杉真理 PART 2 of SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

杉真理

今回は大滝詠一さんの『ロング・バケイション』が20th Anniversary Editionで再発ということで、ナイアガラ関係者の中から杉真理さんにインタビューさせて頂きました。杉さんは1982年の『ナイアガラ・トライアングルVol.2』に佐野元春さんと共に参加され、文字通りJ-POPSを支え続けてこられたキー・パーソンとなる方です。今回は『ナイアガラ・トライアングルVol.2』のお話を中心に、色々と大瀧さんとのエピソードやご自身のお話などをお伺いしてきました。最新ソロ・アルバム『POP MUSIC』の話題も含めた興味深いお話満載でお送りするこのスペシャル・インタビュー、どうぞ最後までおつき合い下さい。

(初出:Groovin'別冊『WE LOVE NIAGARA!!』2001年3月21日発行)

PART 2

杉真理2.jpgー:このアルバムが実際に出来上がってきて初めて聴かれたとき、どんな感じがしましたか?想像ついてましたか?
杉:いや、どんな曲順になるかも想像つきませんでしたからね。
ー:この曲順は…。
杉:大瀧さんですね、考えたのは。僕は聴いたとき、僕の一番好きな佐野君らしさが表れていたんでまず嬉しくなって。で、大瀧さんのところでは「ああ、大瀧さんだ!大瀧さんらしいな」っていう感じで。だから楽しくて、でも自分が入っていることがちょっと照れくさかったですね。人のがすごく新鮮に聴こえて、自分のを飛ばして聴いてたかもしれないな。
ー:このアルバムの佐野さんって、その後のソロとはちょっと路線的に違う作品…例えば「マンハッタンブリッヂにたたずんで」とか「週末の恋人たち」みたいな、ちょっとジャジーな曲が入ってますよね。それまではどちらかと言えばこの中の「彼女はデリケート」みたいなロックン・ロールな印象が強かったから…。
杉:本当にポップ・チューンが集まってますよね。
ー:「Bye Bye C-Boy」を入れようと言ったのは、大瀧さんだったんですか?
杉:どうだったかな?なんか3人で話した時に「Bye Bye C-Boy」のドラムについての話題になったのは覚えてますけどね。
ー:ここでこの曲を持ち出してくるのが、面白いですよね。
杉:そうですね。多分佐野君が提出してきたから、ここに入ったんだとは思いますがね。
ー:達郎さんが佐野さんの曲でお好きなのが、この「Bye Bye C-Boy」らしいですね。
杉:そうなんだ。
ー:まさに三者三様で、しかも個性がうまく表されたアルバムですよね。
杉:すごく(中身が)詰まったアルバムですよね。
ー:僕は、佐野さんに関してはこのアルバムを聴いてハマって、それから1stとかを聴いたんで、まさにきっかけになったアルバムでしたね。例えばこのアルバムが完成してから、3人で一緒に何かなされたりっていうことは?
杉:3人でハワイに行きましたね(笑)。ナイアガラ・トライアングルと一緒にハワイに行こうみたいなツアーがあって、ちょうど「A面で恋をして」が資生堂のCMで使われたんで資生堂のキャンペーン・ギャルも何人か来て、あと取材陣も何人か来て。ハワイで3人で雑誌の取材をしたりとか、そんな楽しいハワイ〜マウイ〜オアフ・ツアーがあって。面白かったですよ(笑)。でそのツアーは『ナイアガラ・トライアングルVol.2』が出たばっかりの頃で、後からガーッと盛り上がったんですけど、その時はあまり参加者がいなかったんですよ。「えっ、これだけ」みたいな感じで。あとこれ発表する前に渋谷公会堂で「ヘッドフォン・コンサート」(編集部註:1981年12月3日に行われた、大滝詠一のライヴ)っていうのに出ましたね。2人に1つFMウォークマンが渡されて。で、吉田保さんが演奏してるのを(ミックスして)電波にして送るという。スピーカーからは何も聴こえてこないから、ただ生音のチャラチャラっていうのだけが聴こえてて。だから何も知らないで会場に入ると、生ギターの音とドラムの…しかもドラムはブースがあるんですよ(笑)。遠くから聴こえてくるものが若干あって、で曲が終わると急に拍手だけが起こって。で大瀧さんがマイク立ててしゃべってるんですけど、それも聞こえないじゃないですか。そしてみんなの突然ワーッて笑いが起こったり。
ー:会場に入れなかった人の中には、外でラジカセを持ってきて、そこで電波を拾って聴いていた人もいたみたいですね。
杉:今だったら大変でしょうね。インターネットか何かで。
ー:でも不思議なコンサートですよね。会場に音が出ていないという(笑)。
杉:そうなんですよね。楽しいコンサートでしたよ。
