこれだったら、杉(真理)さんに頼もうっていうことで。
−−:それで杉真理さん、松尾清憲さん、伊豆田洋之さんというメンバーで…。
竹内:そう、ピカデリーサーカスのメンバーを呼んできて。でも達郎の一人多重唱のコーラスがあったり、私の多重唱があったりする中に、こういった異色のコーラスが入ってると、ヴァリエーションが広がるでしょ。コーラス・アレンジも杉さんがやってますね。でもこれを聴いて達郎が、「さすがに、やっぱりイギリスものを聴いてきた人は、声がイギリスしてるよなぁ」ってすごく感心してましたよ。3人が「Ah〜Ah〜」ってハモると、それだけで得も言われぬ空気感が生まれるんですよ。それは、聴いてきた音楽の体験がそういうものを生み出すんでしょうけど。
−−:では次の「Tell me, tell me」ですが、これはシングル「ロンリー・ウーマン」のカップリング曲だったものですよね。
竹内:そう、「ロンリー・ウーマン」が割と軽い感じの歌だったので、ちょっとAOR寄りの16ビートの曲をたまにはやろうかっていうことで。「ロンリー・ウーマン」との対比を考えてちょっと暗めの感じの曲にしたんですけどね。でも80年代頃にはこんなタイプの曲がよくあったのに、最近はこういうアレンジが少ないですね。達郎のああいったギターの音色とか好きなので。私は初めて1人で、多重コーラスをやったんです。ブレスの位置を合わせるとか、あと強さとかね、いわゆる主メロを歌うような声で歌ってしまうとまた違うから、その辺が難しいですね。でも勉強させてもらいました。色々と。
−−:で、「今夜はHearty Party」ですが…。
竹内:94年の『インプレッションズ』で何か1つピリオドを打ったなっていう感じがしてて、自分のベストを出したことによって。で次には、今までに全然やったことのないものをやってみたいなって思っていたところに、ケンタッキーからタイアップのお話があったんです。絵コンテを見て、パーティーを題材にした楽しい曲にしようかなと思い、だったらユーロ・ビートでもやってみようと考えました。その頃たまたま私は「あすなろ白書」というドラマを見て、木村拓哉さんという役者さんは何かすごくいいものがあるなと思ってたら、いつの間にか世の中に"キムタク"という言葉が定着していました。これを歌詞の中に入れることを思いついたのですが、時代を象徴する様な言葉であるが故に、本人が登場することによって、洒落た遊びのニュアンスが加わるのでは、と考えて打診したら、快く引き受けて下さって、あのナレーションとコーラスが実現したんです。案外、彼がコーラスをやってることを知らない人が多くて、今回クレジットを見て「コーラスもやってたんですか?」って言われることが多いですね。貴重なテイクとなりましたね。それから間もなくして、彼が主演のドラマの主題歌を歌うことになって書いたのが「カムフラージュ」。だから木村君繋がりで「今夜はHearty Party」と「カムフラージュ」を続けてみた訳ですけどね。今回木村君のナレーションは、シングル・テイクよりもおまけが入っています。
−−:そして「カムフラージュ」ですが、これはドラマ「眠れる森」の主題歌ということで…。
竹内:これはかなり暗いミステリーっぽいドラマだったので、最初はマイナーな曲調のものを書いて提出したら、「これだとちょっと暗くなりすぎるので、メジャー・コードを使ったバラードをお願いします」というプロデューサーの希望で、書き直したものだったんですよ。でも私にとっては歌手生活20周年だった年に、初めてシングルで1位をもらえた曲だったので、すごく嬉しい思い出になったし、励みにもなった曲です。
−−:そして次の「Winter Lovers」ですが…。
竹内:これは広末涼子さんが出ていたチョコレートのCM曲だったんですけど。冬の景色の中で広末さんが「逢いたい」とか言うナレーションが入っているビデオを見せてもらった時、「冬の恋人たち」というイメージが湧きました。これも達郎がドラムを叩いていますが、深いエコーの感じはやっぱり吉田さんの独壇場ですから、案外作業的には早かったですね。ヨーロッパなんかの汽車が発着する駅の感じが私は好きなんですが、そんなイメージで恋人の男性が列車でクリスマス休暇に帰ってきて、ふたりでひとときを過ごすというストーリーです。
−−:音的には、特にイントロの部分などに達郎さんの「クリスマス・イブ」なんかと共通する感じを受けますよね。伊藤広規さんのベース・ラインも。
竹内:ああ、そうですよね!あとエンジニアが吉田保さんだから、っていうのも大きいですね。あれが違うエンジニアだったらまた違ったものになったのかも知れませんね。あの深いエコーは彼の十八番ですからね。
−−:そして次は「すてきなホリデイ」ですけど、これは初CD化ですよね。
