#14 関 美彦 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

関 美彦

12月6日に初のソロ・アルバム『Five Easy Pieces』をリリースする、シンガー・ソングライターの関 美彦。HOWのベーシストとしても活躍中の彼が放つ心温まる曲の数々は、美しいメロディが大きな魅力。サニーデイ・サービスの曽我部恵一のプロデュースで完成したこのアルバムについて、さらには彼が目指す音楽について色々とお聞きしました。

(初出『Groovin'』2000年11月25日号)

PART 1

関美彦-Aメイン.jpgー:早速この『Five Easy Pieces』を聴かせて頂きました。関さんらしいすごくいいアルバムだと思います。
関:ありがとうございます。
ー:まずは、このアルバムが完成しての関さん自身の率直な感想を聞かせて下さい。
関:何か、自分が撮られた写真を見ているようで、聴いていると照れる感じがちょっとありますね。でも最近になって聴き返してみたら、悪くないかもって感じもしましたが(笑)。録ったすぐ後はすごく照れたっていうか、友達の車の中で聴いていても1曲聴いて「もういいや」っていう感じでしたね。
ー:それって普段のバンド(=HOW)と違って、1人で演っているからっていう部分が大きいんですかね?
関:そうだと思いますね。
ー:バンドで演っているのと、かなり違います?
関:全然違いますね。
ー:それは1人だから、素の部分が出るからとか?
関:そうだと思いますね。全部詞も書いてるし曲も書いてるし、自分でギターも弾いて歌も歌ってますから、それ以下でもそれ以上でもなく、そういった意味で最初は照れちゃいましたね。
ー:で、この『Five Easy Pieces』というタイトルなんですが、僕は見た瞬間に「あっ、ジミー・ウェッブだ」(編集部註:アメリカのシンガー・ソングライターであり、多くのヒット曲を手がけた作家としても有名なジミー・ウェッブが、96年に発表したピアノでの弾き語りアルバムのタイトルが『Ten Easy Pieces』だった)って思ったんですが。
関:そうですね。このアルバムを録ったBS&Tというスタジオにジミー・ウェッブの『Ten Easy Pieces』が置いてあったんです。で、アルバムのタイトル何にする?って(ミディのプロデューサーの)渡邊さんと曽我部君に聞かれて『Five Easy Pieces』って答えて。あと『Five Easy Pieces』っていう映画もあるじゃないですか。それもいい映画なんで、それで。
ー:じゃあ、その両方に引っかけて。
関:そう。でも本当のことを言うと、『Five Easy Pieces』っていう映画はこのアルバム作った時にはまだ見てなかったんですよ。でもタイトルは知っててすごく気に入っていて。でその後ビデオ屋さんに行って借りてきて見たら、結構内容がシンクロしていたんでちょっとビックリしましたが(笑)。
ー:僕はその映画、見たことがないんですが。
関:ジャック・ニコルソンがやさぐれた中年の役で出ていて、鉄工所みたいなところで働いてるんですよ。で元々はその人はクラシックのピアニストを目指してた人なんですけど、水商売の女の人と一緒に暮らしていて、である日親父が危篤になったという知らせがきて、その女の人を連れて実家まで車で長い道程を帰るんです。そこでジャック・ニコルソンがピアノを弾くんですよ。「これは一番簡単なやつだから」とか言って。でジャック・ニコルソンのお姉さん役の人がいて、「でもそれがいいのよ。昔はすごくいいピアノを弾いたじゃない」みたいな話をして。その辺がちょっとだけシンクロするような気がしたんですよ。偶然だったんですけどね。
ー:でもそういうのって、何か呼び寄せるみたいなところがあるのかも知れませんね。
関:そうですね。僕のアルバムは6曲入りなんですけど、バート・バカラックのカヴァーはEasy Piecesじゃないので。ちゃんとした曲なので『Five Easy Pieces』になりました(笑)。(僕の)オリジナルはEasyなんで(笑)。そんな感じです。
ー:このバカラックのカヴァーも入れて6曲ありますが、それぞれの曲についての関さんのセルフ・コメントを頂きたいのですが。まず1曲目の「元気にしてるかい?」。これはいつ頃出来た曲でしたっけ?
関:去年(1999年)の3月です。
ー:僕も実は関さんの弾き語りで2回聴いたことがあるのですが…。
関:渋谷のClub宙でのDJイベントがあって担ぎ出された時に。
ー:あの時が最初でしたっけ?