ー:その時は3人で演奏されたりはしたんですか?
杉:「A面で恋をして」をやったかな?やったような気もするな。僕は逆に弾き語りの曲をやっちゃおうと思って、「街で見かけた君」をギター1本でやりましたね。リハーサルも大変そうだったし。佐野君は「Someday」をやったのかな、僕の記憶では。「A面で恋をして」もやったかもしれないな。
ー:でも不思議ですよね。みんなシーンとしてるんですよね。そういう状態でお客さんに向かってライヴをやるっていうのは。
杉:でも楽しかったですよ。
ー:今思い出したんですけど、当時「A面で恋をして」がチャートを上がり始めて、TBSの「ザ・ベストテン」見てたら10何位まで確か上がってきたんですよ。もうすぐベスト10に入りそうなんですよ。それでリクエストを出した覚えがありますよ(笑)。
杉:テレビに出ろって(笑)。
ー:それ以外に公の場に3人で出られたことは、ないんですね?
杉:無かったですね。だいたい大滝さんがライヴやらない方じゃないですか。
ー:そう考えるとあの当時、よく「ヘッドフォン・コンサート」やりましたよね。
杉:そうですよね。
ー:あと先ほどのシングルのB面の「ラストナイト」ですが、これすごく好きな1曲で、曲中の間奏で劇中劇みたいなものが出てきますよね。あのコンセプトって、前から考えられていたものだったんですか?
杉:そう10ccとかが好きで、そういう劇中劇みたいなものが多いじゃないですか10ccとかには。もちろん元を辿ればビートルズとかにもそういう要素はあったりして、そういうものをやりたかったんですよね。で、今でもそういうものは続いているんですよね、僕の中では。ああいう歓声を入れてみたり、SEを入れてみたりするのは好きですね。
ー:例えば『mistone』の頃には…。
杉:もう『mistone』にはSEを入れまくろうと思って、効果音全集とかじゃなくて実際にガラスの割れた音を録ってきて使ったり、カセットで街の音を録ってきて入れたり、そんなようなことを結構やりましたね。で大抵当時は「そんなことをすると今はいいけど、後で飽きるよ」なんてみんなに言われましたけど、全然飽きないですよね。やってよかったって思って(笑)。(まわりの言うことを)聞かないでよかった、っていうのも随分ありますよ。「Nobody」から始まって(笑)。大瀧さんなんかずっとそうなんでしょうね(笑)。大瀧さんはAB型ですし、すごく理詰めなところと思いつきっていうところと両方あって、面白いですよね。
ー:だから『ナイアガラ・トライアングルVol.2』のときも、表面的に聴くとすごくそういう理詰めな部分が見えて来るんですけど、実は思いつきのアイディアも入っていて、それが結果的に全体としてのいいバランスを作っているところもありますよね。
杉:そうですね。だからさっき言ったみたいに、理詰めで作ったものを並べてサイコロで…みたいな。理詰めなんだか偶然なんだか分からないというところが、ね。
ー:そうですね。あとその後の杉さんと大滝さんとの関わりは?
杉:「イエロー・サブマリン音頭」になるのかな?
ー:あれはそれこそ、ナイアガラ・トライアングル総動員みたいな感じでしたよね。
杉:あの時は銀次さんと佐野君と僕が大久保のスタジオに呼ばれて。「一応(「イエロー・サブマリン音頭」は)リヴァプールものだから、リヴァプール関係者集まって」って言われて「どういうことですか?リヴァプール関係者って」みたいな感じで(笑)。で、最後にスタジオで(大瀧さんが)「みんなひとこと言って」っていうんで、僕は「イエロー・サブマリン」のB面が「エリナー・リグビー」だったんでそこに"ファーザー・マッケンジー"っていうのが出てくるから"狭間健二"って叫んだんですけど(笑)。佐野君は"No.9"とか言ってたのかな。銀次さんは潜水艦の艦長さんみたいな感じで。
ー:"魚雷発射用意!"とか叫んでますよね(笑)。
杉:(笑)。
ー:大瀧さんはあの時何やってたんですか?大瀧さん、自分でなかなか謎解きしてくれないんですよ(笑)。
杉:僕はあの声を入れてからすぐ他のスタジオに行くんで出てしまったんで、大瀧さんが何をされたのかは知らないんですが。
ー:そうなんですね。