竹内:そうですね。これもケンタッキーのCMソングです。この時は若者のパーティーじゃなくって、ホーム・クリスマスがテーマでした。家族で過ごす、暖かいクリスマス。それならば、古き良きアメリカのスタンダードみたいな匂いのするクリスマス・ソングがいいかなと思い、服部先生にオーケストラ・アレンジしてもらいました。服部先生には古いディズニーのアニメで鳴ってそうなイメージで、と希望をお話して、実際にオーケストラで録ってみたら、これが期待通りでした。
−−:そして「天使のため息」ですが…。
竹内:広末涼子さんの「秘密」という映画の主題歌です。達郎がバロック風のオルガンのフレーズを入れたアレンジをしてくれました。その頃、私がすごく尊敬していたある年上の女性が突然病気で亡くなったんです。彼女が思い残したことや映画のテーマでもある命というものについて考えさせられて、ある種のレクイエムの様な気持ちでこの歌詞をつけました。「秘密」の試写会でラストに涼子ちゃんの切ない表情と共にこの曲が流れてきた時は、いろいろな思いが込み上げてきて、泣いてしまいました。普段、自分の歌に涙するなんてことは絶対ないのに。それで「天使のため息」で終わると少し重いから、もう1曲おまけに軽い曲をということで「A cup of tea」を持ってきたんです。昔から、次にアルバム出す時にはこんな4ビートの短い曲を、と考えていました。
−−:スタジオでのプロデューサーやアレンジャーとしての達郎さんの存在っていうのは、まりやさんから見られてどんな感じなんですか?
竹内:毎回新たな発見や「やっぱりすごいな」って思うことがアルバムを作るたびにありますね。もちろんアレンジや演奏力のある人なんですけど、でも何より彼がヴォーカリストとして歌えるプロデューサーであるっていうことが一番大きい。私よりも遙かにヴォーカルの能力のある人が言うことだから一理ある、だから「もう1テイク、トライさせて頂きます」っていう謙虚な気持ちになれるでしょ。彼が歌えるプロデューサーであることが、今さらながら大きいと思うんですよ。
−−:でも達郎さんも、きっとまりやさんの楽曲をプロデュースなりアレンジされることで、実験している部分っていうのもあるんじゃないですかね?
竹内:あると思う。自分のではやらないけど、私の作品だから出来たっていうことはあるんじゃないかな。それは是非、私を大いに利用して欲しいし、ただそれがデメリットにならないで欲しいと思うのね。彼の音楽世界をこわしてしまうようなものになるといけないので。プラスに作用するんだったらね、すごく嬉しいですけど。
−−:では最後になりましたが、ファンへのメッセージを。
竹内:本当に待っていて下さって、ありがとうございました。いつも通りの私の世界ですけど、お気に召せば嬉しいです。たっぷり召し上がって下さいね。
−−:本日はどうもありがとうございました。
竹内:ありがとうございました。

(2001年7月16日 東京・恵比寿にて)
インタビュー&構成:土橋一夫(編集部)

『Bon Appetit!(ボナペティ!)』
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CD
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCV-10082
¥2,913(税抜)
発売中

待望のニュー・アルバムは、「今夜はHearty Party」から「真夜中のナイチンゲール」までの5大ヒット・シングルを含む大充実盤。プロデュース&アレンジはもちろん山下達郎で、楽曲のクオリティの高さはもちろんのこと、全編に渡ってまりやさんらしい優しさが溢れる素敵な1枚。なお初回盤のみオリジナル・カラオケ・コレクションを収録したボーナスCD付。

『毎日がスペシャル』
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Maxi Single
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCV-10083
¥700(税抜)
9月12日発売

『Bon Appetit!(ボナペティ!)』のトップを飾るこの曲は、フジテレビ系「めざましテレビ」のテーマソングとしてもおなじみ。シングル・カットにあたって、この曲の山下達郎によるリミックス・ヴァージョンやギター・インスト・ヴァージョン、オリジナル・カラオケを追加。

【ワーナーミュージック・ジャパンによる竹内まりや公式ページ】http://wmg.jp/artist/mariya/

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