#2 山下達郎 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

山下達郎

ひとりア・カペラによるアルバム『ON THE STREET CORNER 3』。山下達郎ファンには、去年のアルバム『COZY』に続くビッグ・プレゼントだ。しかし、彼がたった一人で声をダビングして作り上げた、このワンマン・ア・カペラ・アルバム。達郎ファンだけじゃなく、今年のクリスマス・シーズン用サウンドを探している人にとっても、最高の一枚じゃないだろうか。

(初出『Groovin'』1999年11月25日号)

山下達郎-A#2.jpgーー:『ON THE STREET CORNER』とオリジナル・アルバムはどう違うんですか?
山下:一般的にオリジナル・アルバムとは未発表の楽曲を入れたもの。それに対して、今まで出たことがある他人の曲を歌うことをカバーと言います。『ON THE STREET CORNER』はカバーのアルバムです。しかも僕の場合は、全部英語でア・カペラ(無伴奏コーラス)なんです。しかも、それをひとり多重録音で、全部自分の声で作っている。ワンマン・ア・カペラと自分で勝手につけたんだけど。
ーー:取り上げている曲も、特徴がありますね。
山下:ドゥー・ワップという音楽がありまして、簡単に言うと50年代の黒人のコーラス・グループでいちばん流行った音楽スタイル。ひとりのリード・ボーカルにバック・コーラスがあって、その人たちがドゥーとかワーとか言うからドゥー・ワップという。そういうドゥー・ワップと呼ばれる50年代の音楽を中心に、ロックンロール・クラシックスのレパートリーを、ひとり多重のア・カペラでやってるというコンセプトで、20年前に最初のを作って、13年前に『2』を作った。6年前に『シーズンズ・グリーティングス』という半分ア・カペラのアルバムを作った。だから、6年に1枚くらいなんです。
ーー:どうして、こういうシリーズのを作ったんですか?
山下:僕はいわゆるオールディーズ・ファンで、古い曲が好きだったんですね。とくに好きなのがコーラスで、なかでもいちばん好きなのが、そういう50年代のドゥー・ワップ。それを自分でやりたいと思ったけど、みんな知らなかったんだね。じゃあ、ひとり多重でやろうかって、テープレコーダーを2台用意して、一台で再生しながら一緒に歌うやり方で、高校の時から作ってたの。で、ソロになって78年に全国ツアーをやる時、ドゥー・ワップの曲をひとり多重ア・カペラで作って、ステージでやったら、これがウケたんだね。
ーー:最初はなんの曲をやったんですか?
山下:最初の『ON THE STREET CORNER』に入っている「WIND」。で、ライブをやっていくうちに曲が溜ってきたんで、80年に『RIDE ON TIME』というアルバムが1位をとった時、これは売れている今出すしかない。5年経ったら、もう絶対に出させてもらえないということで出したんですよ。だから会社は反対したよ。こんな誰も知らないような曲しか入っていないマイナーなアルバムはダメだ、しかも、ア・カペラなんて、って。それで、限定盤で出したんです。それが、19年も経って『3』が出せるなんて、夢にも思ってませんでしたからね。幸せな世の中になったなと思ってね。
ーー:でも、このアルバムの後、ア・カペラがブームになりましたね。
山下:とくに一人ア・カペラはね。でも、ア・カペラでいちばん重要なのはなにかといったら、リード・ボーカルなんですよ。リードがつまらないとア・カペラぐらいつまらないものはない。でもね、どれだけ一人多重のテクニックを駆使してるかとか、どれだけハーモニーをつくれるかに気を取られて、リードの方がおざなりな場合が多い。だからつまらないの。僕は、はっきり言って、バックはどうでもいいんだ。リードがすべてだから。すべて、そのために邁進しているからね、リードをやりたくてやってるから。
ーー:なるほど、言われてみればそうですね。
山下:ア・カペラって、オリジナルとケンカするところが面白いんだから。既成曲をア・カペラでやるとどうなるかっていうのがいちばんの醍醐味。だから、なるべく有名な曲が、ホントはいいんだけど、でも僕はオタクだったから、昔はわざと有名な曲をやらなかったんだよね。今回は、「スタンド・バイ・ミー」とか、「恋は曲者」とか有名な曲が入ってるでしょ。「スタンド・バイ・ミー」なんか昔から超有名曲だし、リード・ボーカルがベン・E・キング。勝てるケンカじゃないんですよ。絶対に負けるからやらなかった。
ーー:今回やったのは、どうしてですか?
山下:てらいがなくなったんですよ。歌に対する気負いがなくなったんです。もう46歳だから、上手いも下手もないでしょう、どうしたって、これ以上はいかないんだから。だから、もういいやって。本当は「スタンド・バイ・ミー」は『2』の時に録ったんだけど、ずっとお倉入りしていたストックなの。どうして「スタンド・バイ・ミー」をやったかというと、ストリングスの間奏部分をア・カペラでやりたかったの。でも、歌の部分がむつかしくて、やらなかったんですよ。でも、この歳になれば、べつにいいや、ベン・E・キングと較べられても、甘んじて受けましょう、そういう気持ちですね。
ーー:『ON THE STREET CORNER』シリーズでは初めてオリジナル曲「ラブ・キャン・ゴー・ザ・ディスタンス」が入ってますね。
山下:遠距離恋愛がテーマのCMという話があったから、90年代の曲をカバーしようって探してたの。でも、うまくテーマにあう曲がなくて、じゃあオリジナルを書こうということで。はじめからア・カペラ仕立てで書いたんです。やっぱり99年に出すアルバムだから、コンテンポラリーのテイストをひとつふたつ入れたかったというのもあってね。だから、シングルとしては異色です。だって、ア・カペラの英語のシングルだもの。だから、完全限定盤なんです。

インタヴュー・文/前田祥丈

『ON THE STREET CORNER 3』
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CD
ワーナー・ミュージック
WPCV-10032
発売中
¥2,500

自らライフワークと語るワン・マン・アカペラ・アルバム第3弾。原点に戻りオーソドックスな作りなのが印象的。「スタンド・バイ・ミー」「恋は曲者」といったドゥーワップ・スタンダードから新曲の「ラブ・キャン・ゴー・ザ・ディスタンス」まで、まさに独壇場!

初回限定仕様:カレンダー封入三方背BOX仕様

『LOVE CAN GO THE DISTANCE』
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Maxi Single
ワーナー・ミュージック
WPCV-10060
発売中
¥1,000

NTTコミュニケーションズ TV-CMソングとしておなじみの曲。アカペラだけでドラマティックな世界を作り出す技は、さすが達郎!カップリングの「When You Wish Upon A Star」(星に願いを)はアルバム未収録なので、ファンは要チェックです。完全限定盤。

『Season's Greetings』
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CD
ワーナー・ミュージック
AMCM-4180
発売中
¥2,816

『ON THE STREET CORNER』の姉妹盤ともいえる93年作品。得意のアカペラにオーケストラも加えた、何ともゴージャスな仕上がりは、タイトルどおりクリスマス・シーズンの贈り物にピッタリ。名曲「クリスマス・イヴ」の英語ヴァージョンも聴けます。

【山下達郎 公式サイト】www.smile-co.jp/tats/

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