杉:その後は、何があったかな。まあ、最近では大瀧さんがプロデュースした市川実和子ちゃんのアルバムで曲書かせて頂いたり(編集部註:1999年8月4日発売『Pinup Girl』に収録の「四回目の卒業式」は杉さん作曲です)、コーラスを村田(和人)君とやったり。あとラジオ番組(編集部註:1985年11月30日にJFN系FMで放送された「井上大輔の音楽ってなんだ」という番組の特番「大滝詠一 Winter Wonder Land」)では、「冬のリビエラ」の頃に3人でコントやったんですよ。大瀧さんと僕と太田裕美ちゃんとで。それがおかしくて、おかしくて(笑)。つまらないギャグだったんですけどね。ロシアの寿司屋がどうしたとか。ロシアの質屋は"ぼる"…ボルシチみたいな(笑)。そういうくだらないやつなんですけど。最初は「これホントにやるんですか?」みたいな感じだったんですけど(笑)。それから(コントで)麻雀やってて「お前、積んドラ!」っていうのがあって(笑)。大瀧さんが「お前」って言って、僕が「積んドラ!」って言うんですけど。大滝さんが「お前」って言いながら僕の方こう指差すんですよ。「お前」って(笑)。それがおかしくて僕が「ツン…(大笑)」って大笑いで、僕も大滝さんもおかしくて。それ30分ぐらいやってたんですよ。もう1回やりましょうって。そのうちお互いに顔見られなくなってきて、大瀧さんも壁の方向いて「お前」って言って笑ってしまって。裕美ちゃんなんか「何やってんのよー」って呆れてるんですけどね。僕と大瀧さんとその番組のディレクターだった佐藤(輝夫)さんの3人で、お腹がひきつれるくらい笑って。大瀧さん、多分その「お前、ツンドラ」のネタ持ってると思いますよ。後でいつか使うって言ってましたから。
ー:それって、井上大輔さんがFMで司会されてた番組ですよね。当時大瀧さんが『SNOW TIME』をプロモ盤で作られて、その中の曲をかけながらその合間にコントを挟んでいくという構成の番組で。
筥崎(杉真理マネージャー):インターネットで、ナイアガラ関係のファンの方がそのコントを全部文字起こししてアップしてますよ。男1:杉真理、女1:太田裕美…みたいな感じで。
杉:でもその放送になるまでが、凄かったんですよ。もう笑って、笑って。この前もその市川(実和子)さんの時に大瀧さんと会ってそのコントの話になると、笑いがこみ上げてきてね。
ー:そのコントのネタは、大瀧さんが作られたんですか?
杉:いや、佐藤さんが。あ、あとその後ダブル・オー・レコードがあった時に大瀧さんが(渡辺)満里奈ちゃんをプロデュースしてて、その時に僕も曲を何曲か書いたんですけど結果的には色々あって僕の曲は使われなかったんですが…それを後に須藤薫ちゃんとやるときに使ったりもしてるんですけど、その時に色々大瀧さんと話をしたり、大笑いしたり、そんなことがありましたね。
ー:昔よく銀次さんとも2人でラジオでコントされてましたよね。FM横浜とかで星飛雄馬のネタで「かち割り養成ギブス!」とか言って(笑)。銀次さんが甲子園のかち割り売りっていう設定で出てきて、「かち割りいかがですか〜」とか言ってると杉さんが注文するんですよ。でも銀次さんは全然違うものを受けるという(笑)。銀次さんの『POP FILE』っていう番組でしたね。
杉:あったかも知れない(笑)。FM横浜ですよね。ちょうど松尾(清憲)君が『ポップス泥棒』とかやってた頃ですよね。『ポップス泥棒』でもバカなことやってましたね。
ー:昔、杉さんがFM東京で『POP FIELD』っていう番組をされてた時も、コントやってましたよね。
杉:やってましたね。コージー『POP FIELD』っていう番組だったんですよ。コージーっていう色々なグッズを作っている会社が提供の番組で。あの番組には細野さんとかユーミンとか色々な方がゲストで来てくださったんですけど、ある時お便りが来て「お顔は存じませんが、きっとコージさんってお優しい人で…」って(笑)。コージー『POP FIELD』で、俺はコージじゃないって(大笑)。そういうのがありましたね。この人はもう何ヶ月もコージだって思ってたわけ?(笑)。ビックリしちゃったな、あれは。
ー:あの番組で覚えてるのは、確か年末の放送で忘年会だっていうんで、DREAMERSのメンバーが全員スタジオに来てライヴやってましたね。
杉:ありましたね。『mistone』か『SYMPHONY#10』の頃ですよね。多分1984〜85年ぐらいですね。
ー:「Oh, Candy」と「Dreamin'」演ってましたね。
杉:よく覚えてらっしゃいますね。すっかり忘れてました。
ー:あの時のテープ、どこかにありますよ。実家探せば。
杉:あったら今度聴かせて下さいね。
ー:探して今度持ってきます。杉さんのラジオは、すごく面白くて。そのためにわざわざコント書いたりするんですから。