関:そうです。去年の3月頃。
ー:ちょっと去年のスケジュール表見てみます。……ありました。3月28日ですね。この時が初演だったんですね。ということは、作ったその当時にすぐ演ったという感じですよね。
関:そのイベントに折角弾き語りで呼ばれて出るのに、新曲が1曲もないのはすごく申し訳ないと思ったので。それで作ったんです。
ー:あの時も確かカヴァー演ってましたよね。
関: ネタがなかったもので。「We've Only Just Begun」とか「恋はフェニックス」とか。
ー:そうですね。その辺のカヴァーとオリジナルを混ぜてでしたね。あの時は関さんがギター弾きながら真ん中で歌って、その右側にインスタント・シトロンの片岡知子さんがトイ・ピアノで入って、奥に橋爪さんがベースで入ってっていう編成でしたよね。
関:1人で演るのは心細いんで(笑)。
ー:この「元気にしてるかい?」はどんな時に作った曲なんですか?
関:あー(と言いつつ考える関さん)。
ー:これ見ます?(と言いつつ歌詞カードを差し出す)。
関:いいです(笑)。歌詞を作る時って、すごく切実な対象とかがないと書けなくって。これは前、一緒にバンドをやっていた女の子にあてて書いた曲ですね。
ー:詞が先なんですか?
関:いや、全部曲が先です。
ー:この曲、実はタイトルがなかなか決まらなかったですよね。いつもMCで未定とか、何にも言わないで演っちゃったり。
関:すみません(笑)。でもこれは、インスタント・シトロンの片岡知子さんが付けたんです。
ー:次の「夕陽」なんですが、これは僕は今回初めて聴いたんですが。
関:これは最新の曲ですね。今年の6月とか、その頃に作ったものです。
ー:これも関さんらしい曲ですよね。
関:これ、本当はバンド(=HOW)で演ろうと思って作ったんですが、こっちの(ソロの)レコーディングの方が早かったんで、ここに入れてしまいました。僕は免許持ってないんで運転出来ないんですけど、女の子と鎌倉をドライヴしててハンバーガー屋さんの駐車場があってそこで夕陽を見たんですね。3時頃に横浜で待ち合わせて、夕陽に間に合うかなっていう感じで飛ばしていったら、ちょうどそこで夕陽が海に沈むところで、すごい綺麗だったんですよ。その瞬間を閉じこめてみました。
ー:関さん、ロマンチストですよね。これ、曲的にはどんな感じで作りました?アレンジにもよるんですけど、関さんはいわゆるシャッフル調の曲を作るのが得意ですよね。
関:多いですね。
ー:この曲もいわゆるシャッフル的なリズムが、当てはまると思うんですけど。
関:生涯一シャッフラーで行こうと(笑)。シャッフラーって言わないか(笑)。シャッフルと心中みたいな感じですね。
ー:そして3曲目の「猫」も僕は初めて聴いたんですが。
関:これは、曲自体はもう少し前からあったもので、去年か一昨年ぐらいですかね。以前Butter Fieldというユニットをやっていた後にもう1つ違う女の子とグループを組んでいたことがあって、その時にその子のために作った曲なんですけど。今回は詞を変えて入れてみました。
ー:当時は全然違う詞が付いていたんですか?
関:フランス語の詞が(笑)。その女の子が書いた、いやな感じのお洒落な(笑)。「Kitty Song」とか言ってたんですが。でも「Kitty Song」は英語ですよね。でも詞はフランス語でした。
ー:きっと不思議な曲だったんでしょうね。ではこの詞は最近?
関:今年の5月か6月頃ですね、詞は。今一緒にHOWをやっている仲村有紀ちゃんが猫を飼っていて、そこから。
ー:そして4曲目の「寝台列車」ですが、これは関さんのライヴではファンの間でお馴染みの曲なんですが。
関:これは10年ぐらい前、90年の曲ですね。
ー:関さんはその頃、何してました?
関:Popsicle(関さんと高橋ひろさんを中心としたポップ・バンド)の頃ですね。
ー:この曲は色々なところで演奏されてるんで、思い出も多いんじゃないですか?
