#12 Cymbals of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

Cymbals

9月21日に2ndアルバム『Mr. Noone Special』をリリースしたばかりのシンバルズ。
早くも各方面から絶賛のこのアルバムについて、メンバー3人が熱く語ってくれました。
このアルバムに込められた思いとは?待望のインタビュー、完全版でお届けします!

(初出『Groovin'』2000年9月25日号)

シンバルズ-A.jpg

PART 1

ーー:今回リリースのアルバム『Mr. Noone Special』を早速聴かせて頂きましたが、本当に良いアルバムですね!
沖井:やった!
土岐:ありがとうございます。
矢野:嬉しい!
ーー:僕は66年…ビートルズが来日した年、もしくはビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』がリリースされた年の生まれなんですが、僕らが中学や高校時代にバンド・ブームがあって、それでJ-POPSもよく聴くようになって、その流れで洋楽も聴くようになったという典型的な世代なんですけど、その辺のリスナーはちょうど80年代から90年代にかけてギター・ポップやネオ・アコとかも聴いていたりして、その辺の音からシンバルズに対して親近感を持ったっていう感じがあるんですが。シンバルズというと今まではこういったサウンドのイメージがあったように思うんですが、今作ではそれがちょっと変わってきていますよね?
沖井:実を言うとですね、シンバルズ自体に80年代のギター・ポップあたりの感じっていうのは、ほぼ無いんですね。まず僕らはあまりそのあたりは聴いてないですし、後追いで勉強のつもりで聴いたことはありますけど、僕のルーツという感じでは入ってこないんですよ。
ーー:沖井さんは、何年生まれでしたっけ?
沖井:69年生まれです。僕は80年代頭とかの頃には、まだ全然ロックに目覚めることが出来ていなくって、本当にビートルズとクラシックしか聴いていなかったんです。高校時代にパンク・ロック…(セックス・)ピストルズと出会うんですよ。そこからピストルズと出会ってから溯って聴いていったんです。その後ブリティッシュ・ビートとかR&Bとか、そんな感じでどんどん溯って聴いていったりして。同時代の音楽で僕が当時影響を受けたのはスタイル・カウンシルで、あとYMOは好きでしたね。特にインディーの最初の頃は、ギター・ポップ感みたいなものをどちらかといえば意図的に出していたところはありましたが、だからルーツではないんですよね。
ーー:あくまでも意図的にそういったサウンドを。
沖井:インディーズが好きな人は、そちらの方が好きですからね。だから(今作は)より素に近くなっている感じがしますね。
ーー:で今作『Mr. Noone Special』ですが、このタイトルはどこから出てきたものなんですか?
沖井:これはですね、前回のアルバム(『That's Entertainment』)に狂言まわしみたいな感じで出てきた男の名前が、Mr. Noone Specialなんですよ。一応名乗ってはいるんだけども、何しろ英語なので。で、対訳でも「名乗るほどのものではございません」としか書いてなかったので、認知度はあまり高くないと思うんですが(笑)。
矢野:クレジットはされてるよね。
沖井:そういう人の名前なんですが、"Noone Special"とは"No One Special"なんです。"No One"を繋げて作った造語なんです。
ーー:"No One"から作った造語なんですね。僕一生懸命辞書とかで調べたんですけど、当然載ってなくて。ちなみに一番近かった言葉に"Nooner"っていう言葉があるんですよ。それが俗語で"昼下がりの情事"とかいう意味で(大笑)。
矢野:(大笑)それが"Special"で(笑)。
ーー:ちょっと"r"が付いただけで、めちゃくちゃな意味になってしまうんですね。それはないよな、とか思いながら。
沖井:それはないですよね、"Nooner Special"は(笑)。