杉:FM広島で、開局当時に『POP CRUISING』っていう番組をやってたんですよ。大概"POP"が付くんですけどね、僕の番組は。いまだに『POPS A GO-GO』って番組やってますけど(笑)。それで『POP CRUISING』には毎回色んな方がゲストに来てくれたんですけど、ある時たまたま、亡くなった村下(孝蔵)君が来てくれた時にコントを書いて、アシスタントの石井さんっていう女の子と3人でやり出したら面白いっていうことで、それから来る人来る人に毎回コントをその場で書いてやることになって、佐野君なんかもやるし。佐野君はね「何でもやるよ」なんて言ってくれて、ちょうどその時選挙だったので、渋谷で佐野君が街頭演説しているコントを書いて。「渋谷のEverybody、聞いてるかい?」みたいな(笑)。
ー:(大笑)
杉:「僕が当選した暁には、満員電車でヘヴィ・メタかけて、全員総立ちだ」なんて。そんなのをやってくれましたよ。あと浜田省吾君もやってくれましたし、ユーミンももちろんやったし。色んな人がゲストに来て、コントやって帰って行きましたね。
ー:ぜひそのコント集でCD作って、聞きたいですね(笑)。
杉:そのテープ、ありますよ。結構面白いですよ。おかしくて笑って出来なかったコントが2、3あったな。あと本当の役者さんが、例えば藤真利子さんとか出てくれたんで、本物の女優さんと僕がお見合いコントをやるという(笑)。お見合いの席っていう設定で、「あとは若い人同士で」なんていう(笑)。女優さんを相手に。本当は2人とも暴走族だったというオチで(笑)。最初はおとなしくしてるんだけど、だんだんボロが出てくるっていう。でもよく毎週書いてましたね。あれで鍛えられましたよね(笑)。その当時FM広島では、あの番組が聴取率No.1だったんですよ(笑)。終わってからもまたやってくれっていう声が多かったんですけどね。
ー:この辺でちょっとお話を戻しますが、大滝さんの『ロング・バケイション』を、杉さんはいつ頃どういう形でお聴きになられたんですか?
杉:僕がちょうど『Song Writer』っていうアルバムをやってる頃、大滝さんもちょうど(『ロング・バケイション』を)作ってて、で同じソニーだったじゃないですか。最初担当だった須藤薫ちゃんのディレクターの川端薫さんという人を通して、「今(大瀧さんは)こんなのやってるんだよ」っていう感じで「カナリア諸島にて」だったのかな?それを聴かせてもらったらすごく良かったので、驚きましたよね。真剣にやってるというか。
ー:その前が音頭ものでしたからね。驚きましたよね。
杉:おちゃらけを極力排して。そうですよね、その前が音頭でしたからね。本気出したな、みたいな感じでしたね。で、そのあと全部聴いて、これはずっと残るアルバムだと思いましたね。
ー:あのアルバムを当時聴いてすごく影響を受けた人もたくさんいましたし、また例えば毎年夏になるとあのアルバムがチャート・インしてくるっていうことを考えると、若い人が今新たに聴いても影響を与えられるだけのものが、あのアルバムにはあるんですよね。
杉:そうですよね。だから本当に今回リマスタリングしてみんなに聴いてもらうっていうことは、すごくいいことですよね。1人のファンとして嬉しいんで。『ビートルズ1』でまた中学生がビートルズを聴き出しているっていう今の世の中ですから、それこそ変に先入観のない若い人たちに聴くチャンスが出来ると思うんですよ。つまらない音楽しか聴けない、しかも悲しいかな、それが全てだと思っている世代っていうのがあると思うんですよ。こんな言い方をしてしまうとなんですが。そんな世代に風穴を開けてくれる1つのエネルギーを持った、それこそ世代に閉じこめない、いい音楽をその世代に閉じこめちゃいけないんだという大瀧さんから教わったことが、まさしく今度は大瀧さんの音楽から表れてる感じがしますよね。あれを聴いて若い人たちがいいなって思ったら、僕自身も嬉しいし。同じレベルじゃないですか、僕が今例えば新しく出た『ロン・バケ』をドライブしながら聴いてるのと、若い人が今聴くのと。ポップスってすごく平等なものだと思うんですよ。知識があるから偉いとか、歳食ってるから偉いとかいうんじゃなくって。聴くときには知識がゼロの人にも、色々といっぱい知ってる人にも楽しめるのが本当の音楽なんだっていうことを、分からせてくれるぐらいエネルギーを持ったアルバムだから、とても(再発は)嬉しいです。
ー:大瀧さん、『新春放談』で(新作は)あと3年待ってくれなんておっしゃってましたが。
杉:あと3年ということは…。
ー:『EACH TIME』から20周年ですね。
杉:なるほど、楽しみですね。
ー:でも10何年待ってる人にとっては、あと2年も3年もあまり変わらないですからね。
杉:そうですね(笑)。
ー:そういう意味では、杉さんも約8年振りでソロ・アルバムを出されて、それで例えばビートルズを初めて聴いたような女の子が同じ地平線で杉さんの新作を聴くっていうこともあると思うんですが。
杉:それを望んでます。8年振りなんですね。