関:そうですね。でも作ったのが前なので、どうして作ったのかあまり覚えてないですね。そう『小さな恋のメロディー』っていう映画のラスト・シーンでトロッコに乗っていくシーンがあったんですが、その感じを書きたかったんです。
ー:それを列車に置き換えて、寝台列車というシチュエーションが出てきた訳ですね。
関:はい。でも当時はまだ実体験に基づいたっていう感じでは全然なくて、まだ想像力で作っていた時なんで。
ー:この曲はファンの間ではすごく人気のある曲なんですよね。
関:ファンがいれば、の話ですが(笑)。アンダース&ポンシアの「The Day Turns Me On(The Bufferin Song)」みたいな感じで作ってみました。『アンダース・アンド・ポンシア・レアリティーズ』に入ってましたね。
ー:ファンには是非、その辺も聴き比べてみて欲しいですよね。
関:そうですね。
ー:そして5曲目の「Christmas Song 2001」ですが…。
関:これはButter Fieldっていう、前やってたバンドの曲です。当時は結局CDとかにはならなかったんですが、昔ラジオの番組をやっていた時にハガキを送ってくれたファンのためにスタジオで歌ったヴァージョンが唯一の音源なんですが、そのラジオのカセットをなぜか僕が曽我部(恵一)君の家に居候していたときに偶然持っていて、曽我部君にあげたんですよ。でそこで曽我部君が聴いてくれて、「これ、いいじゃん」みたいな話になって。曽我部君はたぶんButter Fieldは聴いていないと思うんですけど、そこでたぶん曽我部君とファースト・コンタクトが取れたというか、ちょっと気に入ってくれたのではないかなと思うんです。菊地陽子さんという女の子が歌っているんですが。10本ぐらいダビングしたカセットの最後の1本を僕が持ってて、曽我部君の家でかけて。
ー:ということは、ある意味曽我部君との出会いの曲でもあるわけですよね。
関:そうですね。曽我部君のエッセイ(『昨日・今日・明日』)にもそのことが書かれていているんですけど、その曲ですね。
ー:そういう意味でも、すごく思い出深い曲ですね。
関:この曲は本当にそうですね。
ー:これはいつ頃、曽我部君に聴かせたんですか?
関:一昨年の夏ですね。
ー:それが繋がって、今に至ると。
関:そうですね。まあその前から不思議な繋がりがあるんですが、それまでそんなに親しかった訳ではなかったんですよ。Great 3とサニーデイ・サービスが一緒に新宿リキッド・ルームでライヴをやった時があって、その打ち上げの会場でデザイナーの岡田崇君がいて、その頃僕はアパートを追い出された時だったんで、岡田君が曽我部君に「関さんアパートないんだよ」とか軽く言ったんですよ。そうしたら曽我部君の親切心で「だったらうちに来ない?僕はベトナムに行っちゃうんで、その間熱帯魚の餌をやる人がいないので」っていう話になって。それで1ヶ月ぐらい居候してしまったんです。
ー:その辺のお話が『昨日・今日・明日』に素敵に書かれてますよね。じゃあそういう意味では、関さんと曽我部君との繋がりが見える思い出の1曲でもありますよね。
関:そうですね。Butter Fieldをやっててミニ・アルバムを出して、次の作品を作ろうっていう感じの時に、3曲ぐらい入ったカセットを持って菊地さんの家に行ってポストに入れてきたんですが、この曲だけがいいって言われて、そうかって思ったんですけど。そんな曲なのでちょっと思い出深いですね。バート・バカラックみたいな曲を作りたくて。バカラックは曲を作るときに、頭の中に口笛の音が聞こえるって昔のレコードの解説に書いてあったんで、それで口笛っぽい曲を作ろうと思って、それで最初のところは「♪フー フー フフフ フー フー(口笛を吹こうとする関さん)」うまく口笛吹けないんですけど(笑)、口笛で吹けるような短い音を使って…。
ー:わざと短く切るような、音符使いをして。
関:はい、そういう感じで作りました。
ー:ここにもバカラックが生きているんですね。
関:生きてるといいんですけど。
ー:この曲、作ったのはいつ頃でしたっけ?
関:95年の10月とか11月頃。
ー:ということは、Butter Fieldのアルバム(『アーリー・オータム』)を出した後?
関:そうですね。すごい(菊地さんと)仲悪かった頃です(笑)。
ー:そうは見えないですよね、あのラジオ番組の音を聴いた感じでは。
関:ラジオ番組を持ってたんですよ、2人で。あの頃はラジオのためだけに存在していたんで、もう全然合わない。
ー:それは作品的な面で?それとも性格の面で?
関:全て(笑)。ラジオのブースの中だけですよ、仲がいいのは。
ー:そうは見えないですよ。あまりリスナーの夢を壊すのはやめましょう(笑)。でその番組の中でセッションを何曲かやっていて。関さんのギターで菊地さんが歌って、その中でも一際光ってたのがこの「Christmas Song」だったんですよ。多分曽我部君もその辺の感覚に惹かれたんではないでしょうかね。
関:で、今回は黒沢秀樹君がコーラスをやってくれていて、曽我部君もファルセットのコーラスと口笛で参加してくれて。
ー:ファンはその辺もチェックですね。
関:はい、そうですね。
ー:で最後に6曲目の、バート・バカラックの「I'll Never Fall In Love Again」のカヴァーですが。
関:これは弾き語りをやってる時から歌っていた曲で、一番歌いやすかったんで。で、最初の曲順だとこれが1曲目にくるはずだったんですが。
ー:ライヴだとだいたいこの曲が1曲目ですよね。
関:そうですね。歌いやすいんですよね。
ー:いつもこの曲か、「Magical Connection」(編集部註:ラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャンのカヴァー。ピチカート・ファイヴによる日本語ヴァージョンを、関さんはよくライヴでカヴァーしています)ですよね。
関:そうですね。
ー:関さんは色々なところでバカラックが好きだっていうお話をされてますけど、一番好きなバカラック作品はこれなんですか?