ーー:いつもこういったタイトル選びのアイディアとかは、皆さんで話し合ってとか、誰かがこれがいいって推すとかあるんですか?
沖井:大抵は話し合って作るというよりは、誰かがひらめいてという感じですね。例えば前作に入っていた「RALLY」とかは、土岐が"RALLY"という言葉を思いついてという事だったし、今回の『Mr. Noone Special』とかにしても、ある日僕がシャワー浴びてて思いついた言葉ですし。でもその思いつく時点で、自分の中で当然それはシンバルズとしてOKかどうかっていうのはありますよね。そこで1回自分内審査があって、それからバンドに持ち込むという感じですけどね。
ーー:それでみなさんに話して、OKという感じに…。
土岐:そうですね。
ーー:でもそれでみなさんに反対されて却下、みたいなものもあったんですか?
土岐:ええ、過去にはバンド名だとか(笑)。
ーー:今作の「Hey, Leader!」に出てくる"スパゲッティ・チャーリー"ですね(笑)。
沖井:あれが一番代表的な例かな(笑)。
土岐:そうですね、あとは別に(笑)。
ーー:で、今回の『Mr. Noone Special』ですが、1曲目と12曲目のRepriseの曲タイトルにもなっていますが、1曲目にはゲストでザ・コレクターズの古市コータローさんが参加されてますよね。この辺の参加の経緯は?
沖井:コレクターズがミント・サウンドからアルバムを出していた頃からの、僕はファンなんです。
ーー:じゃあ、例のクリスマス・アルバムとかも…。
沖井:そうですね。それが好きで憧れもあったし、もちろん影響も受けたんですけど。僕らがメジャー・デビューするときに、誰か共演したいミュージシャンとかいる?って(スタッフに)言われて、それで即答でコレクターズと。僕もさんざん影響受けてきた人達なので、その影響を与えてくれた人達と僕らが合わないはずがないと思ったんですが、やはり合いました(笑)。
ーー:ずっと慣れ親しんできたものだけに、この人に弾いてもらえばこうなるっていうのが、ある程度見えていたんじゃないですか?
沖井:デモ・テープの時点では、僕がギター弾いてたりするじゃないですか。で、コータローさんはそのテープを聴いているはずがないのに、(本番で)同じフレーズが出てきたりとかっていうのがあったりして。
ーー:多分今までに好きで聴いてきたものの蓄積で、自分の中に自然のうちにコータローさんのフレーズが出来上がっていたという感じですよね。
沖井:自分の中に沈殿していたんですよね。
ーー:でも沖井さんの思ったとおりのフレーズを弾くコータローさんもすごいですね。
沖井:いかに個性がハッキリしているか、という事でしょうね(笑)。
ーー:コータローさんのギターって、1回聴けば分かりますもんね。コータローさんだって。僕も昔コレクターズが所属していたテイチクにいたので、すごいファンだったんですよ。
沖井:BAIDISレーベルの頃ですよね。この頃の方が個性はハッキリしていた気がしますね。
ーー:初期のミント・サウンドの頃のサウンドをそのままメジャーに持ってきた感じが良かったんですよね。
沖井:よくあれを出したな、テイチクは、って思いましたね。今も好きですけど、当時の作品はバイブルの様に聴いてましたね。
ーー:小里誠さんには、よく色々なところでお会いするんですが。
沖井:小里さんもいい方ですよね。よくベースの事とか、色々教えて頂くんですよ。ホント可愛がってもらってます。
ーー:さてタイトルの話に触れたところで、曲タイトルの話へ。今作の収録曲には「Do You Believe In Magic?」とか「River Deep, Mountain High」といった有名な曲のタイトルや、あるいは「Highway Star」という言葉も出てきますが。この辺にはラヴィン・スプーンフルやアイク&ティナ・ターナーとか、ディープ・パープルとかへのリスペクトとかも含まれているんですか?