ー:何やってたんですか?って言われません?(笑)。
杉:何やってたんでしょうね(笑)。色々やってたんですけどね。その間ピカデリーサーカスとか、(須藤)薫ちゃんとかとやってたんで。
ー:そういう意味じゃソロを待ち望んでいたファンも多かったと思うんですが、今回の『POP MUSIC』のレコーディングはいかがでしたか?
杉:すんなりと言えばすんなり、大変だったと言えば、大変だったかな。今回はティーンエイジャーの頃にポール・マッカートニーとかエミット・ローズとか、トッド・ラングレンとか聴いて、デモ・テープっぽいというか、1人で多重録音でやっててフレーズの隅から隅までその人の息がかかっているレコードをいつか作りたいと思っていて。でもそのうちコーラスはアレンジだけ(自分で)して他の人に任せてたりしてたんですけど、今回は自分だけでやろう、自分で多重録音みたいな。コンセプトは多重録音なんです。だからベースも自分で弾こう、ギターも弾こう、リード・ギターも弾いちゃえ、っていうことで。で、スタジオにデジタルのレコーディング機材が新しく入ったんで便利になって、最初に吹き込んだ新鮮さをいつでも呼び出せるじゃないですか。消さないで。だからそういった最初の閃きを大事に出来るデジタルな環境を駆使して、アナログなものを作ろうという事だったんですよ。しかも自分の息のかかったものを。ティーンエイジャーの頃の自分に聴かせたとしても「どうだ、これ。参ったか!」って言えるものを作ろうと思って。めちゃくちゃポップで。でCDは最後まで飽きさせないで聴かせなきゃいけないなって思ったんで、さっきのA面B面ってこともあるし、なるべく3分以内に収めよう、3分の曲は2分半以内に収めようっていう凝縮凝縮っていうことでやってみました。
ー:出来上がった作品を聴かれて、いかがでしたか?
杉:もう思った以上に自分らしいなって思いました。やりたかったことだなって。もちろん反省点はあるんですけど。昔から僕はこんなアルバムを作りたかったんだって。
ー:参加メンバーも、ピカデリーサーカスからBOX関係からDREAMERSまで総動員ですよね。
杉:結局は総動員なんですけど、でも基本的にはそこだけワン・ポイントで出てもらってますね。ここは須藤薫ちゃんじゃなくちゃだめっていうところで1曲だけ出るとか、ここは松尾君とか、ここは小室(和幸)君とか。そういう感じで、あとは僕と嶋田(陽一)君とで全部やっちゃってますね。
ー:そういう意味では、今までのソロ・アルバムとはちょっと違ったアプローチで作られてますよね。
杉:そうですね。これでソロ・アルバムは15枚目ぐらいなんですが、ぼくはバンド志向が強いのであくまでもバンドの人のソロ・アルバムというようなものを作りたかったんで。バラエティに富んだものにもしたかったし、詞に関してもすごく分かりやすいんだけど深いみたいなものにしたかったし、カラフルなものにしたかったですね。
ー:杉さんの特に初期の作品、例えば『STARGAZER』とかの頃ってよく「映画を見ているような」っていう表現を当時の音楽誌でされてましたけど、あれにちょっと近い色合いがしますよね。カラフルな感じが。ここのところピカデリーサーカスとかユニットの活動がメインでしたけど、昨年はソロのライヴもなされてそれでこのアルバムが出て、これからはソロ活動が活発になっていきますよね。
杉:そうですね。でもピカデリーもまだまだチャンスを見てやっていきたいですし、BOXもやりたいですし。
ー:先日、BOXでのライヴもされたんですよね。
杉:そうなんですよ。熱狂のライヴになっちゃって。キャーとか言われちゃって、大変だったんですよ。これはその時の写真なんですけどね。(『POP MUSIC』の裏ジャケを指差しながら)みんな当時のBOXのスーツを着て、オリジナル・メンバーで。やっぱりいいんですよね、パッと集まると。リハーサルの時に「ヒットメーカーの悲劇」なんて、みんなで打ち合わせしてて、で小室君のベースが入った瞬間に「あっBOXだ!」っていう感じがして。みんなメンバー自身がBOXのファンなんですよ。「おっ、BOXだ」ってみんな思いながら演ってたんですよ。楽しかったですよ。
ー:今後のBOXはどうなんですか?
杉:今年からもっとやろうなんて言ってるメンバーもいますんで。色々なことをやろうと思ってます。でも僕にとって大きかったのは、ピカデリーサーカスをやったことで、その分ハードルは高かったんですけど、ピカデリーサーカスをやった後と前が同じじゃ意味がないと思って。気持ちいいんだけど凝った作りとか、そういうところは自分のソロを作る時にしても同じで、アイディアがいっぱい入ってないとやる意味がないと思ってね。