関:色々ありますよ。意外なところだと、『失われた地平線』っていうサウンドトラックの「World Is The Circle」っていう曲がすごく好きです。いい曲ですね。あの辺のバカラックの感じ、例えば山下達郎さんとかだと割とR&Bに近い感じの…例えばディオンヌ・ワーウィックとか60年代中盤の曲が好きだと言われることが多いと思うんですけど、どちらかというとイージー・リスニング寄りの曲が僕は好きで。B.J.トーマスの「Everybody's Out Of Town」とか「Raindrops Keep Fallin' On My Head」とか、「Living Together, Growing Together」とか、そういう感じのバカラックが好きですね。
ー:ということはどちらかというと、ソウル寄りっていうよりはミィディアムからスローなナンバーでメロの流れが綺麗なものという感じですよね。
関:あとコード感がすごくいいもの。ポップスというよりも、オーケストラっぽい感じのものが好きですね。でもバカラックって難しくてもすごくよく分かるんで、好きですね。
ー:バカラックって、コード進行がすごく難しいじゃないですか。それは関さんの曲の特徴でもあるんですけど。これはその辺を研究した成果なんですか?
関:研究はしてないですけど。でも前にバート・バカラックの楽譜集を持っていて、それでギターのコードを覚えたっていうところはありますね。
ー:関さんの曲は、ギターでコードを取ろうとすると取れないんですよ。難しくて。黒沢君も最初、困ってましたけどね。
関:でもそういう風になったのは2年前ぐらいからで、ジェイムズ・テイラーのレコードを聴いていてインタビューとか読んで、アコギのコードに拘り始めてからじゃないですかね。ギターのコードでも、例えばA♭のキーでも、オープン・コードで大体全部弾けるんですよ。自分でコード探していけば。ジェイムズ・テイラーは絶対にハイ・コードを使わないっていうのを読んで、いいなと思って。だから逆にハイ・コードを使わないという縛りの中でいいコードを見つけるという。だからバンドでやっちゃうとちょっと違ってくるんですよね。キーがだいたい変わっちゃうし、コードのフォームとかもガンガン変えてやっちゃうんで、この辺はちょっと違うと思うんですが。
ー:弾き語りならではですよね。あとアコースティック・ギター使うからっていうところもありますよね。これエレキ・ギター使うと、どうしてもハイ・コード使いたくなるので。
関:そうですね。アコギだと例えばコードが変わっていっても1弦のEが常に全部のコードの中で綺麗に鳴ってるとか、そういうのが好きでしたね。今はあまり拘りは無いんですけど。こういう曲を作っていたときは、これに拘っていました。
ー:開放弦使うのが好きですよね。
関:開放弦が鳴っていた方が、響きがいいので。G#mとかでも1弦はEなんですよ。
ー:浮かして、空けてるんですね。
関:これだけで押さえるという(と言いながら、押さえ方を見せる関さん)。Aはハイ・コードなんだけど、1弦は押さえない。
ー:下だけ浮かせる訳ですね。
関:はい。そうすると全部Eが鳴るじゃないですか。そうすると綺麗に響くんです。
ー:さすが、そういう技があるんですよね。
関:そういうのを好きでやってました。
ー:コピーしたい人は、その辺も研究してみて下さいね。
関:でも多分(Great 3の)片寄(明人)君とかもそうだと思う。
ー:その拘りが独特の色を作るのに影響してますよね。関さんらしさに。
関:そうだといいんですが。今回のCDは、レコーディングの時に曽我部君に、絶対に声を張らないでくれって言われたんですよ。囁くように歌って欲しいっていうのがあったんで、それだけ気を付けてやってみました。でもそれは結果的に、すごく良かった。
ー:「寝台列車」のキーを下げたのも、その辺からですか?
関:そうですね。小さい声で歌うと逆に音程が取りづらかったり、逆に高いところが出なかったりするんですが、無理なく歌えるキーでということでした。
ー:曽我部君のプロデューサーとしての指示は、他に何かありました?
関:普段やってるようにやってって言われて(笑)。声は張らないでくれって。

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