沖井:曲の内容に直接反映しているというものではないと思うんですが、意識的にそういう曲の影響を出しているという訳でもないですし。ただやはりリスペクトの気持ちが一番強いし、あと単純にこれがいい言葉だって思うんですよ。「River Deep, Mountain High」にしても、「Do You Believe In Magic?」にしても「Highway Star」にしても。かっこいい言葉じゃないですか。で言葉として既に好きなんですよね。「Do You Believe In Magic?」なんてあのタイトルがピンと来たからこそ出来た曲だし、あのタイトルのお陰で出来た曲なんです。
ーー:タイトルが先に出来た曲。
沖井:そうですね。それは音楽的にだけじゃなくて、言葉の感じとかまでが擦り込まれていて大好きだったから出てきたんだと思うんですけど。だから当然リスペクト、オマージュなんですけど。あと同じタイトルを持つ違う曲が世の中にあるんだという事を知った、例えばラヴィン・スプーンフルを知らない人達とか、フィル・スペクターを知らない人達とかが、(ラヴィン・スプーンフルやアイク&ティナ・ターナーのオリジナルを)見つけて聴いてくれればもっと嬉しいですね。
ーー:そこをきっかけにしてね。
沖井:そうですね。
ーー:沖井さんの音楽の趣味は今のお話でもかなり見えたと思うんですけど、土岐さんはどんな音楽をよく聴かれますか?
土岐:家の中には常に音楽があるような環境だったんですけど、そのせいなのかあまり音楽には執着がなかったというか、逆に自分で探して聴こうというのが、ずっとなかったんですね。で、バンドを始めたのもバンドが面白そうだったからで(笑)、音楽をやりたいとかそういうことよりも、単にバンドというものが面白そうに映ったからなんですね。大学の時も、何となくそういう気持ちでサークルに入ってっていう感じだったんで、特に自分のルーツだと言えるような音楽が、他の2人と違って無いということに、大人になってから気付いたんです(笑)。
ーー:では自分からこれにのめり込んだとか、そういう音楽っていうのはあまりないですか?
土岐:はい、そうですね。
ーー:ということは、逆に沖井さんと矢野さんにとっては、新鮮な部分がありますよね。
矢野:ありますね。
沖井:そうですね。のめり込まないが故の、っていうものがあるじゃないですか。それを僕はすごく頼りにしている部分があって、彼女は僕が作品を作ってメンバーにそれを提示する時の最初のモニターでもある訳じゃないですか。そこでこの音楽にのめり込んでない土岐が、どう反応をするかっていうのは、毎回気になりますね。
ーー:ということは、初めて聴かせたときの土岐さんの反応やファースト・インプレッションがシンバルズにとってすごく大事ですよね。
沖井:最近、そのパターンが読めてきましたけどね(大笑)。
ーー:矢野さんはいかがですか?
矢野:僕は最初、YMOから入りましたね。
ーー:いくつぐらいの時でした?
矢野:小学校4年生でしたね…80年。70年生まれなんですよ。僕は当時は東京にいなかったんですが、「ライディーン」でタケノコ族が踊っているような時代じゃないですか。それを機に当時のニュー・ウェーヴを聴くようになって、高校に入った時ぐらいからルーツ系の音楽…例えば『アビイ・ロード』や『ペット・サウンズ』がCD化されたり、トッド・ラングレンがリイシューされたのが高2〜高3の頃だったので、その辺からですね、いわゆるクラシックなものを聴くようになったのは。だからYMO始まりですね。
ーー:今作にも、YMOの影響がありますよね。よく聴いてみると。
矢野:あるかも知れない。
沖井:あれは若干意図的にやってますが。
ーー:それが面白い部分でもありますよね。でもあの当時のYMOって本当に強烈でしたよね。
沖井:すごかったですよね。
矢野:何か、やることなすことが全て子供にも分かりやすかったですし、それが格好いいものなんだという風潮を浴びせられて過ごした10代だったので。
ーー:あれは当時の10代に、強烈な影響を与えましたよね。
矢野:ああいうものをローティーンの頃に聴けたというのは、すごく財産になってますよね。