ー:そういう意味では、ピカデリーサーカスで得たものが今回のソロにも繋がっているんですね。
杉:アイディア勝負。メロディやアレンジはもちろんですけど、そこに思いとかアイディアがないと輝かないですよね。
ー:今後のご予定はどんな感じなんですか?
杉:ソロをやりながら、薫ちゃんともやりたいなとも思ってますね。僕のポリシーでは一度組んだバンドは解散しないっていうのがあるんで。でももう1枚ぐらいソロをやってもいいかな。今回欠けた曲とか、あと『フラワーズ』を出した後にアルバム用に書いていて発表していない曲もたくさんあるんですよ。それもいつか日の目を見せたいなって思ってます。その曲は結構ライヴでも演ってるんですが。また新たなユニットっていうのもあるかも知れないですし。
ー:最近のインストア・ライヴでは弾き語りですか?
杉:弾き語りとかカラオケ使う場合もありますね。1人じゃできない曲があって。元々ライヴのことを考えて曲を作ってないですからね。ライヴはライヴのときに考えようって。そうでないとね、面白くないじゃないですか。レコードでしか出来ないことをやってますからね。だからインストアはカラオケとかも使うんですが。
ー:僕は杉さんの弾き語りって、好きなんですよ。
杉:そうですか、僕はそんなに好きじゃないですね、なんてね。そんなことはないですけど、昔は嫌いでしたね。正直言ってあまり弾き語りに関しては自信がないんですけど、本当はね。でも須藤薫ちゃんとインストアやるようになって、すごく勉強になりましたね。今まではCDが出て、知ってる人が集まってくれて「さあ、どうこの曲は?一緒に歌って」っていう感じだったんですけど、インストアだと初めて見る人にも訴えなくちゃならない。思いを込めるというか、そういうことを少しは学んだかな。だから時々CD買ってくれた人にサインなんかするときに、若いカップルなんかが「今日初めて聴いたんですけど、すごく心にグッときました」なんて言ってくれると、嬉しいですよね。
ー:僕なんかイベントでDJするときに、例えばロイ・ウッドの曲の後に杉さんの曲を廻したりするとすごく反応があるんですよ。若い女の子とかに。
杉:嬉しいですね。
ー:「誰ですか、この曲」っていう感じで。それで「これは杉真理さんのこの曲なんですよ」って教えてあげると、「今度探して聴いてみます」って。だからちゃんと聴かせる機会さえ作れれば、逆に若い知らない人の方が素直に入っていけるものなんですよね。
杉:そうなんですよね。もっと自然淘汰されていいと思うんですが、でもそれを拒ませている何かがあることは事実なんですよね。
ー:あと今のヒット曲って打ち込みの音が氾濫していて、リスナーも多少食傷気味になっているんで、そこに手作りの良さみたいなものが表れたいい楽曲を聴かせれば、意外とすんなり心に浸透していくんですよね。
杉:心が毒された人を直すのは大変ですけど、毒されてない人はこれからもどんどん増えてきますし、ミュージシャン自身も僕も含めて毒されやすい状況があるじゃないですか。いつの時代でもそうですけど。またそこは自分との戦いでもあるんですけどね。
ー:だからそういう意味では、全く新しい耳を持って杉さんのアルバムを聴かれる人も多い訳ですから。
杉:杉真理を知らない人にも聴いて欲しいですね。
ー:そのためには、あと何十年も杉さんには頑張って頂かないと。
杉:頑張ります。ところでロイ・ウッドの後に何をかけたんですか?
ー:ロイ・ウッドの「Forever」っていう曲の後で、そう確か「Lonely Girl」でしたね。ところでジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』の再発盤、聴かれましたか?「マイ・スゥイート・ロード」とかは、リマスタリングでかなり感じが変わりましたよね?
杉:聴きました。そうですね、ライナーノーツにも書いてありましたが、今聴くとちょっと大げさな感じがしましたね。リマスターで再発されたジョン・レノンもジョージも、フィル・スペクターのプロデュースですよね。ビートルズと一緒にやってるフィル・スペクターは、僕あまり好きじゃないんですよ。音が厚ぼったくてね。モコモコしててね。確かにあの時代の「マイ・スゥイート・ロード」は、あの音だったんですよね。
ー:でもリマスターであそこまで音が変わるんですね。驚きました。
杉:ジョージ・ハリスンと今度の『ロン・バケ』は、聴き比べると面白いかも知れませんね。かたやフィル・スペクター、かたや大瀧さん。
ー:そうですね。新しい聴き方ですね。
杉:しかも同じ時期に聴けますしね。
ー:そうですね。今日はどうもありがとうございました。
杉:ありがとうございました。

(2001年2月16日/東京・南青山にて)
インタヴュー&構成:土橋一夫(編集部)

杉真理
『POP MUSIC』
POP_MUSIC_J.jpg




CD
OAK Records
OMC-5005
¥2,800(税抜
発売中

杉真理の、前作から8年振りとなる本作は、嶋田陽一、清水淳、小室和幸、藤田哲也、須藤薫、松尾清憲、山本圭右、橋本哲、風祭東といった、The Dreamers〜BOX〜Piccadilly Circusという流れで古くから杉真理に関わってきたメンバーが多数参加。80年代から杉真理を聴いている30代にも、そして最近ビートルズを初めてちゃんと聴いた10代の女の子にも、きっとポップ・ミュージックの素晴らしさを平等に教えてくれる、そんな優れた作品です。時代が移り変わっても決して色褪せない、ポップ・ミュージックの王道がここにあります。

※この商品は、現在は紙ジャケ仕様で再発(OMCA-5028/2,500円 [税込])されております。

佐野元春/杉真理/大滝詠一
『ナイアガラ・トライアングルVOL.2』
TRIANGLE VOL2 20th-J.jpg




CD
Sony Records
SRCL-1662
¥1,456(税抜)
発売中

1982年発表。大滝詠一、佐野元春、杉真理がビートルズを共通項に制作した企画アルバム。『ナイアガラ・トライアングルVOL.1』での山下達郎、伊藤銀次、大滝詠一とはまた違った三者三様のサウンドが楽しめる、魅力溢れる1枚。3人で交互に歌われる「A面で恋をして」は、当時スマッシュ・ヒットを記録しました。本作をきっかけに、ナイアガラ・サウンドにのめり込んだファンも多いはず。



※この商品は、現在は20th Anniversary Editionとして再発(SRCL-5001/2,100円 [税込])されております。

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