ーー:YMOの音ってシンセがあれだけ入っていますし、それ以前のものとは違っていたんですが、むしろヴィジュアル的な見せ方っていう面をすごく考えて提示しているじゃないですか。例えば人民服のファッションから始まって、テクノ・カットとか。ああいうヴィジュアルも含めてトータルで提示していくという形を日本でやった、初めてのバンドという気がするんですが。
矢野:あそこまで徹底してやったというのは、それ以前には僕は知らないですね。
沖井:音だけだとあそこまでのインパクトは生まれないと思うんですね。でもトータルであそこまでやったというのが、YMOの一番素晴らしいことなんですよね。もうYMOと言っただけで、あのイメージが浮かび上がるじゃないですか。音を知らない人でも。それがすごいなって思いますね。
ーー:あのコンセプトは、誰のアイディアですかね。
沖井:細野さんでしょうね。
矢野:そうですね、すごいですよね。1拍子とかもありますよね、ディスコ・ビート加えて。発見なんじゃないかな。
沖井:自分達を記号化するっていうセンス。
矢野:そこに長けていた人達なんじゃないですかね。
沖井:ピストルズなんかもちょっとそういうところがあるし、古くはストーンズにもそういう要素が若干ある。ただ、あそこまで徹底して自分達自身をポップ・アートにしてしまったっていうのは、世界的に見てもYMOが初でしょうね。
ーー:当時は例えばDEVOとか、同じ様な見せ方をするというグループもありましたが、それ以上に強烈でしたよね、僕らには。だからこそ外国でもあれだけ評価されたんでしょうね。また細野さんの面白いところで、その前のティン・パン・アレーとかとは全然違ったところへ行くじゃないですか。はっぴいえんどとも全然違う訳だし。アイディア・マンとしての細野さんには、いつも驚かされますよね。
沖井:思いついちゃったんでしょうね。でもYMOって何かはっぴいえんどの発展形のような気もしますね。ティン・パン・アレーはちょっと違うけど。
矢野:はじめにコンセプトありき、みたいなところがね。
ーー:以前この『Groovin'』で細野さんにインタビューさせて頂いたことがあるんですが、『Hosono Box』発売の時に。その時は初期の頃から最近のデイジー・ワールドのお話までお聞きするはずだったんですが、色々なエピソードが次々出てきて、結局ティン・パン・アレーの中盤ぐらいまでで終わっちゃったんですよ(笑)。YMOまで話が行かなかったという(笑)。一番面白いところが聞けなかった。「この続きは、この次ね。」とか言われちゃって。そのためにも『Hosono Box 2』を出して下さい、ってお願いしてきましたが。
沖井:まさに、この次は「モア・ベターよ!」って(大笑)。
ーー:あと話は戻りますが、今回の『Mr. Noone Special』には初回限定盤と通常盤の2種類があって、限定盤には「"Good-Night"」という曲がボーナス・ソングとして入ってますよね。で、これを聴いて思い出すのが、ビートルズの『ホワイト・アルバム』なんですよ。あれも最後にリンゴの「Good Night」で終わりますよね。あの辺の意識もあったりします?
沖井:ああ、なるほどね。「"Good-Night"」っていうタイトルを付けた時点で、もうあの曲のことは頭にあるじゃないですか。ビートルズと同じように、あちこちのアルバムを巡り巡って、最後に着地する曲として「"Good-Night"」というのがあるということは考えましたね。アルバムのエンディングとしての「Good Night」って、すごく秀逸な曲じゃないですか。特に2枚組のあれだけの分量があるアルバムの最後で。それを好きだっていうことは、多分今回意識した面もあるかも知れないですね。ただ直接的にあの「Good Night」っていう曲へのオマージュというのではないですが。
ーー:むしろ、アルバムの最後を飾る曲としての形式みたいなものに対する思いですかね?
沖井:そうですね。(ビートルズのレコードから)そういうものを擦り込まれちゃっていたという感じですね。
ーー:その辺を分かって聴いてもらえると、嬉しいですよね。
沖井:分かって欲しいですね。

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